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zoom RSS 国家の障壁を緩めたら、「負け組」国家群が増えたというEUの教訓

<<   作成日時 : 2012/05/12 10:59   >>

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 5月6日(日)は、欧州諸国で総選挙などが重なって実施され、しかも、多くの選挙で、現職与党が大敗北を喫し、左派系の政党が進出したり(ギリシャ)、仏では、左派系の大統領候補者が当選したりと、これまでの「ユーロ圏」における財政緊縮策強要に対する反動、市民の「耐乏生活拒否」(国家の借金で作った資金で市民生活を守れ、ということ)という反応が顕著に見られた。

 この理由に関しては、色々な分析記事が存在するが、小生が唯一感嘆した、素晴らしい分析記事は、Online diamond紙に掲載された下記の山田厚史氏(元朝日新聞編集委員)の記事である。
 勝手な引用となってしまうが、話がややこしい経済の話なので、どうも部分的な紹介などでは十分説明できないので、ご勘弁願いたい。ともかく、同氏の慧眼には、ただただ驚く他はない。

 日本国は、円という独自通貨を持っていること、その故に、財政悪化の程度では、世界一悪い(日本は政府国債の累積度で、GDPの2倍(200%)に近づいており、主要先進国の100%と言う数字に比べても、極端に悪い)にもかかわらず、何と、世界一強い通貨という幸運に恵まれ、経済破綻とはほど遠い状態だ。国内経済は、成熟国家として、成長率はほぼゼロと低調(小生コメント:これを挽回できる政策は、実はほぼ皆無だ。万年成長論者達に欺かれて、更なる国家の借金積み増しに荷担してはならない)だが、強い通貨を使って外国に工場を建て、或いは最近では、アジア、中南米などの新興国に向けて大銀行がようやく融資を拡大している。強い通貨を活用して、外国市場で金儲けして、国内経済の低迷をカバーするという、かつての英国流の知恵を、ようやく日本国も採用したと言える。

とはいえ、同じく成熟経済の欧州で、今何故ユーロが弱まり、不安定なのか、何故日本、中国などからの対欧州輸出が不振なのか、などの理由は、必ずしも明らかではなかったが、今回の山田氏論文で、初めて、そのカラクリが分かったような気がする。要するに、「弱いユーロという、通貨安の支援を受けて、ドイツ経済(若干の「北部同盟」諸国を含む)が一人勝ちなのだ!」。EU加盟国を含めて、欧州の他の全ての国が、「負け組」となり、不況に喘いでいるというのに、VW社は史上最高益を謳歌し、ドイツ国民は低失業率、好景気の中で繁栄を謳歌している、ということらしい。

 他方で、勤勉性に劣るラテン系諸国などの「南部同盟」諸国は、自国通貨を失っているせいで、通貨切り下げでドイツに対抗するという手段を持たず、故に欧州内で競争力抜群のドイツに生産部門、輸出部門を独占されてしまい、企業倒産、高失業率に喘いでいるのだ。

 自国通貨による国家間格差の調整機能とか、自国国内経済状況に応じた「経済対策、政策採用の自由」とか、要するに経済に対する主権を、ある程度維持しておくことの大切さも、この論文では指摘してくれているように思う。

 ともかく、山田理論( http://diamond.jp/articles/-/18272)をお読み下さい。

★題名:「ユーロの罠」にもがくフランス(5月10日付記事)
1.EUは経済統合から政治分断の季節へ
 フランスとギリシャの選挙結果は、緊縮財政への反発にとどまらない。根源をたどれば共通通貨ユーロという「無理」に行き着く。

 国家を残しながら単一通貨へと突っ走ったEUは、国家間の競争力を調整するという通貨の機能を失い、深刻な「負け組国家」を生むユーロ危機に行き着いた。選挙結果はその反動である。「市場と国家の相克」に苦悶するEUは、経済統合から政治分断の季節へと移ろうとしている。

2.ユーロは「分裂の危機」に見舞われる
 これからの欧州を次の3点で注目したい。

(1)緊縮財政は政治的に難しくなる。
(2)金融緩和圧力が高まる。
(3)ユーロが分裂し「北部同盟」結成か。

 僅差で勝利をつかんだフランス社会党のオランド新大統領は、その任期5年が「統合欧州のリーダー役」と「フランス民衆の叫び」の間で板挟みになるだろう。

 踏み込んでいえば、この5年間にユーロは「分裂の危機」に見舞われるのではないか。フランスは、「北部同盟」としてドイツとともに歩むか、イタリアやスペインと共に「南部同盟」として分離するか、選択を迫られる。

「ユーロ分裂」というと唐突に感じられる読者は少なくないと思う。なぜそんな事態が予測されるのか、以下説明する。

 ギリシャで緊縮財政反対を叫ぶ民衆が波状的にデモを繰り返している時、ドイツではフォルクスワーゲンが史上最高益に潤い、景気は沸騰し、地価高騰が話題になっている。域内の格差を表しているのが失業率だ。ギリシャ21.7%、スペイン24.1%、12ヵ国が二桁の失業率に喘ぐ中で、ドイツは5.6%にとどまっている。

 危機が騒がれるたびにユーロ安が進み、おかげでドイツ製品の競争力が世界で高まるという皮肉な結果さえ起きている。ドイツ車は世界を疾走し、中国などアジア市場でもドイツ製品は日本勢を蹴散らした。

 この「国家間の明暗」こそ、2001年にユーロが共通通貨として出現したことの、分かりやすい成果なのだ。

3.共通通貨が国家間格差を危険水域にまで押し上げた
 単一市場という究極の自由貿易が実現したEUでは、「競争力の支配」が行き渡った。国際競争力のある企業が儲け、強者が潤う。経済合理性がユーロランドの特質で、経済効率が高まれば、域外との競争で優位に立てる、というのが経済統合の触れ込みだった。ところが域内に目を凝らすとドイツ独り勝ちだった。稼いだ黒字を赤字国に貸し付け、またドイツ製品を買ってもらう。それがこの10年の歩みだった。

 正確に言えば、ドイツやベネルクス3国、北欧諸国など欧州北部の国家が「勝ち組」である。勤勉で企業や政府の統治がしっかりしている国々であり、当然の結果ともいえる。

 ギリシャ*、ポルトガル、スペイン、イタリアなどラテン系の国家は、「負け組」となった。貿易で売り負け、国家の赤字がたまり、「勝ち組」が稼いだカネが、融資や国債購入となって還流する、という現象が起きている。ユーロが共通通貨になったことで、為替相場が国際競争力を調節する、という通貨の機能が失われたからだ。(小生注:*ギリシャは、ラテン系ではないが、南欧という共通項がある。)

 ギリシャがユーロに加わらず、自国通貨のドラクマであったなら、外国から嵐のような製品流入が起きれば、ドラクマが安くなり、ドイツの乗用車やフランスのファッション製品など輸入品の価格が上がる。反対に、ギリシャ観光に割安感が生まれ、外国から観光客が増え、オリーブなど農産品も売れて、ギリシャ人の所得は増える。輸入にブレーキがかかり、輸出が伸びると、貿易収支が改善してドラクマの相場は上昇する。

 このように変動相場制を通じて、通貨には国際収支や競争力を調整する機能がある。関税がゼロになっても、自国通貨があるということは、苛烈な国際競争から守ることにつながる。通貨は「国家経済を守る最後の砦」といわれる。

 競争力の調整を放棄した共通通貨は、強者をますます強くし、国家間格差を危険水域に押し上げてしまったのである。

 ユーロと共に欧州中央銀行(ECB)が設立され、金利も一本化された。景気後退に喘ぐ欧州南部と過熱するドイツが同じ金利であることに無理がある

 二桁の失業率に喘ぐ南欧は、金融を緩めてほしい。しかし、景気過熱を心配する北部諸国は、緩めたくない。強者の都合に合わせて金融政策を採れば、弱者が泣く。弱者に配慮すれば、強国の経済に歪みが生ずる。それが欧州の現状である。経済力に大きな差がある地域で共通通貨を流通させることの無理が、はっきり現れたのが今回の事態である。

4.「北部同盟」「南部同盟」、フランスはどちらに入る
 どうすればいいのか。EU内部でユーロを「北部同盟」「南部同盟」の二つに分ける案が「将来の課題」として議論されている、という。

 ユーロ以前からドイツのマルクを基軸に、金融政策で足並みを揃えていたベネルクス3国など北部欧州の結束は固い。EUのコアメンバーともいえる「優等生国家群」を束ねてユーロの中核とする。南欧や東欧の周縁国はこれには入れない。こうしたユーロ体制の再編が密かに構想されている。

 サッカーのJリーグにJ1とJ2があるように、ユーロにE1とE2を併存させるという案だ。

 フランスはどちらに入るのかで、この案はつまずいた。EU創設メンバーとしてはE1だが、地域や経済風土はE2に近い。だが経済合理性は国家のプライドを超えられない。

 ユーロ体制の分裂は統一欧州の後退につながり、敗北のイメージが抜きがたい。南北2分案はお蔵入りになった。だが、現状を続ける限り、国家間格差は広がる。いずれ決断を迫られることになるだろう。

 当初の理想論では、統一市場になれば賃金や土地が安い地域に生産がシフトするなどといわれたが、企業の移転先はハンガリーやポーランドなど東欧に多く、南欧は取り残された。

 国家が窮乏し、緊縮財政で行政サービスの質が落ちると、自国に見切りをつけて外国に移住する人が増える。仕事を求めて人が移動することは、市場経済の世界では当たり前のことだが、国家という枠組みがあると「国を捨てる人」が増えるのは、主権国家として穏やかなことではない。

 日本でも東京と沖縄では失業率も異なるし、経済格差もある。地域格差の調整は、地方交付税交付金や補助金、公共事業の配分などで行われるが、同じ国民という一体感が、税金再配分のサジ加減を容認している。EUにも地域格差を調整する財政配分はあるが、国としての一体感はなく、よその国に税金を配分することに抵抗が強い。

 日本における東京の役割がドイツだ。都民は東京が稼いだカネを地方に配分することに大きな抵抗を感じていない。都民である前に、日本人だからであるドイツ人は、ヨーロピアンである前に、ドイツ人なのだ。ラテンの人々と一体感を持つ歴史的背景も乏しい。公務員天国で税金もまともに払っていないギリシャ人に、なぜ自分たちの血税を注ぐのか、納得がいかないのである。

5.矛盾解決には国家の解体しかないが……
 経済も企業活動も、いまや国家の枠をこえているが、人の思考には国家が濃厚に残っている。

 政治や行政は依然として「国民国家」という制度の上で営まれている。EUは「国家と市場の相克」に苦悶している。人の心、伝統、祖国などの価値観を経済合理主義で超えることができるか、という課題でもある。

 この矛盾を解消するには国家の解体を進めるしかない。ユーロの導入はその一里塚で、財政協定の強化は、国家主権を制約する道具である。欧州国家への一里塚だ。ドイツはその方向に邁進する。統一の旗を振ってきたフランスの後ろにぴたりと付いていたドイツが、EUの覇者になろうとする野心が見えてきた。周縁国の民意は複雑だ。

「緊縮財政」への反発には、行政サービスの低下への懸念だけでなく、国家の外からの意思によって、不愉快な政策を強いられることへの鬱憤が潜んでいるように思える。ドイツの影がちらつく。

 リーダーであったはずのフランスまで腰が引けている。ドイツの言いなりになっていいのか、と。メルケル首相に主導権を奪われたサルコジ大統領への反発もある。

 緊縮財政という苦い薬に耐えられないフランスの民意は「成長」に活路を求めた。だが、成長の手だてを見出せないのは、先進国に共通する課題だ。
    (小生コメント:小生が一昨年あたりから強調してきたように、現在の成熟国家における不況の原因は、グローバリズム経済の進展による、新興国と先進国の間の格差縮小、国際的な生活水準平準化への動きだから、日本国内で景気対策とか成長路線を採っても、結局は国債乱発、借金の積み増ししか起きず、何らの成長要因にはならない。
   各家庭に、家電製品も、乗用車もそろっているような先進国では、せいぜい買いたいものは、新型のスマートホンくらいでしかない。衣類も、益々、低価格ブランドで満足できる時代だ。
   消費が増えない国の経済が、再度高度成長などするはずがない。新興国では、家の中が未だに空っぽだから消費が増え、成長があるのだ。
   だから、小渕元総理が悩んだ末に「借金王」を決意したことが間違っていた。そのツケで、今のような国債の過度の累積がある!緊縮財政しか、日本では採用できる政策はあり得ないではないか!)


 フランスでもギリシャでも極右政党の台頭が選挙ではっきりした。失業や生活苦へのいらだちは、分りやすい敵を作る排外主義に結びつきやすい。

 国境を越えるグローバリズムは、勝ち組と負け組を分かりやすく峻別する。勝ち組国家の中にも、また勝ち組と負け組が存在し、鬱憤の種は広く撒かれる。経済の暗転が鬱憤に怒りの火をつける。日本も他人事ではない。
               (了)

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暴走世論という世界共通の課題
またもや、山田厚史氏の、世界のテーマを独特の歴史的慧眼にて切り取るような論文を発見したので、勝手な引用となるが、下記にご紹介したい。前回の本ブログでの引用は、、ユーロ圏の問題点をきれいに分析した文章だった( http://79909040.at.webry.info/201205/article_2.html、を参照)。 ...続きを見る
ブルガリア研究室
2012/10/25 17:37

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コメント(6件)

内 容 ニックネーム/日時
こんばんは。

 海外在住体験もなく、欧州事情に疎い私ですが、山田厚史氏による記事を興味深く拝読致しました。EUの経済統合でトクをしたのがドイツなどの「北部同盟」だったというのも納得です。対照的に地中海諸国の「南部同盟」は“負け組”。自国通貨に拘った英国も大陸の巻き添えを食わなかったから、やはり欧州と距離を置いた英国の政治家は賢明でした。

 フランスが今後どうなるのかは不明ですが、日本の消費税値上げも波乱がありそうですね。私はこれはやむを得ないと思いますが、削るところは削ってほしいと言いたくなる。マスコミでは今年夏の電力不足を訴えていますが、ТV放送時間はいったい何ですか?衛星放送など、国営、民間問わず午前4時頃まで放送している!コンビニも某大手の名の通り7時から23時まででよいと思います。

「失業や生活苦へのいらだちは、分りやすい敵を作る排外主義に結びつきやすい」には同感です。この手の排外主義ではまず狙われるのは異国人よりも、彼らの支援者と思われる同国人というのも、歴史上で繰り返された出来事ではないでしょうか。
mugi
2012/05/14 21:49
こんばんわ!

 北ヨーロッパは南ヨーロッパに比べて経済競争力が強く今後、ドイツ・オランダ・北欧という北ヨーロッパは共通通貨の元に統合され、フランスを含む南ヨーロッパは別の弱い共通通貨の元に統合されるのではないでしょうか。それはヨーロッパの南北分裂です。
 
 やがて北ヨーロッパは先進国の地位を維持し、南ヨーロッパは先進国から脱落するかと。それには経済力低下に見合った国民の生活水準低下が必要ですが、デモ・ストライキが相次ぎ、国民に生活水準低下を納得させることが困難。
 
 経済危機でユーロは下落しており、ドイツはユーロ安もあって膨大な貿易黒字を得ています。これに対して、南ヨーロッパは輸出競争力のある製品が、観光とワインとブランド製品ぐらい。巨大な経済差故に、崩壊が始まったようです。 
http://www.youtube.com/watch?v=IpNguFRzMcA&feature=related
http://www.youtube.com/watch?v=HHWBL9_alKs
Alex
2012/05/14 23:54
mugiさんこんにちは、
 山田厚史氏の論文を勝手に引用、転載して、申し訳ないけど、あまりに見事な分析なので、要約とかする気がしませんでした。同じような内容の解説は、昨日買ってきた週刊ポストにも掲載されているけど、やはり切れが違う。
 しかし、ユーロを北のE1と南のE2に分けても、やはりE2内部の格差で、同じような「負け組」がまたもや出現する可能性もある。
 ちなみに、ブルの場合は、ユーロへの固定ペグ制を採用していて、1Lev=約1/2ユーロとしているけど、一応別の通貨と言うことで、かなり悪影響を免れている。もっとも、実際には、EU圏内でも、ほぼ一番厳しいほどの財政規律を維持しているから、固定相場を守っていけるとも言える。11年度の財政赤字は、GDP比2%ほどだし、EU圏でも随一と言えるほど「観光のコストが安く、12年度も、欧州地域からの観光客増大」が見込めます。農業も相当生産力を回復したようで、食糧にも困っていないし、ワイン製造も上向きです。とはいえ、南欧諸国と同じく、観光、農業、ワインしか優位性のある産業が存在しないという、共通の悩みも抱えている。
 IT産業の「頭脳センター」をブルに誘致しようと必死ですが、どうなるか。
 EU圏の好況時には、ブルの観光地に作ったコンドミアムという不動産を、英国人、アイルランド人、などに売りつけ、儲けましたが、今ブルの黒海、或いはスキー場近くのコンド(マンション)を買ってくれるのは、ロシア人しかいません。不動産不況です。
室長
2012/05/15 11:36
(続)
ボリーソフ首相は、EU本部から資金援助を引き出しては、国内の高速道路建設(というか、社会主義時代の舗装品質の悪い幹線道路の改修、近代化)に邁進しています。今年末までに、対ルーマニアドナウ川の大2架橋も、西北部のVidin県に完成して、ハンガリー、ドイツへの高速道路が、より整備され、セルビア迂回経路が改善されます。これも、ブル経済にとっては、大きなバックアップ効果となるでしょう。
 しかし、そもそも、ブル国内で、当面頼れるのは、タバコ産業(シガレット生産)の再興ではないかと思う。ブル・タバコへの需要が多いロシア企業が、昨年(11年)に、ブル国営タバコ工場を買収したので、最近の報道では、台湾などへのブル・タバコの輸出攻勢をかけているようです。外資だよりの国内工業の再建しか、当面有効な手段はない、というのが現状下も。
室長
2012/05/15 11:37
Alexさん、こんにちは、
 ブルの歴史を勉強してみると、オスマン帝国が相対的に衰退していた19世紀の前半に、ブルの山間部に所在したブル人居住の小都市群が、手工業段階ながら、オスマン帝国が軍隊の近代化で採用した、新軍の制服とか、マントとか、ナイフなどの生産規模を拡大して、潤いました。帝都イスタンブールに近い立地条件故に、ブルで生産された羊、山羊なども、生きたままイスタンブール、或いはエディルネ(オスマンの第2の都で、現在のブル南東部国境に近い町。ブル語では、Odrin)まで羊の群れを引っ張っていって、現地で屠殺、食肉として売り、儲けました。
  これら家畜は、ドブルジャ地方(穀物生産が盛んな現在のドブリッチ県、ブル東北部)で育成されましたが、その育成資本、或いは、エディルネ、イスタンブールまでの運搬(生きた羊、山羊の群れを追っていく)は、Sliven県北部のKotel町(やはり、バルカン山脈の中の小盆地にできたブル人のみが居住する小都市)の農業資本家達です。
 また、今はソフィア県東部にある、やはり山間の小盆地に所在するKoprivshtitsa(コプリーフシュティツァ、という発音しにくい町の名前)町でも、絨毯製造などの手工業が栄え、小アジア半島にも売っていました。
 山間部の、ブル人のみが住む小都市に、手工業、農業などを専門とする、小ブルジョアが発生し、オスマン帝国の各地(主として帝都と小アジア)に、或いは、ロシアのOdessa市に商館(ギリシャ商館と呼ばれた)を設置して、ブル商品を売り込んでいました。有名なバラ油(香水原料)も、ブルの特産品でした。
室長
2012/05/15 12:07
(続)
 社会主義時代には、ブルからソ連圏への輸出品は、シガレットとワインが一番有名ですが、その他にも、コメコン分業体制で、ブルが独占を許されたフォークリフト、蓄電池、コンピュータ用のメモリー機器などを輸出したし、黒海の観光地も、ソ連、東独、ポーランド、チェッコなどからの観光客でにぎわいました。
 とはいえ、新しい時代における旧共産圏のブルが、新しい、競争力のある産業を構築するのは、必ずしも容易ではありません。
 南北格差を手っ取り早く埋め合わせるには、国内に就職口がない以上、ドイツ、英国、スペイン、イタリアなど、各国に、「移動の自由権」を行使して、「移民」して稼ぐことです。即ち、ドイツ、その他の北部同盟国は、バルカン半島からの安価で、よく教育された「安い労働力」を、自国の企業で、選択的に雇用して、益々国際競争力を高めることが出来ます。南北格差の縮減は、むしろ開放経済の方が、遅くなるのかも知れません。
室長
2012/05/15 12:08

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