日本では、ユダヤ人について、非常に極端なイメージがあるらしい。皆が、エリートの天才的頭脳の持ち主で、会社のオーナーで、或いは、富裕な自由業者、例えば俳優とか歌手とか、映画製作者だったり、新聞記者、医師、弁護士、などなど。つまり、経済危機に翻弄され、その日の生活にも困るような人々は、想像すら出来ないらしい。 しかし、現実には、ユダヤ人とはいえ、大部分のユダヤ人社会の成員達は、普通の凡才で、普通の市民なのだ。 そして、在ブルガリアのユダヤ人社会は、今回のギリシャ金融危機に発する欧州経済不況のまっただ中で、これまで確かな収入を得ていたIT技術者ですら、首を切られて突如失業者となり、毎月の住宅ローンの返済資金に行き詰まり、銀行によって、家から追い立てられている。そう言う苦境に陥り、「新貧困層」へと転落したと言う。 本件記事は、そう言った在ブルガリアユダヤ人コミュニティーの困窮に喘ぐ人々に支援金を送ろう、寄付金を出しましょう、という感じの、米国セント・ルイス市にある、ユダヤ人コミュニティー紙の記事の転載である。 (http://www.novinite.com/view_news.php?id=139674、筆者:Dianna Cahn、元のセント・ルイス市新聞名:St. Louis Jewish Light)。 ともかく、小生としては、社会主義時代に5000名ほどと言われていた、在ブル・ユダヤ人社会は、自由化後に、相当数がイスラエル、或いは米国へ移民したので、今では更に人数が減ったと思っていたのだが、この記事によれば、約7千名が未だにブル在住と知って驚いた。しかも今では首都ソフィアに、ユダヤ人学校すら運営されているらしいのも驚きだ。 この記事は、ある意味寄付を勧誘する意図もあるから、生活苦を強調しすぎで、本当は在ブル・ユダヤ人の皆がこれほど困っているのではないのかも知れないが、それにしても、我々が考える富裕なユダヤ人、と言うイメージを覆してくれることは確実だ。 1.30--50代の働き盛りの中流階級の人々が失業し、生活苦に喘いでいる Julia Dandalovaは、全米合同配布委員会(the American Joint Distribution Committee)ブルガリア支部長として、ブル国内のユダヤ人社会における弱者たる老年の年金生活者、貧困家庭の子供達への社会福祉事業をしている。しかし、最近は、彼女に対して、同年代(30代)の、本来なら給与が高い職業に就き、立派な家も乗用車も持っている人々から、支援して欲しいとの電話が入るのだ。とても彼女が、生活困窮者などとは想像も出来なかった人々なのだ。 彼らの話では、住宅ローンの支払いが出来なくなり、銀行が家とか乗用車を没収すると脅してきているという。要するに、恵まれた、全てを所有しているはずの人々が、貧困目前の困難に直面しているのだ。 「これらの人々は、コミュニティーに支援を仰ぐことなどには、不慣れな人々で、実は彼らが我々の所に駆け込んできた頃には、既に支援のしようもない、手遅れの段階に到っているのです」。 3年前には、ソフィア市の中流の上クラスのユダヤ人達は、繁栄のさなかにいた。彼らは大部分が30歳〜40歳代で、自らの収入で暮らしており、更には、子供、年老いた両親なども養っていた。 しかし、世界経済危機が到来したとき、生活の底が壊れてしまったのは、単に貧困家庭ばかりではなかったのだ。多くの西欧の同世代同様に、自分たちの収入以上の生活を、モーゲージ・ローンとか、銀行負債に依存しつつしていた人々の場合も、底割れに苦しむこととなったのだ。ガソリン代、食料費は急騰し、逆に自らは失業してしまったのだ。不動産価格は崩壊した。仕事も失い、生活基盤が成り立たなくなった。 2.「新貧困層」の場合、新たな現実を直視できない傾向 これらのユダヤ社会の「新貧困層」の不遇さは、驚くべきほどだ。これらの一番支援を必要とする人々は、まさに、このことを自ら認め、自覚することが一番難しい人々であった。支援を求めるより、彼らは貯金の全てを使い尽くして、体面を維持したのだ。 中流階級の人々は、「いや、我々よりももっと貧しい人々もいる。彼らの方が我々より、せっぱ詰まっているはずだ。我々は、まだ何とか闘える」という風に考える。 ところが実際には、「彼らは既に行き詰まっているし、息絶え絶えで、自助は難しいところに追い込まれている」のです。「ブルガリアにおける危機は、ギリシャとほぼ同じほど厳しいのだけど、他方で、世界からはほとんど何らの注目も浴びてはいない。国民平均所得は、毎月?*以下だ。金も権力も、少数の、コネが良く聞くビジネスマン達に握られている。組織犯罪が強力な上に、汚職が蔓延している」と、ブル・ユダヤ組織Shalomの会長であるMaxim Benvenistiは言う。 (注:?の部分は、単に0と言う数字となっている。きちんと調べていない様子。) 3.失業率の急増、小さすぎて支援活動資金を捻出できない在ブル・ユダヤ人社会 09年以来、ブルの失業率は、6.8%〜10%強(2010--2011年)へと急浮上したと合同配布委員会(JDC)は言う。今年も失業率は、あまり下がらないようだ。 この経済危機は、ブルにおいてほんの7千人ほどしかいない、ユダヤ人少数社会の弱点を暴露している。50年間にわたる共産主義時代を堪え忍び、1990年以来、イスラエル、或いは全世界のユダヤ人社会からの支援で、在ブル・ユダヤ人社会は、再浮上したばかりなのだ。 確かに、在ブル・ユダヤ人組織は活気づいているし、会員数も増えてはいるが、実は在ブルのユダヤ人オーナー達、或いはブル在住ユダヤ人のほとんど誰も、政治的なコネなどを有していないのだ。 4.サラリーマンが大部分の在ブル・ユダヤ人社会 ユダヤ人社会の大部分の会員達は、被雇用者であって、雇用者ではないのだ。「だからユダヤ人社会はこれほど貧しいのだ」と、Alexander Oscar氏(Shalomのソフィア支部長)は言う。 故に、この団体では、ソフィア市内のユダヤ人学校(全日制)で、起業家コースを開設した。「このユダヤ人社会においては、ユダヤ人の生活と教育の復興が、より独立したい、起業家でありたい、自己責任を取りたい、という若い世代と共に手を取り合って、推進されているのです」と言う。 Oscar氏は、(海外)コミュニティーからの支援を得て、「誰も飢餓に苦しむことにはならないだろう」と付言した。「冬には、誰もが暖房と、必需品の支援も受けられるだろう。だが、我々が理解するところでは、40代〜50代の若手家族は、単に生き残ることのみではなく、意味のある生活を送りたい、と考えているのです」。 ユダヤ人社会の指導者らは、今では、コミュニティーの財政状態の改善と言うよりは、その生存そのものが崖っぷちと言うことも理解している。Benvenisti氏は次のように述べた:「彼らがコミュニティーから支援を得られなければ、自分の意見では、彼らはこの国から出て行くだろう。そして、それは、やがてこの国には、ユダヤ人社会が消滅することを意味する」。 5.Levy家の困窮度 個別ケースで見よう。Yanna Levyと彼女の夫(計理士)は、ここ数年3人の子供と、盲目の母親を世話しつつ奮闘してきた。5人家族だが、アパートの中には、ベッドが3個、タンスが1個しかない。キッチン棚の扉のちょうつがいは、壊れていて、扉は落っこちそうになっている。 Levyは眼鏡士だが、数年前に失業し、仕事を探し続けている。彼女は現在、JDCで、ケアテーカーというパートタイムの仕事をしているだけだ。コミュニティーから家族が受け取る支援金を加えても、子供用の必需品を何とか賄うだけでも、苦労しているほどだ。 「自分は今、将来は海外での幸運を願って移民してしまう、そう言う子供達を育てている、と言うことを分かっています」と彼女は、悲しげに言う。「自分は3名の子供を育てていても、彼らにこの国では将来がないから、結局自分は一人になってしまう日が来ると、そう覚悟しています」。 6.在ブル・ユダヤ人組織の財源がピンチ 因みに、今では、Shalomブルガリア組織の金庫も底をつきつつある。なにしろ、この金庫に入る収入の大部分が、自由化後の没収不動産返還で戻ってきた、ユダヤ人達の家屋などを賃貸して得ている収入なのだが、この収入がどんどん細ってきているのだ。だから今では、在ブル・ユダヤ人団体の収入は、完全に国外ユダヤ人組織からの支援に依存しているのだ。 昨年末までに、Shalomと共に運営されているJDCの福祉事業費は、突如35%も増額せねばならなかった。このため、JDCでは、寄付支援者らに、追加の?*百万ドルの支援を要請した。(注:*上記同様に、この?部分は単に0の数字が入っているだけ。) この緊急支援計画では、次の必需品が調達される:食糧、衣料品、学用品、家族手当、医療費。 一番多くが、ユダヤ人達の生命を確保することに費やされる。子供達で、ユダヤ人サマー・キャンプに参加したい者のための基金、コミュニティー会員で、ユダヤ教の祝日・イベントへの参加を希望する者のための基金もある。ギリシャのユダヤ人社会がホストとなる、年次3日間の国際ユダヤ人集会Limmud(教習)参加費用なども、寄付を募っている。 7.欧州支局の職業訓練コース重視 Alberto Senderey・JDC欧州支局長は、職業訓練コース(新技能、建築技能、PC技能、携帯電話技能)で、雇用を促進すると述べた。自助努力を支援し、誇りある人生を選択して欲しいから。 「第一歩は、人々が、自分達が今トラブルの中にいる、と自覚することだ」とNevenistiは言う。多くの「新貧困層」、特に宣伝・広告業界でマネージャー階級だった人々は、新しい現実と向き合うことに付き、支援が必要なのだ。 Dandalovaの一人の同僚は、最近次のように、彼女の娘について語ったという:「娘とその夫は、共に電子通信企業(IT産業)の稼ぎの良い仕事を、同時に失い、結局病院の『精神科』のお世話になっている」と。 Benvenisti氏は、「このような人々は、どうやって別の人生を切り開いていくかを教わる必要性がある」のだ、と言う。「彼らは、今更未熟練労働力の仕事に就くには、資格を持ちすぎている。我々は、彼らに対して、精神的な支援を行い、現在の市場動向にあった職業へと、再教育を支援したい」。 ブルにおける経済情勢がいかに深刻かは、つぎの例で明白だ:JDCプログラムの中で、「ホロコースト生き残り老人のための介護の仕事がある」との噂が広まったため、700名もの人々が列をなしてしまったのだ。「幾つもの大学で学位を取った人々が、老人の介護をしたり、老人の家を掃除したりする、と言う職業に応募してきたのだ」と、JDCブルガリア組織の会計担当者Tzvety Friedmanは言う。「彼らは、必死でした」。 8.再びLevy家 さて、上記のLevyは、この介護の仕事の一つを得た。しかし、それでも、彼女と夫は、日々の財布の帳尻を合わせるのに苦労している。5月初め、彼女は子供達に水泳の授業を受けさせた。この結果月末には、日々の食事にも困るはずだが、彼女の選択肢としてはしょうがなかった。 彼女は言う「水泳を知らないまま、サマー・キャンプに参加させるのは、危険すぎます」。「私にとって、怖いのは、あの人達が、これはまだ危機の始まりに過ぎない、と言うことです」と彼女は言う。「私たちの場合、ユダヤ人コミュニティーによる支援がないと、どうなるのか、想像すら出来ません」。 |
<< 前記事(2012/05/18) | ブログのトップへ | 後記事(2012/06/02) >> |
タイトル (本文) | ブログ名/日時 |
---|
内 容 | ニックネーム/日時 |
---|---|
こんばんは。 |
mugi 2012/05/29 21:54 |
こんにちは、 |
室長 2012/05/30 12:07 |
その他には、ブルの要人、特に政治局員には、必ずユダヤ人顧問が付き添っていた。ユダヤ人顧問は知恵袋で、色々アドバイスする他、演説の原稿書きとかもするようでした。彼らの任務は、他に、政治局員を監視して、毎日Milko Balevという党書記で、ジフコフの「耳と目」と渾名されていた人物に、その動静を詳しく報告すること。もちろんBalevは、更にジフコフ本人に報告するのです。結局、共産主義には、ソ連共産党が決めた、細かい規則、タブー、などもあるので、いわ |
室長 2012/05/30 12:12 |
(続2) |
室長 2012/05/30 12:12 |
訂正、 |
室長 2012/06/02 09:32 |
<< 前記事(2012/05/18) | ブログのトップへ | 後記事(2012/06/02) >> |