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zoom RSS シェールガス開発を巡る米露の新冷戦

<<   作成日時 : 2012/08/27 10:33   >>

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7月14日付とかなり陳腐化した記事( http://www.novinite.com/view_news.php?id=141257)がある。これをこのほど要約して、ご参考に供したい。

  米国とロシアは、ある意味で、国内の豊富なエネルギー資源を根幹として帝国主義的発展、対外拡張した「似た者国家」である。近年米国は、エネ資源の輸入国となっているが、最近のShale gas開発成功で、突如エネ産業部門で再度優位を取り戻し始めた。そういう米国の自信を示すのが、このWashinton Times紙論評とも言える。筆者は、テキサス大学エネ研究所次長(Aviezer Tucker, Assistant Director of the Energy Institute at the University of Texas at Austin)である。

  米国の学者が、新たな自信に基づき、ロシアを見下し始めている、そう言う方向で欧州における米露対決が、新たな局面にある、と言うことを示す論文とも言える。ここでは、欧州における米露間の天然ガス資源開発、市場確保を巡る地盤取り合戦が見え、対中国政策は、必ずしも主題ではない。むしろ米国では、中国大陸にも、Shale gas資源は豊富に眠っていると見ているようだ。

  ともかく、米国人の目で、今の欧州を、どういう視点で見ているか、と言う一つの例証として、面白い記事である。プーチンのロシアをその政治体制、対米対決姿勢などの側面から問題視しているのではなく、高いガス料金とエネルギー独占で、EUを支配下に置こうというロシアの目論見(戦略)を問題視している、と言える。また、ロシアのエネを買う国は、潜在的なロシア陣営として、危険視する考え方も明白だ。

1.米国のShale gas関連技術革新とそれの欧州への展開を妨害するロシア
  Shale gas開発に関しては、米国は、ブルを失い、チェコを失うだろう。ウクライナは我々が獲得したし、ポーランドは何時も我々の側にいる。ドイツは、賭をヘッジしたがっている。仏は、米国式開発に敵対的だ。
  英国は、恐らく我が方にたつだろう。バルト3国は、資源があるなら、米国式を採用したがるはず。ルーマニアについては、米、露双方が懸命に争っている段階だ。

2.ロシア側の戦略
  敵はもちろんロシアだ。彼らは欧州のエネルギー市場を握ることで、勢力圏を確たるものとしようという戦略だ。プーチン大統領の政権は、炭化水素(石油と天然ガス)を売ることに依存している。炭化水素の輸出代金で、国家運営しているし、公務員とか支持者らを繋ぎ止めているのだ。

  Gazprom社の多くの決定は、政治的意図に立脚したものだ。ウクライナを迂回するために、長距離となるパイプライン建設の多大な費用も、気にしない。分析者によれば、多額の施設費用などのコストを考えると、Gazprom社が利益を出すには、1000立方フィートの天然ガスを12ドル以上で売る必要性がある。現状では、西欧諸国、東欧諸国に対し、16ドルで販売している。ところが、米国国内では、同じ量の天然ガスは原価が2ドルで済むほど安くなってきている。
    (注:1千立法フィート当たりの天然ガス代が、Shale gas開発により米国での単価は、たった2ドルという安価だという。現在西欧、東欧などは16ドルという価格で買わされているのに!日本の場合は、LNG(液化天然ガス)という形で、インドネシア、カタールなどから、石油価格連動方式、長期契約で輸入しているから、もっともっと高い価格のはずだ。
  LNG価格の暴騰にもかかわらず、原発を廃棄せよと主張するのだから、日本の一部市民は、とんでもない金満家達だと言える。日本における原発論議で何時も不思議なのは、電力価格への影響という議論が、余りにも軽く扱われていること。仏国が、相変わらず原発依存に自信を持って取り組んでいること、英国も絶対に原発廃棄などと言わない、などの状況も、もっと冷静に勘案すべきであろう
。)

3.Shale gas安価の理由
  北米で天然ガスが安価となったのは、水圧破砕工法(hydraulic fracturing)で、頁岩中の天然ガスを無理矢理抽出する技術で、大規模ガス田を安価に探鉱出来るようになったからだ。今のところ、この技術で安価に採取できる大規模ガス田は、欧州では見付かってはいないのだが。

4.米国が欧州でShale gas開発をしたい理由:ロシアの財力を潰せるから  
  もし欧州でも、同じ工法が使用できるなら、欧州における天然ガス代は急降下するであろう。そしてロシアは、生活資金を「勤労」で稼がなければならなくなり、政治的変動も起きるだろう。

   欧州諸国でも、Shale gasの存在は知られている。これらを米国で開発された水圧破砕工法で商業利用できるならば、西欧諸国などのエネ面での独立性は高まり、輸入需要は減少し、代金は急降下するであろう。貿易収支は改善され、地元の雇用も増える。ポーランド、仏、ウクライナの3国の貯蔵量は巨大で、天然ガスの輸出国となりうるほどと言われている

5.ポーランドのガス田開発における技術的難問
  ポーランドのガス田は深度が深く、しかも米国のものより古い地層で、採掘技術は、このような地層に合わせて、再開発せねばならない。このような技術的困難性故に、Exxon社は、当面、ポーランドでの探鉱、開発を諦め撤退した。

  とはいえ、より中小の(米国)企業は、技術的開発を継続している。ウクライナの場合、国内でのShale gas開発入札をようやく受け容れ始めようという段階だ。

6.仏は、原発、アフリカのガスでエネ独立を実現している
  ポーランド、ウクライナと違い、仏は、ロシアによるエネ独占と言う苦い経験はない。仏は、そのエネ資源として、多くを従来から原子力に依存してきたのだ。天然ガスに関してすら、仏の場合は、ノールウェー、アルジェリアが第1、第2の供給元で、ロシアは第3位に過ぎない。

  環境論者達が、水圧破砕工法の危険性*を叫んだとき、仏では、国内の天然ガス開発を主張する根強い利害関係者が不在だった。もっとも、Total社は、国外では、同様の技術で天然ガス開発を行っており、国内ガス開発が机上に上れば、戻って来るであろう。
    (注:*この工法では、地下水質の薬剤による汚染、軽度の地震を誘発する危険、などが言われている。農業国で地震帯にあるブル、ルーマニアでは、両者ともに、困った問題となりうる。この点を環境論者は危険視している。)

7.ロシアは、全欧州で水圧破砕工法の禁止措置を目論んでいる
  ともかく、仏が水圧破砕工法を禁止し、ブルが当面この工法を一時停止措置とし、チェコも当面禁止しそうなのは、実際には、経済的決断に基づく措置とは言えない。また、ブル、チェコで例えShale gas開発が成功しても、恐らくは需要の大部分は、相変わらずロシアからの輸入に依存せざるを得ないであろう(資源埋蔵量が小規模だから)。

  Gazpromとして一番期待したいことは、環境的議論で、欧州全体でShale gas開発が全面禁止されることだ。 Gazpromとして直面する挑戦は、今現在高額な金額でロシアのガスを買い付けている諸国に、これらの金額を節約できるような技術を諦めるようにと諭し、多くの職場が生まれるような、政治的独立も取り戻せるような、そう言う方向に行くことを止めなさいと説得する、と言う難しい課題なのだ。

  これはまるで、第二次大戦後に、荒廃した欧州諸国に米国が無償の「マーシャル計画」による経済援助を提供した頃と同じだ。経済的、政治的独立を回復することを怖れて、ソ連国家は東欧諸国に対し、この支援を拒否するよう説得せねばならなかった。(注:実際は、軍事的恐喝で、無理矢理拒否させた。)

  一部のチェコの水圧破砕工法反対デモ活動家達は、Hutton Energy社(この工法を使う豪州企業で、ロンドンに本社)に反対の声を上げたが、彼らが掲げた「我々は、あなた方米国の資金を望まない」というポスターは、もしかしたら、1947年の同種の看板の埃をはたいて取り出してきたものかもしれない。(注:「生意気なチェコ人」に対する皮肉たっぷりの言い回しである。米国人のこういう戦闘的姿勢が小生には羨ましい。)

  要するに、今回ロシア側が依拠する立場は、反資本主義ではなく、環境擁護論なのだ。プーチン氏は、今では他国の環境擁護論のチャンピオンとなっているらしい。この故に、今では、Gazprom社、ロシア政府は、秘かに、西欧のPR会社を使って、環境論者ら、真正の環境団体などに働きかけているのだ。これら西欧の環境系団体には、実は昔からの左翼系人が多く、彼らはロシアの原子力発電、或いはシベリアにおける天然ガス田開発事業などに関しては、何ら問題視しないのだ。

8.ポーランドの特殊性に気付かなかった米国のエネ企業
  ポーランドの場合、エネ独立への指向が強く*、政治的にもShale gas開発に極めて前向きだが、国際エネ関連企業、投資家らは、このポーランドの特殊性をうっかり見落としていた。つまり、ポーランド同様に、他の欧州でも、Shale gas開発は政治的な複雑性はないと思いこんでしまったのだ。(注:*共産圏時代も、石炭資源が豊富だったポーランドは、石炭発電に依存することで、ソ連の石油、天然ガスへの依存を、採炭価格の上昇が耐え難くなるまでは、できるだけ少なくしようとしたほど、対ソ連警戒心が強かった。)

9.西欧のPR会社を雇って環境論者をたきつけるロシア
  実は、Gazprom社は、数十年にわたり、東欧、中欧諸国で現地に存在し、現地化した言語、文化、政治文化に精通していて、しかも現地の政治家すら、長年養ってきているのだ。ロシアがスポンサーとなって煽ってきた、水圧破砕工法への疑念、などのPR企業の工作が、すっかり根を張っていたのだ。ブルとかチェコと言う国家で!!

  もちろん長い年月を経れば、国益に基づいた決定を各国政府は取ることとなろう。しかし、当面、地元のエネ資源をすぐに開発せねばならないという、切迫した情勢がないなら、今しばらくは、ロシアのエネ資源に依存する時間を引き延ばせる、と言うことであろうか。

10.中国市場を目指しても、ロシアは安定市場を確保できない
  その時間を利用して、Gazprom社は、中国向けのガス輸出を増やしていけるかも知れない。とはいえ、恐らく中国国内にも、巨大なShale gas資源が眠っているので、対中ガス輸出は、長期的には、政治的な複雑な問題をもたらすかもしれない。
        (了)

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天然ガス価格とエネ安保
 小生最近少しある病気故に、1週間ほど入院したし、新しいネタ探しにも失敗して、書く意欲が失せていたのですが、天然ガス価格に関する下記の読売記事を見付けたので、早速自分なりに国際的な価格比較をしてみたくなりました。素人の計算ですから、どの程度の信憑性があるか怪しいけど、こういう計算とかがあまり新聞記事として出てこないので、何らかの価値はあろう。小生としては、一般社会に充満する原発全廃論などには極めて懐疑的なので、原子力以外の既存のエネ資源に依存することが「経済コスト的に」いかに難しいか... ...続きを見る
ブルガリア研究室
2012/10/07 11:25

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コメント(3件)

内 容 ニックネーム/日時
こんばんは。

 エネルギー資源を巡る米露の水面下の駆け引きや“冷戦”は、実に興味深いですね。今のロシアの立場は反資本主義ではなく、環境擁護論というのは驚きました。ロシア政府は秘かに、西欧のPR会社を使って環境団体などに働きかけているとはいかにも…ロシア自身、環境保護など後ろ向きの国なのに、環境論も国際政治の手段ということですか。

 そして日本の場合、LNGを石油価格連動方式、長期契約で輸入しているから、欧州よりも高い価格だったとは言葉もありません。仰る通り、日本の反原発運動家には胡散臭い金満家達としか思えない連中が多すぎる。西欧同様環境系団体には、昔からの左翼系人が多いはず。そんなブロガーからもコメントがありましたが、完全なお花畑頭としか思えない戯言を書いていた。サヨクは環境主義に衣替えをしたようです。

 最近の宮城県の地元紙でもやたら脱原発を煽っていますね。日本の場合、PR会社を雇って環境論者をたきつけるのは何処の国でしょうか?ネットでは隣国の陰謀という噂も見かけますが、反核平和団体も連動しているのは確か。
mugi
2012/08/29 21:34
こんばんは、
 反原発、環境論者、色々居るけど、誰も日本国自体の国益を気にしていないし、産業界が高すぎるLNGへの依存では、電気代が高くなり過ぎで、益々国内に投資できないと、不安になるような状況を何とも思っていない。確かに、この論文のように、裏にはどこかの敵国がいて、PR費用をふんだんにばらまいている、と言う風に疑いたくなる。
 少なくとも、韓国は、原発を輸出したくて、トルコ、ベトナムなど日本が従来から交渉してきた国にまで、大統領自ら働きかけたりしている。本国の原発は、最近何度も緊急停止するほど、技術的に怪しいのですが。

 本件、欧州における天然ガスを巡る米ロの陣取り合戦を、敵意むき出しの、分かり易い論法で書いているのが、テキサス大学という、米国のエネ産業のメッカに所在する大学の学者です。
 日本の大学の先生方にも、こういう国益と、外国への敵意むき出しで、分かり易い論法で、学生に授業し、世界戦略とは何かを教えていただきたいものです。空理空論ではなく、実利を目指す、そういうアングロサクソンの実用主義が、大学の先生の論文にさえ、明白に出ている。
 小生は日本の学者達にも、こういう姿勢、闘争本能を、外交とか、国防の議論で見せて欲しいと思う。他国と仲良くしたいとか、平和の構築などという、空論をいくら連ねても、国益にも、国防にも、何の利益にもなりません。
室長
2012/08/29 22:13
読者の皆様、こんにちは、
 今日、ロンドン在住のtnaさんのブログ(http://tna6310147.iza.ne.jp/blog/entry/2842750/)を読んでいたら、ロシアのエネルギー資源外交とシェールガス革命の影響を、本当に詳細に論じていて、感動してしまいました。(3部構成)
 さすがに、英国紙などを読んでいると、また、ロシアに日頃から関心のある方がニュースをフォローしていると、これほどの名文が書けるのか、と目から鱗です。
 是非、お読み下さい。
室長
2012/09/06 14:10

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