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zoom RSS 虚構の力と財政規律という美名

<<   作成日時 : 2016/11/05 17:05   >>

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 さて、前回の記事から既に1ヶ月、そろそろ新しい記事を書かないと小生自身の頭脳面での健康度に疑問符がつきかねない。
 そこで、以前からやっている新聞切り抜きから、小生が別ファイルに分別しておいた注目すべき論文、記事、などを取り集めてご紹介してお茶を濁そうと思う。産経新聞記事の場合、検索できる記事に関しては、できるだけURLを探して、皆様が参照しやすいように手助けするつもりだ。産経紙電子版は、キーワードで検索しやすいので、すぐに関連の記事が見付かるのがありがたい。

1.「虚構の力」を超えるためにhttp://www.sankei.com/life/news/161017/lif1610170007-n3.html、10月17日付産経紙「文化」欄、筆者:磨井慎吾
  『サピエンス全史』(河出書房新社、原著は2014年英語版として刊行された)という、イスラエル人のYuval Noah Harari氏(1976年生まれの40歳という若さ)の著書に関する書評である。

  この書は、評者の磨井慎吾氏によれば、現生人類ホモ・サピエンスは、なぜたった数万年で並み居る競合種を圧倒し文明を発展させ、地球の支配者となったのか?という謎に、歴史学、生物学、認知科学などの最新知見を動員して挑んだ野心作だという。
  似たジャンルの本(人類史を俯瞰する本)としては、欧州人が世界制覇できた理由を生物学的・地理的要因から過去1万年ほどさかのぼって分析した米国の生物学者ジャレド・ダイアモンド氏の文明論『銃・病原菌・鉄』が有名だが、本書のスケールはより壮大である。

  ハラリ氏は、人類史の転換点を、約7万年前に人類の脳内で発生した「認知革命」に求める。この革命の結果、人類は神話など虚構の事物を想像し、仲間に語ることができるようになった。人類は共通の神話を信じることで初めて大勢の赤の他人と柔軟に協力することが可能となり、単なる動物の群れを超えた巨大な集団を組織できるようになった・・・とハラリ氏は説く。
  宗教、国家、法律、企業、貨幣・・・・。現代文明を動かすこれらの概念も、7万年前の神話と同じく、全て実体としては存在しない虚構の創作物だが、皆が信じることで複雑で高度な社会を営むことができる。「現代人は2万年前の人とは比較にならないほど多くの力を得た。だが、幸福感という観点からは、必ずしも2万年前よりも幸福になっているとは言えない」というのがハラリ氏の視点だ。

  約1万年前の農耕革命をきっかけに、帝国や貨幣が生まれた経緯や、約500年前の科学革命が資本主義や帝国主義を両論として、人類の力を飛躍的に増大させ、ばらばらだった世界各地を一体化させていく過程を鮮やかに描き出す。
  歴史の原動力として虚構の力は重要だが、人類は自らが創りだした虚構に強く縛られるあまり、無用な対立や戦争を招いた例もままみられる。

  自身が歴史家を目指したのは、紛争が絶えないイスラエルという国に生まれたことも関係しているという。「自分はだれなのか、自分の居場所はどこなのか?という問いに対し、周囲の大人たちから示されたユダヤ人の物語、イスラエル国家という物語に納得できなかった。自分で学ぶうちに、それは人が作った虚構だ気づいたからだ」という。
  「そうした虚構がどうして作られ、なぜこれほど力を持つようになったのかを知りたかった。そして、その虚構を超えたところにある真実にたどり着きたかった」というのが執筆の動機であるという。

  (小生注:人類が想像力とか、虚構を信じる力を持ったことで、社会が高度化、複雑化し、文明が生まれ、宗教、国家、法律、憲法、軍隊なども生まれ、紛争もより大規模となった・・・と考えると、人類が認知革命で「想像力、虚構を信じる力」などを得たことが、世界を暗くしている側面もある・・・という風に著者は感じているようだ。
   確かに、自分たちの創作した「歴史」を真実として他国に押し付け、慰安婦問題もでっち上げて「謝れ」という韓国、その領土は「古代以来中国の領域だ」などと偽りの「歴史」を主張して、東シナ海、南シナ海を独占しようとする中国・・・・などの事例を見れば、虚構も甚だしいと言える。
  とはいえ、著者が言いたいことは、もっともっと人類史を高い地点から俯瞰して見れば、多くの人々が信じている3大宗教と言えども、やはり虚構を多くの集団が共有することで成り立っているものに過ぎない・・・・絶対的な真実、神、権威などは・・・本当は虚構の産物でしかない、ということであろう。
   虚構がこれまでの人類史を発展させ、進化させてきた側面もあれば、いつまでも絶えない紛争の芽を提供し、人々を不幸にもしている・・・これが一番の現代的問題かもしれない。これからも必要な虚構と、超克すべき虚構の二つを選択していくことで、人類は更に進化できるのか?、或いは、どうしても超克できない、あまりにも多くの人々が固く信じすぎてしまった虚構も存在していると言えるのかも。例えば、集団としての国家の利害=国益(特に領土問題)というものを、我々はそう簡単に捨て去ったり、水に流したりはできない
。)

2.市場の「俗説」は信憑性低いhttp://www.sankei.com/economy/news/161030/ecn1610300004-n4.html、10月30日付産経紙「日曜経済講座」欄、筆者:NY駐在編集委員松浦肇
  この論文は、筆者が、20世紀以降の米国大統領の出身政党とS&P500の株価指数との関係を統計的に調べてみた結果が、俗説とは異なると主張する興味深い分析だ。もうすぐ後に迫った大統領選結果との関係でも、米経済の将来動向という側面との関係でも、注目すべき視点と言える。

俗説@共和党なら株高、民主党なら株安。
真説@民主党なら株高。・・・20世紀以降に選挙を経て就任した大統領は延べ人数で29人。共和党15人の平均株価上昇率が25%なのに、民主党14人は39%と上回っている。

俗説A同じ政党の政権が続いた方が株高となる。
真説A政権党が交代した方が株高となる。・・・政権政党が交代した場合の平均株価上昇率は46%と、継続した場合の23%を上回る。

俗説B長期政権の方が株価は上がる。
真説B短期政権(または政権1期目)だと株価は上がる。・・・「2期目の株価は上昇する」と思われがちだが、20世紀以降8人の大統領が続投を果たしたが、2期目以降の平均株価上昇率は16%に過ぎず、これは29ある全任期平均の32%を下回る。

  クリントン候補が当選すれば、真説(注:筆者は「新説」と書いているが小生はここでは「真説」とした方が分り易いと感じた)の3条件中2つを、同じくトランプ候補も2つを満たしている。新説を掲げる本紙の勝手な予想では、両候補のどちらが勝っても似たり寄ったりの株価動向と言える。

  (小生注:小生も、どういう訳か、俗説的に、共和党の方が米経済は好調で、大きな政府を志向する民主党だと経済は不況となる・・・と信じていた。
   筆者によれば、共和党政権が続いた1920年代、ハーディング、クーリッジ両政権を引き継いだフーバー政権下で大恐慌が起き、任期中に株価は72%下げた、という。過剰投資のツケでバブルが崩壊したのだという。また、第2次ジョージ・W・ブッシュ政権(04年、共和党)は低金利を追い風に、好景気を謳歌していたが、不動産バブルがはじけて金融危機が起きた(08年9月のリーマンショック)・・・・同任期の株価下落率は26%だ、という
。)

3.財政赤字削減を急ぐよりも10月26日付朝日新聞「ピケティ・コラム」欄、10月16--17日付仏ルモンド紙からの抄訳、筆者:Thomas Piketty
  フランス人が不機嫌なのはなぜか、としばしば質問を受ける。答えは簡単だ。(仏を含む)ユーロ圏諸国は、各国政府の失政の結果、第二次大戦後最も長い停滞を経験しているからだ。2017年には、ようやく07年の経済レベルに持ち直す見込みだが、地域や社会階層の格差拡大を伴っており、とりわけ若者や低所得層は不完全雇用の度合いが高くなっている。

  08年の世界金融危機の発端を作った米国は、柔軟な財政政策で景気を立て直した。一方のフランスはどうか。07年末の失業率は7%ていどだったが、今年末には10%ほどが見込まれている・・・つまりは、およそ5割増しだ。
  08年以降何故爆発的に失業が増えたのか?答えは緊縮財政だ。より正確には、財政赤字幅の削減を急ぎ過ぎたことにある。その結果、11--13年のユーロ圏の景気は急激に悪化し、今ようやく復調しつつある。
  EUの予算基準は、厳しく財政規律を課し、財政赤字幅を最大でもGDP比0.5%以内などとしているが、このようなルールを改正しないと、停滞を克服できない。

  赤字削減を急がないことで生じた「余裕」は、富裕税の廃止など、高所得者を対象とした富裕層優遇などの時代錯誤的税制に使ってはならない。社会で最も弱い立場の人たちを守ることに、そういう人たちの将来のための投資に、使うべきだ。
  1950年代、ドイツとフランスが過去の負債を帳消しにし、将来への投資を実現したことが欧州の復興につながった。今では、このような事実が忘れられている。

  (小生注:あの有名なピケティ氏も、財政赤字容認、一種のヘリ・マネー的な投資で、社会の弱者層に投資すべきと言っている。ドイツ政界の凝り固まった「緊縮財政至上主義」的な経済思想が、ユーロ圏の不況を深刻化し、社会不安を増幅しているということ。

  安倍政権が13年に「異次元金融緩和」と「財政出動」を敢行し、その結果円の対ドル相場が対前年比23%強の円安となったことで企業収益の好転、株高が実現したが、14年4月に8%へと消費増税し、同時に公共投資削減など歳出削減したために、家計消費はマイナス、輸出減少、円高などを招来し、不況に陥ってしまったと、産経紙で田村秀男氏は嘆いている:http://www.sankei.com/politics/news/161023/plt1610230003-n2.html
   ちょっとした情勢判断の過ちで、経済の腰を折ってしまうことが、いかに恐ろしいことか、ということである。財政再建という美名を盾に「増税ドグマ」に陥っている財務省に、安倍政権が惑わされたための失政だったのだ。


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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
こんばんは。

 ハラリ氏による『サピエンス全史』、面白そうですね。ジャレド・ダイアモンド氏の『銃・病原菌・鉄』は十年以上前に読みましたが、彼もユダヤ系です。毛髪は中高年状態ですが、ハラリ氏はまだ40歳。氏のいう「認知革命」の結果、人類は宗教神話に基づくアイデンティティを確立、「虚構の力」で国家を造り上げていったという指摘は同感しました。

 同時にマイナス面も大きく、それが集団としての国家の利害の対立になるのです。残念ながらハラリ氏のようなイスラエルの知識人は少数派でしょうね。イスラエルもユダヤ原理主義が台頭しているし、何事もラビに相談する優秀な学識者もいる。
mugi
2016/11/09 22:09
こんにちは、
 上記の書評は、ハラリ氏の来日時におけるインタビューでの「本人の発言」も加えての論評らしく、特に現生人類が「認知革命」によって「虚構」を信じる力を得たことが、文明の起源となったし、国家概念なども生まれたという。
 小生は、これまでこういう議論を聞いたことが無かったので、本当にびっくりしたし、歴史好きとして、書いた史書にばかり注目してきたけど、「虚構」という視点に立てば、あらゆる歴史、宗教、神話についても、より上からの視点で客観的に眺める立場がありうる・・・・そういう大きな視点でみれば、色々の歴史も変わった視点で評価をやり直せるということ。
  まったく、大きな俯瞰図を得たという気分です。筆者がユダヤ人であることにこだわる必要性もない・・・人類にとって、新しく視野を広げるための良きアドバイスと思えました。
室長
2016/11/10 09:52

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