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zoom RSS トランプ現象はノスタルジック反乱だ!

<<   作成日時 : 2016/12/08 11:43   >>

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  11月9日、米国大統領選でトランプ新大統領が誕生することが明らかとなって以来、小生もこの現象につき、何かコメントしておくべきと考えていたが、あまりにも多くの情報が氾濫したので、頭がまとまらなかった。
  しかし、少しくらいは自らの観察眼を披露しないと、ブログ書きとしては情けない。そういう思いで熟考を重ねてきた。
  少しでも小生自身の爪痕を残したい、ということで、下記に書いてみた。

1.老人層のノスタルジック反乱
  小生が考えるに、英国のBrexit(EU離脱決意)も、米国のトランプ候補勝利も、背景として一番腑に落ちるのは、中高年層で、かつてはインテリでなくとも職場が確保されていたブルーカラー層が、先進国における「製造業の衰退」で、工場が新興国、後進国に奪われ、活躍の場を失ったことに対し激怒したということ。
  自分たちの青年期には、当たり前のように、中学、或いは高校を卒業したら、大企業の工場での職場が待っていて、大量・集団就職できたのが、自分自身が工場の閉鎖で失業したとか、あるいは自分の子供たちの世代になったら、工場が消えていて、就職先がない、などの事態を理解・容認できず、政治家が悪い、グローバル資本主義が悪い、と考え、昔の時代、工場の煙突から煙が出ていたた頃に世の中を戻そう、という意識が強くなったということではなかろうか。

2.冷戦構造の中、第二次大戦後の最初の「新興国」として躍進したのは、日独だった
  1960年代を振り返ってみれば、米ソ対立のさなか、対ソ冷戦という枠組みの中で、米国からの庇護を受け、独日両国は産業復興のチャンスを与えられ、年々製造業を強化し、生産を著増させていった。

  1969--70年に小生は1年だけブルガリアのソフィア大学に通うことができ、その時経済学の授業で、教授から質問され次のように回答したことを覚えている。質問は「日本での自動車生産台数は、年間何台だ?」と言うもので、小生の回答は「1000万台です」と言うものだった。クラスの他の学生たちが「1千万台!??」とどよめいたので、逆に小生がびっくりした。(注:共産圏では、外部情報が規制されていたから、教授でさえも日本の製造業の巨大化につき、十分な知識がなかった。)

  考えてみれば、当時のソ連圏での自動車生産と言えば、ソ連が50万台、東独が10万台、チェコスロバキアが8万台、ポーランドが2万台、程度だったのではなかろうか(注:詳しい共産圏の当時の生産量統計が手元にないので、あてずっぽうで申し訳ないが)。つまり、日本1カ国の乗用車生産量さえ、ソ連圏が束になってもかなわなかったということだ。ブルガリアの自国での自動車製造はゼロで、毎年5万台程度をソ連、東独、チェコの3カ国から輸入できただけで、全く需要を満たせていなかった。

  小生にしてみれば、自分の(日本の)大学時代の常識として、自動車1千万台、米、魚も1千万t・・・これらが日本国家を支えている根本的数字、と考えていたから、すらすらと「自動車1千万台」と言えたのだ。ところが、ブル人の教授ですら、そういう数字を知らず、うろたえていたし、学生たちにはもちろん腹の底では「大嘘」としか感じられなかったであろう。もっとも、当時の日本国は、トランジスタラジオ、テープレコーダー、カメラ、自動車(トヨタ、ホンダ、日産は共産圏諸国の若者たちにとっては手の届かない夢だった)などで、世界中に知られていた側面もあったし、ブルガリアに当時存在したドル・ショップ(外貨専門店)では、東芝、シャープなどのラジオ、カセットテープレコーダーなどが、垂涎の的だったから、「嘘だ!」という声は結局は聞こえなかったのだが。

3.あまりの日独における製造業の強さに、戦勝国である米英でも反感が高まった
  1970年代になると、日独両国が自動車産業、家電業界で市場を独占する勢いを示し、他方でベトナム戦争の泥沼にはまり、米国内の製造業である繊維産業、自動車産業が痛手を受け、米国内における「反日感情」は頂点に達し、米日経済摩擦が日本国外交にとっても放置できないほどとなっていた。英国も、同様にドイツによって製造業全般を攻められ、「ゆりかごから墓場まで」の福祉国家としての経済基盤が傷ついた。
  日本車が米国でハンマーでたたき壊されたり、繊維交渉では、ガットの自由貿易協定に違反する保護貿易主義が米国によって強制され、通産省が泣いた。

4.本当の米英における製造業の衰退は、中国とその他の新興国(BRICS)の台頭で更に極まった
  米英両国の反撃は、レーガン政権、サッチャー政権が打ち出した、強いドルなどの「金融マジック」と対ソ連強硬政策・・・という「見せかけの反攻、追い込み作戦」であった。これはソ連圏の崩壊を導き、この戦略的勝利で、一時的に成功しているように見えた。経済政策では、自由競争の強化、規制緩和、などで、国民の「やる気」を喚起する方策にすぎなかったが、成功したように見えた。

  ソ連が、冷戦時期において、軍事対立・軍需生産に専念し、民需を無視したため、市民が欲する家電製品、乗用車、或いは軽工業品であるジーンズ、服飾品、コンドーム、生理用品、などの商品を供給できず、国民の士気がガタ落ちしたため、ゴルバチョフは対立を止め、市民生活に配慮する方策を考えざるを得なくなったことが、ソ連・東欧共産圏の解体を招いた。IT革命というコンピュータ技術の急進歩にソ連が追随すらできなかったことも、ソ連側の自信喪失につながった(アフガニスタン介入の失敗も原因の一つ)。

  これは確かに、米英の勝利ではあったが、他方で、足元では、製造業が日独に奪われた上に、レーガン、サッチャーが推進した「自由競争、自立精神、規制緩和」の流れは、IT革命、欧州統合の進展という要素も加わりつつ、欧米大企業による対中国投資ブーム、或は日本国による東南アジアへの投資ブームとなって、全体を俯瞰して見れば、製造業の一部が「新興国へ移転される」結果となり、米英、西欧などでは、激しい国内製造業の衰退=空洞化をもたらし、失業率の増大、移民の増大、など社会問題の蓄積を招いた。
  
5.金融で稼ぐ・・・リーマンショックで敗北
  新興国への製造拠点の移転で傷ついた先進国経済を、一時的にせよ救ったのは、「金融技術」というマジックに頼った、先進国での試みだ。

  しかし、実体経済の繫栄とはかけ離れた、ごまかしの経済成長と、一部金融業者のみの稼ぎの累積も、リーマンショックでバブルがはじけると、メッキに過ぎなかったことが判明し、結局は、BRICSなどの新興国に「経済の重心が移転」してしまったことが明白となった。

6.ブルーカラーたちが反乱を開始・・・昔の工場を取り戻せ!
  とうとう、かつての後進国に、低賃金を武器とした成長路線で経済の重心が移転したことが判明し、かつて日本の急激な生産拡大に激怒したブルーカラーたちが、今度は中国の低賃金による「不当な競争」に激怒し、保護貿易によって製造業を復活させるべきだ、国産の製品が市場に溢れ、失業が無かった時代を取り戻すべきだ、という声が、一部の政治家たちによって叫ばれるようになった。西欧では、ソ連解体で解放された東欧への生産拠点移転で、多くの工場が更に倒産した。

  中高年の昔のブルーカラーたちを中心に、「暴言でも本音がよい」「正直に言おう、俺たちは工場という地元の職場を取り戻すべきなのだ」という形での反乱が起こっている・・・これがいわゆる「トランプ現象」の基本構造だと思われる。
  つまりは、60年代、70年代に、工場でしっかりと働き、夕刻には帰宅前に酒場で一杯飲んでいた「良き時代」を経験した人々が、「なぜ息子たちには職場がないのだ?、なぜ娘はまともな男と結婚できないのだ?、なぜ政治家たちは我々の苦境に目を向けないのだ?」と憤っていた、そういう声を、右派系の政治家たちだけが気付いて、拾い上げるようになった・・・ということなのだろう。インテリのリベラル層、彼らを代表する政治家たちは、ブルーカラーたちにも1票があるということを忘れていたらしい。

  すなわち、根本的に言えば、かつての西欧、米国の地方都市に栄えていた、大企業の工場という、安定した職場を奪った、全ての従来の政策が疑問視され、激怒の対象となっている。右派系政治家への支持層は、結局は、過去を懐かしむ「ノスタルジック反乱」を試みている、と見るべきであろう。


7.ノスタルジック反乱に勝算はあるか?
  さて、英国、米国での市民たちの「反乱」の心理的分析は、一応小生自身の頭の中では完璧に見えるのだが、将来性はどうか?一言で言えば、昔通りの工場の復活などは、ありえない・・・少なくとも、衰退した工業地帯に工場が戻ってきたとしても、それは新しい分野での製造業であって、昔通りの工場が再開できるわけではない。

  低賃金を武器とするアジア新興国の中では、既に完全に上昇路線に乗っかったタイ、ベトナムの他にも、新たにバングラデシュ、インドネシア、ミャンマー、カンボジア、などという諸国が経済成長の波に乗ろうとしているし、アフリカでも、エチオピア、ケニアなどでも製造業が「移転しつつある」ようだ。
  中南米も、ブラジルが今苦吟しているが、アルゼンチン、チリなどと同様に「食糧大国」であり、農産品の輸出産業はこれからも繁栄するはずだ・・・食肉、ワイン、更には鮭、ウニなどまでが、日本の食卓に届いている。

  グローバルな経済統合は、一時的に勢いを殺がれることがあっても、IT革命で情報が瞬く間に広がる時代で、しかも、60年代、70年代に比べれば、インターネット、Skypeなどの登場で、地球の反対側ともより確実な商談が可能な時代となっているから、小規模貿易・売買の機会は飛躍的に増えており、経済の国際化は止まらない。

  中国も、通販ビジネスが増大し、日本製のおむつとか、家庭薬など、国民が欲する商品は、世界中から買える時代になって来た。国家が障壁を設けることは市民の利益にはならない。保護貿易主義は、一時的には国民の利害調整に役立つように見えても、結局は、長続きは無理だろう。

  そもそも、経済という分野は、日進月歩の側面があり、長年安定して需要が維持され、工場が繫栄できるというのは奇跡に近いことなのだ。他方で、生き残りのためには、商品ごとに、他の商品にはない強みを持ち、消費者を継続的に満足させていく必要がある。また、その商品に関しては、競合品に常に勝ち続けるという、不断の努力が必要だ。
  つまり、製造業も、加工業も、伝統的製品も、夫々が工夫して、生き残り戦略を追求していかねばならないし、低賃金国で生産が始まって追い上げられたら、別の商品を開拓せねばならないのであろう。難しい時代になったのだ。 

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ノスタルジック反乱(その2)・・・愚かな選択?
  昨年末の記事として小生は、トランプ現象について、これを「老人層によるノスタルジック反乱だ」と言う分析を書いた(http://79909040.at.webry.info/201612/article_1.html)。   要するに、蒸気などの煙をもくもくと噴き上げる旧式の工場で、日々同じ製造ラインに並んで、同じ仕事をこなしておれば、それなりに高い賃金を約束され、平穏な毎日を送れたし、妻帯して子供を数名養うことも可能であった、そういう「良き古い時代」を経験したブルーカラー層が、IT革命... ...続きを見る
ブルガリア研究室
2017/01/19 14:21

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内 容 ニックネーム/日時
低賃金国の生産コストが低い理由が賃金(人件費)だけなら、何とかなると思いますが、それだけではありません。
緩い法規制(人権、健康、環境、独占、会計基準、収賄)、安い公共料金、安い法人税、など国策で(というか上流階層の利益のために)国民を犠牲にして自国企業に有利な経営環境を作っています。

ところが、先進国の投資家や企業はそういう企業に投資して利益を吸い上げています。Apple が児童労働の疑いのあるサプライヤーを使っていたように。
先進国の資本家が、(種々の法規制により)先進国の労働者から搾取できなくなったので、低賃金国の労働者を搾取していると言ってもいい構造です。

だから、日独の勃興とは状況が異なります。日独は国民国家ですから国民のために行動していたわけで、徐々に英米と似た経営環境になっていきました。
しかし、今の低賃金国については、真っ当な国民国家になり国民を保護するようになるまでは、先進国と同等の経営環境になるのは無理でしょう。韓国ですら上記の国策が全部当てはまるわけですから。

motton
2016/12/08 16:28
こんにちはmottonさん、
  確かに、先進国企業が中国に進出したり、東南アジアに進出する利益としては、低賃金労働力、という以外に、外資の進出を誘致するために設けた、低い法人税、緩い環境規制、その他の優遇措置も加味して考えるべきですね。

  その他に、現地で受け皿となる、提携先の現地企業として、現地の資本家、支配者層と癒着した企業・財閥などの存在が、一般国民の利害を無視してさえ、高い利潤を追求し、資本家たちの利益を増幅している・・・・この故に、受入国の官民一体となった体制=「国民国家の形成」には必ずしも結びついていない、という状況がある・・・という指摘は、鋭いですね。

  韓国も、中国も、国民レベルに至る一定の経済レベルの向上には繋がっているけど、それでも、伝統的な体制=儒教国家的、古代的な社会体制・体質そのものは、依然として残ったままだし、民主制への進化、移行が見えてこないという欠点がある。
  タイなども、王制と軍部独裁の癒着という形で、既成支配者層の利害を継続していて、新興階層による権力掌握は許していない。
  つまり、アジアでは、社会の支配層の交替を許さないまま近代工業社会に移行し、あわよくば民主制にも一定の枠を作って、急激な社会変革を避けようという、そういう力学が強いようです。
  バルカン半島でも、ルーマニア、ブルガリアなど、旧共産政権時の若手党員とか、元秘密警察の官僚たちが、マフィア資本家時代を経て、自由化後の支配者層として活躍していて、過去の時代から完全には脱皮できない。
室長
2016/12/09 09:04
こんばんは。

「トランプ現象は老人層のノスタルジック反乱」という表現はユニークですね。彼の支持層は低所得の白人の中高年男性が多かったようですが、若いインテリ層や女性の間にも投票者がいたようです。米国のメディアは盛んにトランプの女性問題を追及していましたが、これには既婚女性には不評だったとか。私自身、トランプの女性蔑視発言をそれほど不快には思いませんでしたし、何年も前の発言を今さら蒸し返すのはかなり意図的でした。

 今回の大統領選で、メディアの大外れは無様そのものでしたね。日本のマスコミも酷いけど、米国もあまり変わらなかったようで。いわゆる選挙のプロによる分析が当たらないのだから、解析能力なしと見なされて当然でしょう。メディアの困惑ぶりも、過去と現代のギャップへのノスタルジック現象に見えます。

 そして、ノスタルジック反乱に将来性はないという貴方の見解は正しいと思いますし、重い気分になります。ノスタルジックだけでは低賃金国に太刀打ちできるはずもなく、まさに難しい時代になりました。
mugi
2016/12/09 21:32
こんにちはmugiさん、
 NYタイムズをはじめとする米国のインテリ向けメディアが、実は記者の多くがリベラル=左翼系の記者たちが横行する偏向報道の元凶だ、ということは、「正論」誌、Will誌などの日本の雑誌などではしばしば指摘されていた。安倍総理についても、「右翼、ナショナリスト、軍国主義者」などと、中国紙と同じような偏った論調が蔓延っていた。賢明で中立的な論評を心掛けるべきジャーナリストとしては、完全失格だったけど、その浅はかな知能程度が、今回の大統領選での偏向報道ぶりで暴露されてしまった、ということで、メディアがまともになってくれるといいのですが。もちろん日本でも。

 小生としては、トランプの品性とか政治指導能力に関して今も疑問符を持ったままですが、少なくとも大衆の心は読みとっていたし、将来展望でも、オバマの受け身に対し、攻めの姿勢で外交、内政を推進していく決心をしていて、案外レーガン政権のように、強いアメリカを再現するのではないか、と期待しています。
  ただし、TPPを廃案にして、保護主義貿易に戻しても、工場とか古い会社の再生にはならないと思う。アップルが強いのも、中国大陸での低賃金労働が支柱ですから。米国自動車業界も、部品工場などがメキシコに移転して、低賃金を利用して生き返っている。

  しかし、政治家たちは、急激な経済変動で閉鎖される工場、解雇される労働者たちへの配慮を忘れれば、このような結果が起きるという教訓を得た、とも言えます。
  国内経済へのショックは、色々緩和策を採用しないといけません。
室長
2016/12/13 09:27

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