ブルガリア研究室

アクセスカウンタ

zoom RSS 暴走世論という世界共通の課題

<<   作成日時 : 2012/10/25 17:36   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 2 / トラックバック 0 / コメント 2

またもや、山田厚史氏の、世界のテーマを独特の歴史的慧眼にて切り取るような論文を発見したので、勝手な引用となるが、下記にご紹介したい。前回の本ブログでの引用は、、ユーロ圏の問題点をきれいに分析した文章だった( http://79909040.at.webry.info/201205/article_2.html、を参照)。

1.今回の山田厚史氏論文http://diamond.jp/articles/-/26834
 題名:米国、中国、そして日本・・・暴走世論が政治家を引きずり回す

(1)11月には、米、中国の政権交代が重なる
 11月は世界の転換点になるかもしれない。6日に米国の大統領選挙があり、8日からは中国共産党全国代表大会が開かれ指導者が替わる。米国はオバマかロムニーか、どちらが大統領になっても深刻な赤字財政を抱えながら「米国の威信回復」を求められる。

 貧富の差をアメリカンドリームというキャッチフレーズに塗り替えて、成長路線をひた走ってきた米国は、金融資本主義が行き詰まり、膨脹路線の手じまいが迫られている。深刻さは中国も同じだ。「豊かになれる人からどんどん」の先富政策が耐え難い格差を生み、共産党支配にひび割れが生じている。

 11月から始まる米中新体制の助走期間は要注意だ。

(2)米国と中国に共通する「トリクルダウン社会」
 アメリカと中国に共通するのは「トリクルダウン社会」であること。トリクルダウン(trickle down)とは「したたり落ちる」、という意味で、社会の上層部である経済強者(優良企業や高額所得者)が儲かれば、富は巡りめぐって貧しい人たちにも滴(したた)り落ちる、という手法だ。分かりやすい例が「富裕層への減税」。消費性向の高い金持ちが潤えば消費が刺激され、生産が拡大し、雇用が増えるという連鎖を期待する。大企業への規制緩和も同様だ。増えた利益が新たな設備投資や就業機会を生み経済は拡大する。

 効率の悪い零細企業や個人を応援しても経済効果は小さい。運と能力に恵まれた先頭集団を元気にすることが、社会全体に恩恵をもたらす、という経済思想である。新大陸という自由競争社会に生まれたアメリカンドリームは、強者が牽引するトリクルダウン社会を生み、今も「ドリームの呪縛」から逃れられない。

 ケ小平が唱えた先富政策も成功者が全体を引っ張る、というトリクルダウンの発想だ。毛沢東革命がもたらした「等しく貧しい社会」に見切りをつけ、儲ける自由で成長を牽引する政策に転換した。改革開放は30年で中国を世界第2位の経済大国に成長させた。

 「走資派」と批判された経済強者を優遇する劇薬のような政策は、「格差による社会の分断」という副作用をもたらした。

 略奪に発展した反日デモが象徴するように、人民の欲求不満に火がついた暴動は、今の中国で日常化している。中国メディアが報じないので分かりにくいが、警察への抗議や労働争議が引き金となる暴動は、年間40万件ぐらい起きている、ともいわれる。

 13億の民を養う中国は、秩序を保つため高い成長率を必要としてきた。権力周辺の企業や事業家を優遇し、許認可や資金を投入することで地域経済を活発にしてきた。先頭集団をひきあげることが特権を生み、格差と腐敗を蔓延させた。1%の強者が富の大半を握るという格差社会は、米国と中国に共通する社会構造だ。

(3)栄光への郷愁が捨てきれない有権者に配慮する大統領候補
 米国の大統領選挙で共和党のロムニーは、富裕層の減税継続などトリクルダウンに固執している。医療保険の拡充など低所得層への配慮より、投資効率のいい強者に資金を配分することが景気回復の早道と考えている。

 民主党のオバマは、格差を煽るトリクルダウンは治安悪化など社会コストの増大につながるとみて、底上げ型の政策運営を模索している。だが社会保障費の増加は、巨額の赤字を抱える米国財政に重くのしかかる。盛りを過ぎた米国経済が、年間おおよそ6000億ドルにものぼる軍事費を抱えながら、その重荷を背負えるか、となると事態は深刻だ。

 米国は中国の2倍のGDPを稼ぐ、ず抜けた経済大国だが、国際収支は慢性赤字の累積債務国でもある。世界の治安を一手に引き受ける財政力はとっくになくなっている。それでも「世界に君臨する」というプライドを捨てられない。国民も指導者に「強いアメリカ」を求め、候補者はその期待に縛られる。ロムニーが「就任したその日に中国を為替操作国に指定する」など強気の発言をするのも、栄光への郷愁が捨てきれない有権者に配慮したものだ。

 軍事費削減に取り組むオバマでさえ、アジアで中国を抑え込む軍事予算は削れない。戦略的に米国債を買うチャイナマネーに赤字財政の穴埋めをしてもらいながら、軍事的には中国を牽制するという綱渡りがいつまで続くのか。選挙のテーマにない「ドル危機」こそ、次の大統領が抱える最大のテーマである。

 金融資本主義の化けの皮を剥いだリーマンショックは、世界はアメリカを中心に回るという幻想をうち砕いた。だが民意は「アメリカの栄光」を捨てきれない。国力に相応しい国際的関与へと段階的に撤退するしかない指導者は、民意の呪縛を超えることができるだろうか。

(4)共産国家の共産革命!?
 より深刻なのは中国だろう。格差、腐敗、政治不信が蔓延し、農村から始まった暴動が都市に波及した。胡錦涛政権は「和偕社会」という標語で歪みを是正する方針を掲げたが、効果はなかった。耐え難い格差を縮めようと景気にブレーキを踏めば失業が増え、アクセルを噴かせば貧富の差が広がる。

「共産革命が一番起こりそうな国は中国」と揶揄されるほど、中国共産党は危うい状況になっている。

 地位を剥奪された薄熙来・元重慶市長の事件には、毛沢東主義を掲げて中央政府への不満を足場に勢力拡大を謀(はか)った、との嫌疑がかけられている。反日デモに毛沢東の肖像が登場する過激な復古主義に、党中央は警戒を強めている。外交カードとして反日を容認した咎めが制御不能の暴動を誘発し、党が人民を指導する限界を露わにした。

 外務省の河相周夫事務次官が密かに上海に入るなど日中関係の修復が模索されているが、扇動が招いた世論の暴走は中国政府の冷静な対処を妨げかねない。

(5)安倍が首相となれば日中関係を改善できる?
 中国は、習近平が次期国家主席になる段階で、日本の次の首相との間で関係を修復する意向、ともいわれる。「右派と見られている安倍晋三が首相になれば、対中強行派を抑えられると期待している」と、中国のメディア関係者はいう。

 中国側は小泉純一郎の靖国参拝で険悪化した日中関係を修復した安倍に、「右派としての力量」を期待する。氏が早々に靖国神社参拝したのは、首相になってからは参拝しない、というサインと見ている。

 安倍がその思惑通りに動くかどうかは分からない。「尖閣で中国に1ミリたりとも妥協しない」などという強気の発言で、安倍は自民党総裁の座を射止めた。総選挙になれば、米国の大統領選挙と同様、有権者に媚びる発言になびくだろう。尖閣では中国の横暴を印象づける報道や政治家の発言があいつぎ、日本の世論は愛国主義に傾斜しつつある。右派の期待を一身に集める安倍が、対中関係の融和に乗り出すことを、偏狭なナショナリズムが許すだろうか。

 熱烈な支持者の期待を裏切って、冷静な選択をする胆力が安倍にあるだろうか。

 竹島を訪れた韓国の李明博大統領が、冴えない表情で碑の前に立つ映像を記憶している人は少なくないと思う。好きでこんなことをしているのではない、といわんばかりの表情に、世論に引きずられる政治指導者の苦悩を感じた。

 世界に蔓延する不況と格差の中で、暴走する世論が政治家を引き回し、国家がいがみ合う。そんな時代がやって来そうな予兆。それぞれの国で社会の成熟度が試されている。
      

2.小生のコメント
(1)ナショナリズムの抑制と政治家
 山田氏(元朝日新聞編集委員)の、またもや世界全体を俯瞰したような、美文調の、素晴らしい論文である。今の世界政局の課題を、「政治家は、暴走する世論を抑制しつつ、指導していけるのか」という課題として提示している、と言う風に小生には見える。この視点の基礎となっている考え方は、ある意味で、「民主主義国家において、政治家はいかにナショナリズムの暴走を食い止め、国際紛争を激化させずに、しかも、自国民を統合し、正しい方向に誘導できるか?」と言うことであろう。中国は、未だに独裁国家だが、インターネットのおかげで、ある意味「世論の暴走」は起きている。

(2)キッシンジャーによる「国益外交」の勧奨
 最近小生が読んでいる、キッシンジャー著『外交』(1996年、日本経済新聞社)の主要テーマが、米国の大統領は、いかに「米国民の日常的道徳感情」と、国家としての米国外交の地政学的視点での「国益外交」の立場を調和させるか、という二律背反に悩みつつ、国民を指導し、教育しつつ、誘導しているか、ということである。

 この視点で見れば、米国大統領は、旧大陸諸国の政治家のように、あからさまに自国の国益を基盤として、かつ、自国の国力を冷静に計算して、国際政治にどの程度介入できるか、その軍事的、経済的能力に見合った範囲でしか動かない、と言う風に冷徹な計算が何時も出来るわけではないという。道徳的、倫理的、十字軍的な立場で外交を見ると、損得の計算で、得の部分がないから動かない、というわけにはいかず、ベトナム戦争の時のように、「絶対に共産主義者達の膨張、勢力拡大を阻止して、アジアにおけるドミノ倒しを防がなければならない」という、十字軍としての発想に陥るのだ。つまり、際限のない軍事力投入に陥いると言う危険が大なのだ。

 ベトナム戦争では、非対称戦争(ゲリラ戦)という、米軍が苦手な戦場で勝利が得られず、あまりの戦死者数、経済的打撃、などの負の側面に辟易した世論が、「手の伸ばしすぎ、米国の利害のないところで、何故我が国民が、一方的に戦死せねばならないのか?」、「なぜ民主主義を実践しない南ベトナム政府を我々が支援しなければならないのか?」と国内世論の分裂を産んでしまった、と言う。つまり、キッシンジャーに言わせれば、冷徹な国益外交、地政学上の視点、と言う、欧州の古典的大政治家らの教訓に従わず、かつ、自国の国力、軍事力の可能性に関する冷静な計算を成さずに、「十字軍的使命感」に駆られて、感情的理想主義に基づき、国外に「介入戦争」を仕掛けると、とんでもない敗北を喫する、と言うこと。

(3)過剰なナショナリズムの危険
  最近我が日本国が経験したのは、韓国、中国という隣国の「偏向歴史教育の弊害」に主とした基盤がある「暴走世論」そのものの「暴力的反日攻勢」であった。「偏向歴史教育の弊害」に関しては、旧ユーゴ・セルビアの例を昨年小生は論じた(http://79909040.at.webry.info/201110/article_4.htmlhttp://79909040.at.webry.info/201110/article_5.html)。
  
 米国世論が、特殊なプロテスタント的、十字軍的発想で「暴走」する危険性を孕むのと同様に、バルカン半島の小国セルビアで、「夢想論的歴史観」が、吟遊詩人らの手を借りて、長らく国民の間に流布し、そのままの「偏向歴史教育、幻想史観が暴走」して、ユーゴ連邦の解体、その後のクロアチア、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、コソボへの「介入戦争」、そして「米軍、NATO軍の介入」を招いて、壊滅的打撃を受けたことは、記憶に新しい。

韓国の李明博大統領が、竹島で「空ろな目つき」だったのかどうか、小生には分からないが、何れにせよ、「韓国の歴史に残る業績を残したい」という野心故に、国民以上に李大統領自身が「暴走」したことは明らかだ。同じように、江沢民派(江沢民は、反日偏向教育で自らの権力基盤を築いた人物)の支援を得たい習近平次期国家主席が、最近の「尖閣諸島問題」デモを煽り、11月の党大会前の前哨戦で、胡錦涛派を圧迫しようとしたことは、明らかなようだ。

 要するに、韓国、中国共産党の双方とも、実際には、日本軍と戦って、独立を獲得したのではないという歴史的弱点を持つので、その不利な事実を覆い隠すために、でっち上げの、夢想論的歴史を作文し、この「偽装歴史」を基礎にした教科書で、「偏向・反日教育」で新世代を教育してきた。反日という要素を除けば、韓国では、地域対立の歴史、国民の間の各種身分制・差別対立、派閥抗争の歴史しか残らないし、中国の場合も、多民族を統合する正統な「国民国家」形成の理論があまり見あたらないのだ。

(4)民意尊重は、内政用、外交には、民意より「国益外交」を
 結局、国内世論というものを尊重すべきは、内政面での「民主主義」のために、それが必要と言うことであり、微妙な利害の調整を前提としなければならない外交という側面では、民意尊重の民主主義的、国民感情的なものを、そのまま延長するという、米国のウィルソン主義(ウッドロウ・ウイルソン大統領が唱えた理想主義外交の原則)は、危険だと言うことであろう。
 
 国家対国家の利害調整、調和ある国際秩序のためには、冷静な計算による「国益外交」、「勢力均衡」の道しか、今のところ有効で、信頼できる理論は存在しないように見える。そしてこの道は、決して道徳的基準での判断とか、善悪基準での評価などとは関係なく、純粋に、「国力、軍事力、経済力」などの、「影の総力戦」を常に意識して、決して相手につけ込ませない、「戦う気力」と、同じくキッシンジャーが唱えるような、「長期戦を勝ち抜くための忍耐心」が重要な要素なのだ。軍事力を含めた国力を「長期的に維持しつつ、チャンスの時期を待つ忍耐心」こそが、外交の最重要課題、と言える。「十字軍的使命感」に駆られて、損得計算を忘れ、「冒険主義的にベトナムに介入し、大失敗した米国の教訓」を忘れてはならないのだ。
 同様に、今後どれほど長い期間「神経戦」が続くとしても、隣国の韓国、中国に対しては、我が日本国は、「長期的忍耐力」を発揮して、決して譲ってはならないのだ。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 2
なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
こんばんは。

「暴走世論が政治家を引きずり回す」という意見に私も賛同です。メディアに世論が大きく左右される日米はともかく、中共さえ民意を無視できない。煽りたき付けては、民衆の不満を外にそらそうとしても、制御不能の暴動を誘発する悪循環。「共産革命が一番起こりそうな国は中国」の揶揄は笑えました。歴代中国王朝が倒れるのも、農村からの暴動がきっかけでしたね。

>>「長期戦を勝ち抜くための忍耐心」が重要な要素なのだ

 こちらも賛同しますが、残念ながら執念深いのを厭うのが日本人です。「良い敵は死んだ敵」という考え方が基本的に馴染まないのが日本。
mugi
2012/10/28 22:10
こんばんは、
 中国も、インターネットを通じて、世界の情報から完全隔離され得ないほど、開かれた社会となってきているし、北朝鮮も恐らく近い将来そうなると思う。既に北朝鮮では、韓国映画とか、韓国ドラマが、海賊版DVDなどの形で、相当流布しているらしい。
 それでも、北朝鮮は、「経済自由化」に関して、予想されたようには、すぐ導入が決まっては居ないようで、少し足踏みらしい。

 日本では、「長期戦を勝ち抜く忍耐心」が、今後形成されるかどうか、やはり確信を持てないところが辛いところ。他方で、ナショナリズムの暴走で、軽率な間違いは犯しそうもない、ということには確信が持てる気がする。
 とはいえ、日本の心配は、「戦う気力」が今の国民には弱いことですね。現場の自衛官とか、外交官らにも、「戦う気力」が欠落して、頼りない、これが石原慎太郎が何時も苛ついていたことだと思う。
 
室長
2012/10/28 22:46

コメントする help

ニックネーム
本 文
暴走世論という世界共通の課題 ブルガリア研究室/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる