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zoom RSS ブルガス市テロ事件のその後

<<   作成日時 : 2013/02/07 18:03   >>

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  さて、このブログでは、昨年7月23日付の「ブルガリアの黒海沿岸で自爆テロ事件」(http://79909040.at.webry.info/201207/article_5.html)という記事で、ヒズボラ系組織によるとみられる爆破テロ事件をご紹介したが、その後、本件に関しては、国際捜査が続いており、ブル国内にも長期滞在していた「共犯」らに関する捜査も、ある程度進展したらしいのだが、これら「共犯」たちを、ヒズボラ系と名指しするか、或は、未だに背景は不明で捜査中と曖昧にするかで、イスラエル・米側と、EU側では、立場が違うらしく、板挟みとなったブル政府は、苦慮したらしい。
  関連のnovinite.com記事も多すぎて、整理が大変なので、全く簡単に要旨を下記に取りまとめてご紹介しておく。

1.イスラエル、米国は「ヒズボラ関与説」をブル政府に押し付けている
  最近のブルnovinite.com紙報道によれば、昨年7月18日(水)午後5:30に発生した自爆(?)テロ犯によるBurgas市Sarafovo空港における爆破事件(イスラエル市民5名、ブル人バス運転手1名、合計6名が死亡した)捜査に関するブル国の治安諮問評議会が2月5日(火)に大統領府で開催され、ブルの治安関係評議員らが集まり、約6時間にわたり長々と審議した後、大統領府からは「捜査を継続する」との短い内容の発表があったが、その前後から、米、イスラエルの新聞では、「ブルガリア当局が、本当の犯人たちは、ヒズボラと関係があったと発表する『予定である』など」との報道がはやばやと発せられた。

  その後のnovinite.com紙記事などによると、ツヴェターノフ内相は記者会見で「ヒズボラ軍事部門が背後にいた可能性」に言及して、次のように述べた由(http://www.novinite.com/view_news.php?id=147576):
  「実行犯を支援したブル在住の2名は、豪州、加の旅券を所持していたが、レバノン在住者でもあった。内1名は06年以来、もう一人は10年以来のレバノン在住者。この2名は、ヒズボラの「軍事部門」から資金提供を受けていた可能性がある。」

2.EU本部は、米国の「ヒズボラ説」に懐疑的
  なお、本件報道に関連して、EU本部筋は、「未だに事件の全容は解明されていない、また、ヒズボラが関与していたかどうかもわからない」との慎重な言及ぶりであるという。
    (注:仏政府は、レバノンにおける植民地時代からの特殊な地位を維持するうえで、ヒズボラをテロ指定して、レバノンにおける自らの地位を弱めたくない、との思惑がある模様。)

3.米、EUという二人の「旦那」*の意見が分かれ苦慮したブル政府
  すなわち、米ではNYT紙などが、事前より「ブル政府がヒズボラ関与を指摘する」と報道したり、イスラエルでも同種の報道が飛び交ったが、結局ブル政府は、治安総合担当の大統領府としては「継続捜査」と中立の立場をとり、内相のみが「ヒズボラの『軍事部門』関与の可能性」につき言及するという、ややこしい姿勢を示しているという。
    (注*:ブルガリアは、NATO加盟国という意味で、米国からの軍事的な傘に依存すると同時に、EU加盟国として、EU本部からの経済支援にも大きく依存している。つまり、双方の「旦那」に義理を果たさねばならないのだ。更に、ブルのEU加盟においては、米国がEU側に強く推奨した模様であり、その意味でも、米国の後ろ盾が、自由化以来のブルにとっては大きな支えであった。)

  つまり、ブル政府は、EUからは、「ヒズボラ関与説を明言するな」と圧力行使され、米国、イスラエル両国からは、「ヒズボラ関与を明言せよ」との圧力に晒されたということ。
  結局ブルのTsvetanov内相(副首相)は、英国の知恵に学んで、ヒズボラの「軍事部門」*が資金提供した可能性があり、レバノン政府に捜査への協力を要請する、との「中間的立場」を公表した(米国、イスラエルの立場に配慮したから)という筋書きらしい。
   (注*:組織としてのヒズボラそのものは、政治組織である、として、軍事部門と分離する手法。かつて、IRAに関しても、その「軍事部門=テロ組織」と「政治組織」を分離して、表向きには区別して表現したのが、英国の知恵なのである。組織全体をテロ組織と認定すると、かえって対話などのパイプも失われてしまうから。

★★追記:その後、2月7日付のnovinite.com紙報道により、情報を下記の通り追加する。ブル内務省の「組織犯罪対策局=GDBOP」局長発言で、ヒズボラ関与説が、より補強されたと言える。
   実行犯Jacque Felipe Martin (仮名、米国運転免許の名義)の他に、3名の「共犯」たちが、事件の前に、かなり長期にわたりブルに滞在して、イスラエル観光客に対する犯行現場、その手法、などを検討していたらしいとの動きに関し、GDBOP(ゲデボップ)局長が、記者会見で述べた(http://www.novinite.com/view_news.php?id=147642)。

記者会見でのStanimir Florov局長発言ぶり
  犯人グループは、当初黒海沿岸南部のイスラエル観光客が投宿しているホテルを狙っていたが、その後ターゲットをバスに変更した。バスでも、皆が乗り終えた後に爆破すれば、被害者はより多かったはずだが、入口付近の荷物置き場に荷物を置いている段階で、爆発が起きたので、被害者はより少なく済んだ。恐らくは、自爆の意図がなかったからであろう(小生注:しかし、仲間の速すぎる遠隔操作で、実行犯が逃亡できない段階で爆破された模様)。
  7日の記者会見で、GDBOP局長は、爆弾はおそらくブル領内で組み立てられたと述べた。
4名のテロリストがブル国内に滞在していたし、彼らの本当の名前はわかっている。逃げている連中も、自分の名前がばれていることに気付いている。1名(実行犯)が死亡し、3名が生き残っている。2名に関しては、ヒズボラとの関連が、論理的に想定できる。彼ら2名は、レバノン+加、およびレバノン+豪という二重国籍故に、EU域内を自由に旅行できた。
  また、彼らはめったに集合せず、異なる地域の、異なるホテルに通常は滞在し、別行動を取っていた。(注:つまり、訓練を受けたプロのテロ犯たちの行動ぶりと見える。
  彼らが、シーア派の人々と接触があったという証拠は、未だに存在しない。(この部分は、上記の「論理的にヒズボラとの関連が想定できる」との断言振りと、若干矛盾する。


4.イスラエル政府は、巻き添えにあったブルのバス運転手の遺族に支援策を発表  
  ちなみに、この大統領府の治安会議に先立つ2月2日付の記事(http://www.novinite.com/view_news.php?id=147462)によれば、イスラエル政府は、事件に巻き込まれ死亡したポマック系の運転手の遺族などに対して、次のような支援策を申し出ているという:
(1)娘には、奨学金を提供
  Blagoevgrad県Yakoruda郡Yurkovo村村長によれば、未亡人となった母親と娘のSaliheの両名とも、父親の死亡後は鬱病状態が続いているという。ポマック運転手Mustafa Kyosev娘のSaliheは現在11歳だが、イスラエル政府は、同人の成人(18歳)までの期間、月額150ドルを支援することを申し出ているという。

(2)死亡した本人の名誉のために、村の施設にも若干の支援
  また、Kyosev名称の保育園(Mustafa Kyosevが幼児に通っていた施設。死亡後、村当局が同人の名称を冠した模様)に対しても、イスラエル政府は、設備費その他の支援を約束したし、園の入り口には、Mustafa Kyosevとの名称を記した「記念板」も掲示されたという。

5.法王暗殺未遂事件に関しては、ブル秘密警察(DS)は汚名を晴らされた
  ちなみに、そういえばテロ事件としての関連で想起すると、最近novinite.com紙(http://www.novinite.com/view_news.php?id=147438)で、例のジョン・ポール2世法王暗殺未遂事件の犯人、トルコ人のアチャが、トルコで真相を語る書物を発売して、実は同人は、「ホメイニ師自らの指令で、法王暗殺を謀ったのであり、ブルの秘密警察(DS)は、関係なかった」と告白した由。
 (記事要旨) 1月31日(木)発売の本で、1981年5月13日にJohn Paul II暗殺未遂事件を実行したトルコ人銃撃犯のMehmed Ali Agcaは、暗殺指令者は実はAyatollah Ruhollah Khomeini師であったのだ、と告白している。
  同人は、トルコの刑務所を脱獄し逃亡した後、イラン国内で、ホメイニ師直属の部隊により訓練を受けたという。また、直接ホメイニ師により、ジョン・ポール法王を「神の名において」殺害するようにと命令されたという。アチャが何度もSofia市を往訪していたことから、ブル共産党のDS、或はソ連のKGBが暗殺命令者として疑われた。もっとも、このDS命令説は、その後、完全に根拠を否定された:すなわち、02年5月にブルに来訪した法王は、暗殺未遂事件はブルガリアとは無関係と信じている、と述べたのだ。
  (小生注:法王自身が、ブル関与を「否定」したとはいえ、小生の感覚では、今回のアチャ本人の著書発表で、ようやく真相が明らかにされたのだ、と思う。とはいえ、アチャの告白は、結局背後にあった暗殺テロの指令は「イラン発」との暴露であり、上記ブルガス市テロ事件のヒズボラ組織の背後もイランだという、イスラエル、米国などのシナリオと奇妙に一致している。その意味では、「分り易い敵」へとうまくつながっている、ともいえる。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
こんばんは。

 米、EUという二人の「旦那」に翻弄され、苦慮するブル政府の対応は興味深いですね。まるで米、中という二人の「旦那」に挟まれた極東の島国のようです。
 未だにこの事件の背後関係は不明にせよ、米、イスラエルの「ヒズボラ説」は強引なでっち上げにも思えます。そしてイスラエルの遺族への支援策は唸らせられました。これが外交というものですね。

 ヨハネ・パウロ暗殺未遂事件の黒幕がホメイニというのも、果たしてどうなのでしょう。英国人作家のフォーサイスは、この事件の背後には旧ソ連がいるようなことを言っていましたが、冷戦時代ならば、そう思われて当然でした。現代の“悪役”はヒズボラですか。
mugi
2013/02/10 21:14
こんにちは、
 日本の場合は、米国という「一人の旦那」しか、基本的にはいないと思うけど、ブルの場合は、日ごろの経済ではEU、いざという時の軍事では米国、という「二人の旦那」の支援に依存しています。まあ、日本も「経済の旦那」として、かなり中国依存の部分もある、との見方もあるけど、実際には、「経済支援」などは受けておらず、むしろ日本から中国が得ているものが多いはず。

 このブルガス市のテロ事件は、遠隔操作をうっかり早めに作動しすぎたとか、手違いが多かったようですが、ブル国内でも、4名が別行動して、一か所に集まり協議しなかった模様で、相当な高度のテロ活動のやり方と言える。入国、出国時には、正規の旅券を使ったので、全員のIDは判明しているという。2名に関しては、豪、加の国籍も持つけど、元来がレバノン人で、ブル出国後もレバノンに戻っているというから、やはりヒズボラとの関連が濃厚すぎます。フランスの思惑・圧力で、ヒズボラ犯人説をこれまで取れなかった、というのが、ブルの立場でしょう。更に、今後もヒズボラからのテロを避けたい(観光立国だから)から、名指しは避けたかった、というのがブルの本音でしょう。

 法王暗殺未遂事件も、ソ連、ブルの秘密警察背後説は、小生もしっくりこない感じです。カトリックともある程度協力していく、というのがソ連圏の基本的スタンスだったから、バチカンを激怒させることをやるはずはなかった、と思う。中南米にも「革命」を輸出したかったから、バチカンと事を構える愚作をとるはずがないのです。
室長
2013/02/11 09:32

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