宗教、伝統、IT革命と金の自由

 さて、これまで、小生は、失敗に終わったブルガリアの社会主義に関する考察から、金に自由を与えて、人々に自ら用意した金で、自ら商売を興して金儲けをする自由を与えること(資本主義の容認)が、人々の創造力を活性化して、社会を豊かにするし、民主主義の進歩にも寄与すると説いてきた。
 また、前回は、社会主義におけるモノの統制同様に、人々から「金の自由」貫徹の可能性を阻害する、もう一つの要因としての伝統社会という弊害にも言及した
 今回は、更にもう一つの弊害として、宗教を取り上げてみたい。
 今回も実は、小生がアイルランド(カトリック至上主義の国家)に住んでいた頃の経験に基づく部分が大である。
 なお、更に付随して、IT革命がもたらした地球規模の金の自由に関しても若干の考察を試みた。

1.宗教が人々の意識の大半を占める社会 
 人間が日々暮らしていく際に、どういう意識で、何を目指して生きているか、ということを考えてみると、世界の各地では、宗教という規範、または伝統に縛られて、そういう固定観念にとらわれて、自由を失い、思考停止している人々がいかに多いか、ということに気付く。
 固定観念、思考停止こそは、人間社会の発展を阻害し、個々の人間の自由な創造性発揮を阻害する要因である。そして、そのように自由な発想、創造性を阻害する思考停止を導く大きな社会的要因が、一つは社会主義体制という疑似経済学(社会主義イデオロギーとか、唯物論とか呼ばれ、また伝統宗教を邪教として排除したことから、それ自体も一種の宗教的思想とも言われる)信奉社会 、一つは長時間かけて成立した家柄尊重で個人否定の伝統社会、そしてもう一つが、人々の強烈な信仰心に支えられる宗教社会である。

 日本のように、仏教、神道という2つの根本宗教が存在しつつも、新興宗教信者以外には、日頃ほとんど宗教に縛られていない、宗教からかなり自由な国民が大部分という国家は、実は世界的に見ると必ずしも多くはなく、世界中で伝統社会の多くは、必ずといって良いほど、それぞれの伝統宗教と結びついている。

 その場合、それぞれの宗教は、人々の生活信条とか、生活態度かを縛って、多くの人間を思考停止状態にしてしまっている。このことが、個々人の才能を縛って、人間の創造性に対し、抑制的に作用していると考えられる。

 即ち、一番顕著な例は、中東とか、アフリカなどのイスラム系の諸国である。現状では、IT革命とか、資本主義的進歩など、人類の発展に寄与する程度が一番低いのが、中東、アフリカの人間ではないだろうか。もちろん、現代社会のエネルギー源(石油、天然ガス)の最大の供給地であり、現代社会の発展に一番貢献している地域である、という見方もあり得るのだが、所詮は貢献しているのは、地下から出てくる資源であって、人間ではない。

 イスラム教の欠点は、金貸しなどの金融業を悪と見て、金利を認めないことにも現れている。もっとも、産油国の銀行業は、金利を別の呼び方で信仰に反しないようにするなどの工夫で現代社会に適応しようとしているそうだが、所詮根本的には、金の自由を認めていないのであり、そのような社会には、小生のこれまで述べてきた「金の自由」理論によれば、真の発展の可能性は低い。

 もちろん例外もあり、中東で同じく伝統主義、宗教至上主義の権化みたいなイスラエルが、それではなぜIT革命を含めて、ハイテクとかにも強い競争主義社会の成立に成功しているのか、という疑問もあり得る。他方で、イスラエルという国は、周囲をイスラム至上主義の国家に囲まれ、生き残りに全てのエネルギーを注入せねばならず、自ずと危機管理とか、周辺国からの競争(石油マネーによる挑戦を含めて)に対抗する知恵、とかが発達しているし、また、近年はソ連崩壊後、ロシア、東欧から続々とユダヤ系の人々が移民してきて、競争社会が成立しているという側面もある。それに、大部分の国民は、宗教にさほど関心がなく、宗教的制約が、それほど強くないとも言われている。特に旧ソ連からの移民達は、社会主義体制下、反宗教教育を受けてきた人々であり、宗教的狂信とは縁遠い人々が多いと思われる。

 肝心のブルガリアについて述べると、ブルガリアでは、89年末の「変革」後は、宗教の自由化がおき、ブルガリア正教(東方正教会=オーソドックスの一派)への信仰が復活しているが、他方では、正教内部にも、イスラム教の場合にも、主導権争いが生じたりしているし、国民が再び敬虔な宗教信者になったようにも見えない。もちろん伝統と、歴史の復活の一環として、宗教的関心も復活してはいるのだが。

2.アイルランドにおける自由度 
 アイルランドで暮らしていた頃、大きな社会問題は、米国でも問題となっていた中絶問題だった。隣国の英国では、プロテスタント系教会が主体で、プロテスタント達は、近代社会に適応しており、中絶の自由に関し、それなりに寛大な法制がある。他方で、カトリック教会は、未だに「胎児の生きる権利」を重視して、中絶の自由には不寛容であり、故に「母親の産まない権利」を許すような法改正には否定的なのだ。

 単に中絶関連の立法問題ばかりではなく、そのほかの伝統的価値観とか、慣習・因習とかも含めて、アイルランドの現代的女性達、インテリ達には、隣国英国、或いは米国などと比べて、古い価値観、古い法制度の中で、自由が、或いは現代社会で常識的な権利が行使できないとして、教会、宗教に対して、大いに反発している人々が多かった。彼らと話していて、日本ではそういう問題はほとんどない、日本では宗教的制約がほとんどないから、というと、うらやましい、という反応であった。

 90年代初期のアイルランドでは、カトリック教会の「生きる権利保障」という立場故に、子だくさん、高失業率、低収入などが大問題となっていた。そして、一部の識者の間では当然のことながら、あまりにも絶大なカトリック教会の存在が問題視され、その反動として、一部高位聖職者が米国人の愛人に複数の子供を産ませ、米国に旅行するたびに、一種の家庭生活を楽しんでいたことが、重大なスキャンダルとして、報道されたりもした(ちなみに、プロテスタント系教会では、聖職者の妻帯が許されるし、女性神父も出現しているが、カトリック系の教会では、聖職者の妻帯、或いは女性神父、などは未だにあり得ないことであり、愛人を囲うとか、子供を産ませる、などはあってはならないことである)。

 こういう「宗教的な保守主義、伝統主義」故に、アイルランド社会は、固定観念にとらわれ、思考停止に陥り、成長とか発展とかからは取り残され、ほぼ永遠に社会進歩はプロテスタント国には劣ると見られていたほどである(70年代、80年代には、悲観論が蔓延していた)。

 なお、アイルランドという国の特異性として言及しておきたいことは、同国ではそのカトリック至上主義は、同国を植民地支配した英国への反感が、そのカトリック教会尊重への一つの動機付けとして作用していたということ。
 更には、1930年代からの欧州における反共産主義運動の高まりということもあり、当時のアイルランド国首相デバレラは、カトリックの本山ヴァチカンと秘密条約を締結して、アイルランド国の外務省は「国際反共運動に参画、荷担する」と約束していたこと。

 伝統と宗教を重んじる国家は、社会主義運動の危険性、まやかしに早くから気付いていたとも言えるだろう。他方で、一国の外交の基本を、一つの宗教団体(カトリック教会=ヴァチカン)との秘密協定で決めるということが、国際社会ではあり得るということを日本国民は知っておく方がよい。宗教は、決していつも「葬式仏教」の段階にのみとどまるほど、行儀良くはない。ヴァチカンは一定の宗教イデオロギーを世界的に広めるために、アイルランド外交全体を乗っ取っていたらしいのだ(この「事実」は、アイルランドの新聞で一時報道されていたし、アイルランドの元外交官もその事実を確認していた)。

3.IT革命は、伝統と宗教という固定観念からの解放を可能とした 
 しかるに、90年代半ばから、アメリカでコンピュータ技術が急発展し始めると、英語国で、教育レベルが高く、人材豊富なアイルランドは、ソフトウェア開発拠点、或いはコンピュータ販売会社の電話によるクレーム対応の拠点(コールセンター)として、米国PCメーカーにとってなくてはならないパートナー国となり、雇用の急拡大、多国籍企業の進出が相次ぎ、誰もが予想しなかった急成長国となった。今では、アイルランドは、宗教的制約故の後進性などという範疇には入らない、先進国になった。分岐点は、90年代半ばのほんの数年間であり、小生としても未だに信じられない気持ちである。

 もっとも、社会主義の崩壊・修正、IT革命、流通革命、生産革命などがあっという間に起きた、90年代前半から今日までの15年ほどで、社会のありようが、以前と革命的に変化した国には、ロシア・東欧の諸国、中国、インド、ブラジルなどを含めて世界的に少なくはない。 しかし、一般的には、特に日本では、英国内の田舎と同一視されてきたアイルランドで、伝統社会の崩壊とか、宗教的情熱の崩壊とかが主因ではなく、IT革命が「伝統社会、宗教社会」の欠点を克服する切り札になった、ということは注目すべき新しい展開と言うべきである。

 そもそも、ソ連邦が崩壊していった一因として、ソ連が情報革命、IT技術で米国に立ち後れたから、という側面をあげる場合もある。米国のスーパーコンピュータが、ミサイル迎撃技術を革新したとして、クレムリン内はパニックとなったらしい。

 自国民、或いは東欧諸国の国民に対して、情報の流入を制限していた社会主義体制では、コピー機ですら、印刷機の代わりになり、一部の危険思想を流布する目的で使用されると警戒され、大量生産されなかったほどである。ましてや、パソコン、或いはインターネットなどは、情報の自由な流布に最大限寄与しうるので、危険すぎて、社会主義国ではこれらを大量使用することを考えもしなかったのだ。単に軍事用に開発し、或いは米国技術を盗んで、盗作していただけなのだ。

 しかるに、米国におけるIT革命の成功は、90年代という一時期にせよ、生産現場での合理化、特に流通企業における販売面での技術革新を生み、生産性向上、あるいは情報の国際化、普遍化を促すこととなった。あらゆる情報が、衛星TV、インターネットを通じて、世界中に流れるようになり、伝統社会、宗教社会などにも、それなりに「国際標準化」された情報が流れやすくなった。

 もちろん逆の側面もあるようだ。アルカーイダなどの極端なイスラム至上主義、テロ至上主義者らも、インターネット技術を使用して、国際的に人材を募集するようになっている。とはいえ、やはり狂信的な宗教団体は、イスラム国、或いは先進国内の閉ざされたイスラム社会、などでのみ栄えているように見える。その合い言葉は、現在の所「反米主義」らしい。英国・米国が中東の石油、天然ガスを独占的に支配してきたこれまでの約1世紀にわたる体制が、アルカーイダとか、イスラム教徒らには、理不尽な体制であったという不満があるからであろう。

 米国の中東石油独占の、軍事的先鋒役(或いは、英米権益の保護者役)を務めてきたイスラエルが、イスラムの聖地の一つエルサレムを管理していることにも不満があろう。しかし、米国の中東石油独占体制には、穴が開きつつあるし、世界情勢も変化しているのだ。

4.IT革命の更なる進展と伝統、宗教への影響
 さて、21世紀初頭の今日、IT革命が更に世界中で進展し、インターネットによる、或いは衛星TVによる情報が世界中に、より急速に伝達されるとして、やはり起きうる大きな変化の一つは、国際的な情報の平準化、伝統社会、宗教的狂信主義からの解放ではないだろうか。

 人間がより知恵をつけ、極端な思想から自由になれば、現代的な知的競争が世界的に生じて、必ずしも国家とか、国民、人種にとらわれずに、個人としての知恵が開花しうるのではないだろうか・・・・これが小生が期待する肯定的な変化である。世界的な情報の拡散で、日本式のアニメが世界に受け容れられる、と喜ぶ人もいるが、それは今後のIT革命社会のほんの一部の変化のように思える。

 むしろ大きな変化として期待すべきは、地球規模の競争社会となって、国家、団体(宗教団体、政治団体、NPOなどを含めて)への帰属にかかわらず、個人としての能力の競争となること、そして個々人の持つ金が、国際的に自由に行使しうる資本として、金の自由という競争原理を十全に発揮して、国家、団体、組織の枠を超えて、公正な競争社会が出現すること、これこそが人類社会の理想のように思われる。

 この点に関しては、単なる小生の希望的観測なのだし、国家、或いは団体、組織などもIT革命を自分に有利となるように活用しようとしてしのぎを削っているので、これが個人そのものの発展にすぐに有利に働くようになるかどうかは、もちろん即断できることではないのだろう。

5.結論
 未来予測に先走りすぎたようなので、話を少し戻すと、小生が言いたかったのは、

(1)社会主義理論に基づくモノの統制が、非人道的な、政治エリート独裁をもたらし、また経済の衰退をもたらし、結果として大部分の社会主義国家が崩壊したが、

(2)社会主義への盲信が崩壊して、小生が理想とする資本主義社会がより勢いづいて、即ち金に自由があり、金儲けを動機とする個人の競争が、「神の意志」に基づき、資源の適切配分をもたらし、経済の繁栄をもたらし、同時に民主主義社会も実現させる、という肯定的変化をもたらすということ。

 次いで、金の自由を阻害し、資源の適切配分を阻害する要因としては、社会主義以外にも、(3)家柄至上の伝統社会という、
 或いは(4)宗教教義至上主義の宗教社会という、固定観念、思考停止の社会が存在すると言うこと。

 金の自由が、単に一国内のみではなく、地球規模で貫徹、展開されたのが近年(90年代以来)の大変化の原動力である。インターネット技術の発展というIT革命が、国境を自由に越える金の自由という夢のような現状を出現させた。金の自由が、単に先進国内のみではなく、新興国家群の中においても実現されだして、中国、インド、ロシア、ブラジルなどの、これまで経済的後進性に泣いていた諸国にも、経済発展をもたらしつつある。

 願わくば、これらの変化が、一部の国家の急拡大、急成長ではなく、むしろ人間個人の個別的発展、可能性の拡大という方向に修正され、新たな国家間の軍事衝突をもたらさないことを祈りたい。

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