北朝鮮体制の崩壊?

昨日読み終えた新書の綾野(リン・イエ、仮名)著・富坂聰編の『中国が予測する北朝鮮崩壊の日』(文春新書、2008年5月)によると、中国は「6者協議」議長国という役割を引き受けたせいで、種々の不利益を被ったと、中国軍の情勢分析専門家が評価しているという。
その他にも、我々が気付かなかった、面白い視点が中国側専門家の側にはあるようであり、このような、中国側分析(元来は極秘文書らしいが、富坂氏が入手した段階までに、中国側もより広範な党内配布に備えて(すなわち外部漏洩の危険を想定して)、若干の情報を削ったり、付加したりしている模様。)文書を、そのままの形で読めるようにしてくれたことにつき、富坂氏とこの新書の功績に感謝したい。
  ともかく、本書の予想は、金正日から次の第3世代への北朝鮮金王朝の世襲成功の可能性は低い、北朝鮮の現体制は、金正日死亡後崩壊する、というものである。とはいえ、現在65歳の金正日が、あと5年生きられるのか、10年生きられるのか、或いは15年生きられるのかで、後継候補者の育成、同人への「帝王学」の成否の可能性も、変わって来るという、予測である。
  この新書に関し、少しコメントをしてみる。

1.先軍政治の自縄自縛
  北朝鮮は、社会主義政権として「あり得ない」はずの世襲制度を敷く、中国としても全く気に入らない、怪しげな政権、体制であるという。
  他方で、北朝鮮の金日成は、ソ連、東欧の社会主義体制崩壊、或いは中国における改革開放政策(共産党政権のくせに、資本主義を導入)という流れを一切受け容れず、政権の世襲に固執して、そのために20年以上もの長い年月をかけて金正日を育成し、かつ北朝鮮軍部を金王朝の要の組織として重視し、2200万人の国民数で、110万人という膨大な常備軍を抱え込み、いかなる国内反乱も直ちに鎮圧できるようにしたという。国民10人で一人の兵隊を食わせなければならないのだから、GDPの3割が軍事費となり、普通の国家(軍事費の対GDP比は3--5%)の10倍という戦時経済体制を、平時においても維持していることとなる。

  実際には、国民経済の側には軍隊を養える能力もないので、軍自体が「第2経済」という経済部門を経営し、国内の主要な鉱山、森林、港湾、農地などの「金になりそうな部分」は全て、軍直属の企業が直営しているらしい。外国貿易企業の多くも、軍直属の企業で、これらが外貨稼ぎのために、偽ドル札、覚醒剤、偽タバコ(JTのタバコの模造品など)などを取り扱い、更には、武器輸出で稼ぐらしい。

その軍隊110万人の内、20万人ほどは、建設労働を主体とする「軍人建設者」であるらしい。そういえば、昔社会主義時代のブルガリアにも、「建設軍」という組織があり、各種の工場建設、或いは市民用の住宅建設にも、この「建設軍」部隊が投入されていた。もっとも、建設軍の将校は、それなりに軍人であっても、部下の隊員達の中には、元来が犯罪者などの懲役刑者が多く、懲罰としての重労働義務を課された者が多くいた。すなわち、「囚人部隊」が建設軍の実態だった。北朝鮮でも、労賃を支払う必要がないタダの労働力として、一部の徴兵・劣等兵士を「軍人建設者」として活用しているらしい。北朝鮮の場合、刑務所の囚人達は、強制労働キャンプなどでこき使っているので、囚人建設部隊という制度はないのかもしれない。
  ともかく、我々効率を重視する資本主義圏の人間が見れば、明らかに無駄で、非人道的な労働搾取のあり方が、相変わらずまかり通っていると言うことらしい。

  そういう、非効率で、低生産性の経済で、110万人の軍隊を食べさせると言うだけでも、国家として大きな無駄遣いだし、その非効率的経済の中で、一般国民はまともに食える状態になぞなるはずがないし、全ての食糧が軍隊に優先配分されるのでは、国民は哀れと言うしかない。しかも、軍隊の存在意義の大部分が、国内反乱の防止、金王朝存続のためだとしたら、そんな軍隊にまともに対外戦争を戦えるだけの燃料も、あるはずがないと思う。燃料なしで、膨大な数の旧式ソ連型戦車、戦闘機を抱えていても、動かないだろうし、また例え動いても、近代化している中国軍、米軍、韓国軍とまともに戦えるのか怪しい。
  実際には、「張り子のトラ」でも、体制存続のための、対外的な脅しとして通用さえすればよいだけなのだろうが、金王朝存続のためのみに、いつまでも飢餓に近い、貧しい状態が継続されているのでは、朝鮮民族も哀れである。

2.北朝鮮の戦略
  そうはいっても、北朝鮮政権は、90年代初期の相次ぐソ連邦解体、東欧諸国の社会主義放棄、中国の韓国との国交樹立(1992年)などの危機を乗り切り、国内体制の動揺を許さないために、鎖国体制を更に固め、外国からの情報を遮断し続け、しかも中国、或いは米国からの体制への内政干渉を避け、生き残りを図らざるを得なかった。

  06年10月に、核実験を強行し、核兵器保有国となった旨国際社会に宣言したのは、一切の内政干渉を排除して、独自路線を継続し、生き残るという覚悟を宣言したと言うことだ。
  
3.6者協議における中国の無力露呈
  著者の綾野は、「6者協議」で、中国はまんまと米国に乗せられ、議長国の役割を背負わされたが、実際には中国にとって何らのメリットももたらさず、むしろ北朝鮮が中国の説得に耳を貸さず、多額の経済援助にもかかわらず、中国が北朝鮮に対し、何らの影響力も有していないという実態が国際社会に漏れ、恥をかいたと感じているし、表向きの「6者協議」という枠組みでは、何事も動かず、実際には、米国と北朝鮮が直に交渉する「裏交渉」で、全てが動いていること、北朝鮮が、体制存続のために、実際には全ての「交渉」を米国とのみ、単独で話を付けて、その「結果」に基づき、韓国も、中国も、日本も、最後には北朝鮮に経済援助すべきだという、とんでもない態度だ、と分析しているようだ。

  しかも、綾野氏の分析では、日本は米国が北朝鮮と話を付けたら、米国の指令で言われるがままに、金を出すだろうと見ているようだ。また、拉致問題などは、対米交渉の中のホンの小さな一部にしか過ぎない、と見ているようだ。我々日本人として、そういうとんでもない役割のみを押しつけられてはかなわない。

  日本自身には、拉致被害者奪回以外に、北朝鮮との国交正常化など、何ら必要性もないし、正常化に伴って北朝鮮が期待しているのは「賠償金」(例え韓国並みに、これをODA=経済援助資金と名目を変えてみても)のみであるから、そんなものを支払う必要性さえ、一切無いはずだ。

  日本が占領時にもたらした「被害」などと彼らはいうが、日本が北朝鮮に残してきた遺産(発電所、鉄道、鉱山施設など)の方が、金銭的には膨大だ。最近の日本の雑誌には、英国資本などが、北朝鮮の希少金属資源などに目を付けている、日本も乗り遅れるな、式の怪しげな記事もあるが、例え資源があったとしても(大したものではないかもしれない)、それが欲しいから、目の色を変えて投資すべきだ、などと小生は思わない。

  北朝鮮の将来は、韓国に任せればよい。日本にも「応分の援助義務がある」などと韓国人が勝手に言っても、一切無視すればよい。それこそ「歴史認識の相違」である。帝国主義時代の植民地政策に関し、英国、その他の大国が、何らかの賠償措置を執ったとは聞いたこともないし、そういう非常識な言説に惑わされてはならない。日本が昔韓国に「援助」してやったのは、冷戦時代で、韓国をある程度強くしないと、西側全体にとって危ないから、援助してやっただけのことだ。

4.北朝鮮の核兵器は、本当は中国、韓国、日本向け?
  綾野氏の分析で、一番光っている部分は、北朝鮮の核兵器が、北京の喉元を脅かし、更には韓国、日本にとってはそれなりに脅威になっても、米国にとってはほとんど何らの脅威でもなく、またその故に北朝鮮の核兵器と、現在の中国にのみむしろ脅威である北朝鮮政権の存続は、米国の世界戦略(地政学)上は有利であると指摘して、米国としては、北朝鮮を取り込み、更には日本、台湾、韓国をも、再度対中包囲網の中に取り込むことで、優位な極東戦略体制を再構築しよう、というのが基本戦略である、と観測しているらしいこと。
最近の米国の一方的な対北朝鮮譲歩の態度には、中国がそのように警戒するのも当然と見える節がある。日本としても、米国に欺されてはならない。

  中国としては、経済面で中国経済、或いは台湾などが、米国の多国籍企業の生産拠点となっている現状にもかかわらず、また中国が米国国債を買って米ドルの覇権体制維持に貢献しているにもかかわらず、軍事的には、相変わらず米国による包囲網の再構築を警戒しているということになる。

  我々日本にとっても、北朝鮮の核兵器保有によって、北朝鮮という国家が存続し、対中国牽制の役割を今後も果たしてくれるのならば、拉致問題さえ早く片付けてくれるなら、歓迎すべきなのであろうか?
  いやしかし、北朝鮮の核兵器が、中国のみを標的とせず、韓国にも、日本にも標準をあわせていることは当然であり、そのような国家から強制されて、経済援助など、とてもする気にはなるまい。例え、どれだけ米国から圧力を受けても、日本自身の国益として、北朝鮮の核兵器は、ある程度の幹部要員達の合議制を確保している中国の核兵器に比べても、信用できないのだ。

  東アジア情勢は、今後も、このように、いくら考えても油断のならない状態が続くのであり、北朝鮮を民主韓国が飲み込んで、普通の国にしてくれるまでは、我が日本としてはやはり心配だ。いや例え韓国が、朝鮮半島を統一してくれても、韓国民が今のように、間違った歴史認識を持ったままで、逆に日本の歴史認識が間違っているなどと、とんでもない言いがかりばかり続けるようでは、南北統一がいいことなのかどうかすら、怪しい!!

  中国、韓国の両国が、まともな真実の歴史を、自国の歴史教科書に書けるほどに、本当に成熟した民主主義国家になるまで、日本国民としては、警戒心を解かずに、じっくりと両国の成熟を観察しなければなるまい。


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