ブルガリア研究室

アクセスカウンタ

zoom RSS ブルガリアのエネルギー戦略

<<   作成日時 : 2011/08/01 12:08   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 0

前回の「エネルギーを巡るブルガリアとロシアの対決」の続編です。
 今回は、表題に関して、最近漏洩された在ソフィア米大発公電の内容をほぼ全訳しました。

★米大公電の中身
 本件公電は、2008.10.02付で、在ソフィア米大Nancy McEldowney大使(女性)から、駐EU米代表部のエネルギー部門特別使節Boyden Grey氏宛に送付された電報。
 題名は「ブルガリアとそのエネルギー面でのしがらみ」。

1.総論 
  我々の欧州パートナー諸国は、全てがエネルギー面で困難を抱えているが、ブルガリアの場合特にこれは顕著だ。自前の炭化水素資源をほとんど持っていないブルは、ロシアに、全エネルギーの7割、天然ガスの9割を依存している。
 ブル国は、元々は電力輸出で稼げるほどの大きい発電能力を誇ったが、EU加盟条件として、コズロドゥイ原発の3号機、4号機の閉鎖を命じられ(これに基づくブルの損失は14億ドルに相当)、この故に発電能力、輸出能力が弱体化して、これまでブルからの電力輸入に大きく依存していたセルビア、マケドニア、ギリシャの電力供給を圧迫している。
 
  ブルガリアが困難を極めるのは、ロシアが独占的な供給者であると共に、同時にエネルギー戦略面での独占的なプレーヤーでもあることだ。そもそも米国からのエネルギー問題関連での出張者は、今回の貴殿(Grey氏)が今年初めてであるが、露のプーチン氏は過去10ヶ月の間に、ブル大統領(パルヴァーノフ)、ブル首相(当時はスタニーシェフBSP党首が首相)との間に、この問題に関し、何度も話し合っているのだ。

  もっとも、ブルがロシアのGazprom、Lukoil両社によって牛耳られているのは、単に他に選択肢がないからだ。
  スタニーシェフ首相は最近、South Stream計画(露主導のガスパイプライン計画)を巡る露の戦術は、脅迫にあたると苦情を述べているし、Dimitrovエネルギー相は、心理戦争だと主張した。
  他方で、ブル政府は、Nabucco計画(米主導のガスパイプライン計画)には、トルコによってアゼルバイジャンの天然ガスが人質となる危険性があると危惧している。
  今回ブル政府が、来春(09年4月)にソフィアでエネルギー・サミットを主催すると提唱したこと、すなわち今回の貴殿の出張での対話の原因は、ガス・パイプラインの通過国となる諸国間の調整を触媒すると共に(これは同時に、交渉上のテコとも成りうる)、米国をこの問題により積極的に引き込む(関与させる)ことも狙っている。

2.タイミング   
  ブル政府は、自国の地理的状況を背景に、ブルを「エネルギー・センター」国として、国際社会に売り込みたいと考えている。
ブルのエネルギー戦略への野望は、6つの現役、或いは計画中のパイプラインがこのブル国土を通過すること、Beleneの新原発建設、という二つの方向で、考慮されるべき。
  来春のエネ・サミット開催という構想(右には、既にプーチン氏が出席を約束した)は、上記のようなブルの野望に関わっているのだ。
  貴殿の来訪に際し、ブル政府は、このサミットについて議題と目標に関し、米国の意向を聞きたいと思っている。特に、ブルが参加を既に表明したSouth Stream計画に関する米国の意向。

  なお、Nabucco計画について、米国はブル側の懐疑心を晴らすべきだし、ブルが露エネルギーへの依存から抜け出し得ないとの、諦めに近い考え方を改めさせるべきだ。

3.サミット  
  08年1月19日、South Stream計画への署名式で、パルヴァーノフ大統領は、プーチン氏を傍らに置いて、07年6月のZagreb(クロアチア)でのエネルギー会議のフォロー・アップ会議としてエネ・サミットを開催すると宣言した。
  そして、プーチンが去ると同時に、ブルは国内外からSouth Stream計画に安易に乗っかった旨厳しく批判されている。

  08年7月、ブルはこのエネルギー・サミット案を独自の提案として再提起したが、これは、ブルのNabucco計画支持の立場を示すと同時に、カスピ海、黒海地域に関する欧州、米国、露の利害関係をバランスするため。何れにせよ、6つものパイプが通過する国家として、ブルを地域における「エネルギー・ハブ」国家として、売り出したいというのがブル政府の意向だ。

  今回ブル政府が貴殿の来訪を要請したのは、サミットに関して助言して欲しいから。彼らの計画では、暫定的にサミットは4月24−−25日と予定されている。
  ブル政府(スタニーシェフ政権)は、このサミットで、天然ガスパイプに焦点を当て、種々の計画を調整したい意向である。要するに、資源、ルート、量に関して「現実的な、本当の解決」を図りたい、との意向である。

もちろんブル政府は、09年前半に集中しているエネ・サミット計画の重複も承知していて、1月のハンガリー会議で決着しなかったことをソフィアで取りあげ、4月のソフィア会議に引き継ぐと共に、ソフィア会議でも残された議題をチェコ会議で補足すればよいという考え方だ。
  ブル会議の特徴を出すためには、これまで討議されていない「産業的側面」をソフィア会議で議題とするということも思考されている。

ブルは、ソフィアが指向するEU、米国、露3者の利害を調整するとの役割に関して、米国の意見を求めるかもしれない。
ブル側は、最近のアゼルバイジャン、トルコ、両国の動向に関して貴殿の意見を聞きたがっているし、ソフィア会議への米国からのハイレベルでの参加を要請するであろう。

4.ブルが関与するエネルギー関係の諸計画
(1)SOUTH STREAM計画
 
  本件露主導の計画には、ブルは1月に政府間協定に署名したし、国会も7月にこれを批准した。
  Bulgargaz社とGazprom社との間の交渉は9月に再開された。 
  米大の勧奨に基づき、Bulgargaz社は嫌々ながら、GazpromとのSouth Stream計画に関連する交渉に関し、米法律事務所Paul Hastingsと法務相談契約を締結した。

  9月に、ブル・エネルギーHoldingsという巨大公社が設立され、この結果Bulgargaz社は、公社設立前に保有していた多くの独立性を喪失した。公社の総裁は、エネ省次官のGalina Toshevaで、彼女は、ロシアのブルに対する意図に関し、「健全な懐疑心」を有している。
    (小生注:「健全な懐疑心」という評価、言い方にも見られるように、米大は、ブルガリア国家に対する指南役、父親役であるかのような口ぶりで、世界帝国としての米国外交官らの意識を象徴するような表現ぶりが、この公電からも、紛々と臭う!これも、漏洩公電を読むときの興味深い要素の一つ。)

  トーシェヴァによると、Gazprom社は、この計画を通じて、現在ブル領土を通過するルートに変更を加えたい意向だ。要するに、現在ブル側がトランジット代金として、かなり多額の金を稼いでいる部分を、ショートカットしたいらしいのだ。これは要するに、South Stream計画では、実は新たに310億立米(㎥)が欧州に供給されるのではなく、これよりかなり少ない量の供給しか見込んでいないと言える。
  これは政府間協定の精神に違反するので、ブル政府としては、この案に抵抗していくという。

(2)NABUCCO計画 
  これまでと異なり、ブルは、Nabucco計画については、最近懐疑派に転じているようだ。3月にブルは、アゼルバイジャンと協定を結んだが、これはブルの想定では、Nabucco計画のクオータとして、ア側がブルに10億立米の天然ガスを供給するという約束を意味するとの考え方。
  この前には、ブルは、既存のトルコ→ギリシャ→伊(TGI)パイプラインから、支線を通じて一部のガス供給を配分して貰おうと期待していた。
  結局、上記の協定は、ア側がブルに対して供給を約束する意味を含まないと判明して、ブル側は酷く落胆している。

  このため、ブル政府は現在、より具体的なNabucco計画での供給量、ブルへの供給量、或いはトランジット代金収入などに関する活発な議論を希望している。
  ブル政府は、アゼルバイジャンが本当にNabucco計画のためにガスの供給を約束しているのかどうか、トルコ政府がどの程度この計画を強く支持しているのか、などにつき、米国からの展望を聞きたい意向だ。

(3)TGIとの連結(HOOK-UP)計画 
  ブル政府は、ギリシャ政府と、このトルコ・ギリシャ・イタリア・パイプラインへの支線連結計画に関し、交渉している。
  トーシェヴァによれば、早急にブルが、ガス供給源を多様化するには、既存のトルコ→ギリシャ→伊パイプライン(TGI)から、ブル向けに支線を引くという案にギリシャなどが賛成してくれる必要性がある・・・これがエネ安保面でのブルの利害だ、という。

もちろんギリシャは、TGIには、ガスの供給余力は存在しないと、冷淡だ。ブル側は、ギリシャが、このTGI経由で得ている供給の一部、或いは、露→ブルガリア→ギリシャという既存のルートで得ているガスの一部を、LNG輸入で代替してはどうか、と打診している。
  要するに、ブル側は貴殿に対し、TGIルートでも、少しブルに分け前を供給するという計画にギリシャを説得して欲しい、と要請するかもしれない。

(4)BURGAS-ALEXANDROUPOLIS (BAP) 計画及びAMBO計画 
  08年1月プーチンがブルを往訪し、BAP石油パイプライン会社に対し、ブル、露、ギリシャ3国の株式保有高、などを決める協定が署名された。
   (小生注:ブルガス市は、ブルの黒海沿岸南部の都市。アレクサンドロポーリス市は、エーゲ海沿岸のギリシャ北東部の港湾都市。この両市を直接パイプラインで結べば、トルコのボスフォラス、ダーダネルス両海峡を迂回して、黒海→地中海へと石油を直接輸送できるので、露の石油資本としては、トルコとの紛争、ボスフォラス封鎖などという政治面、安保面での危惧感から解放されうる。)
  その後本件計画推進会社が、登記されたが、その後はほぼ何らの進展も見られていない。

  BAP計画が少しは進展しているので、AMBO(アルバニア→マケドニア→ブルガリア)石油パイプライン計画は後退している。
   (小生注:08年の段階では、BAP計画は進展しているように見えたが、その後の進展はのろい、というか無い。恐らく、ボスフォラスを迂回する新海峡・運河計画などのトルコ側計画などが出現してきており、また他方、米国としてはロシアを黒海に封じ込める戦略からも、ボスフォラス、ダーダネルスを迂回するBAP計画は、元来が好ましいプロジェクトではないのだろう。AMBO計画は、当事者3国が共に貧しいし、山岳地帯が多く、多額の投資資金を捻出できないはずだ。もちろんこの3国だけでは、石油需要もさほど大きくはない。)

(5)BELENE新原発建設計画  
  ベーレネ原発建設計画に関しては、06年ブル政府は、露社AtomstroyExport社を建設請負会社に選んだ。米大としては何度も、露企業を建設請負業者に選べば、ブルのエネルギー資源の対露依存度は縮減され得ないと警告してきたのだがブル政府は警告に従わなかった。
  本件入札に関わる透明性の低さからは、06年12月に予定されるGazprom社との長期天然ガス・トランジット契約再交渉との関連で、本件入札に対して、露側からの圧力があったと思われる。

5.貴殿(Grey氏)の会談予定に関する留意事項
(1)パルヴァーノフ大統領
  パ大統領は07年に再選を果たした(大統領任期は5年)。なお、同人は、05−−09年のBSP政権首相であり、元子分のスタニーシェフに対し、裏からの支配を試みて軋轢を生んだ経緯が想起される。ちなみに、パ大統領はロシアの政治家らと緊密に連絡しており、プーチン氏とは、過去7年間で8回も会談している。
  来春のエネ・サミット主催者は、このパ大統領である。
.

(2)スタニーシェフ首相
  同じBSP党の党員とはいえ、ロシアとの関係が濃いパルヴァーノフに比べ、42歳のスタニーシェフ首相の方は、親西側で、ブルが米国の良き友好国と見られたがっている。
  ス首相は、08年9月30日、1週間の訪米後帰国した。米国では、国務省のBurns次官と会談したほか、Harvard Business Schoolで講演し、更には対ブル投資フォーラムも開催した。
ス首相は、エネルギー面での対露依存が強すぎることを意識しているが、他に選択肢が少ないと感じている。

(3)カルフィン外相
  Kalfin外相は、ス首相にも、パ大統領にも近しい。副首相としては、カは経済エネルギー省を管轄している。
  同人は、ブル・米関係緊密化を支持しているほか、エネルギー問題にも精通している。

(4)ディミートロフ経済エネ相
  Petqr Dimitrov経済エネ相は、エネルギー問題に関しては新参者(素人)で、大臣としての前職者で07年6月に辞職したRumen Ovcharovと相談している(指令を受けている)らしい。オフチャーロフは露のエネ利権を代弁している人物で、上記辞職は汚職スキャンダルの故。

(5)貴殿が焦点を当てるべき分野、議論
  (ア)ブルは、ロシア産石油・ガスのトランジット・パイプラインから得られる利益、或いは露原発エネにのみ依存しない、独自の再生エネとか、石炭ベースだがクリーンな排煙技術を用いるエネ、或いはエネ効率の向上などに関し、長期的戦略を保有すべきだ。

  (イ)ブルが今後も、ある程度は露エネ資源に依存することは避けがたいが、欧州でもっともエネ効率の低い経済を保有する国家としては、露エネ資源からの脱却という方向で、もっと意味あるステップを踏み出しうるはずだ。

  (ウ)現在、エネ価格は史上最高のレベルにあり、この故に、ロシアの炭化水素関連の富から派生する資金がブル経済をも潤している。他方で、これは、ブル国家をロシアからの影響力に弱い、という体質をもたらしている。この故に、ブルは、再生エネとか、エネ効率向上という政策で、ロシアの影響力という否定的要因を緩和(弱体化)すべき。

  (エ)もう一つのブル政府の手段としては、透明性があろう。何らかの産業でハブ的な地位を得るためには、透明で、効率的なサービスを提供しうる場所、ということが欠かせない。
   ブルの野望であるエネ・センターとしての地位は、ロシアとの緊密な関係と言うよりは、エネ取引における、もっとも透明な場所である、という要素こそが重要なのだ、とブル政府に我々は助言すべきだ。
                   (了)

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
ブルガリアのエネルギー戦略 ブルガリア研究室/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる