キューバの改革停滞


 小生は、2月9日付の当ブログ(再び「物資欠乏社会」について)で、キューバの社会主義も、日本の一部テレビ番組が言うほど成功してはいないし、国民の絶望ぶりは深いと書いた。3月10日付朝日新聞記事もハバナに出張したらしい朝日記者の記事で、兄のフィデル・カストロから政権を引き継いで1年が経った今も、弟のラウル・カストロの「経済改革」は、足踏み気味だと報じている。この記事について少し論評してみる。

1.生産性向上は不発
  ラウル・カストロ国家評議会議長は、08年2月24日の就任後、対外的な演説で、①社会主義体制の維持、②生産性の向上、③効率的な社会主義を目指す、という姿勢を示してきた。新政策としては、①遊休地だった国有農地のの農民への貸し出し(注:「世界ふしぎ発見」などの民放番組では、ハバナ市内の遊休国有地=活用されていない公用地、公園の一角、その他を市民に農地として貸し出した、と報じていたと思う。)、②携帯電話の一般開放(注:外貨を入手できる者しか携帯電話を購入できないはずだ)、③パソコンの一般向け販売の解禁(注:同じく、外貨店でしかパソコンは売っていないと思う)、など就任後2ヶ月ほどで次々と規制緩和策を採用した。しかしこうした改革の恩恵が受けられる者は僅かで、これらに手の届かない庶民に対する生活向上策は打ち出されていない由。記者が聞いた市民の声も、「1年前と生活は何ら変わらない、物価は高く、食糧が不足している」、という。
キューバ労働省が、約2千の国営企業を対象に、従業員の勤務状況を調べたところ、「65%が遅刻か早退していた」し、共産党機関紙が2月にあえてこの事実を報道したという。
すなわち、遊休公有地を市民農園に開放して、また、ミミズを利用して有機肥料を活用する(注:化学肥料を輸入する外貨がないから)という手法で、食糧の国産・自給率を引き上げることに成功した、という「世界ふしぎ発見」のキューバ政権礼賛的な報道ぶりは、過大評価なのだ。個人農業を容認したから、食糧生産が回復したという、それだけの話しであり、個人農を認めたことで、農業部門は既に社会主義から離れたと言うことなのだ。(注:東欧では、ポーランド、ユーゴなどが、結局は集団農場体制を導入できなかったが、そのおかげで食糧生産はかなり維持できた。)
  ソ連・東欧でも蔓延していたし、今日のベラルーシでも恐らく未だに蔓延している、「賃金が安い分、労働者は仕事をさぼる」という社会主義国国営企業の実体は不変なのだ。労働者は職場に遅刻したり、医師から病気証明書をコネとか賄賂で入手して欠勤するということがしょっちゅうで、闇の副業に精力を傾ける。アルバイトの方を優先し、勤務先からの早退もしたい放題なのだ。工場の経営側も、原材料の入手・手当がスムースではないから、年がら年中、全ての労働者が出勤してきても、彼らに割り振るべき仕事の量は十分にはないので、繁忙期以外の遅刻、早退、欠勤にはうるさくないし、繁忙期ですら、各個人の副業(闇の仕事)の必要性を知っているので、経営者らもやかましくは言えない。要するに、社会主義のシステムでは、「生産性向上」などは到達不可能な命題なのだ。

2.低品質
  生産性が向上しないばかりではない、社会主義では、前回小生が指摘したように、競争がないので、原材料の品質を落としたり、手抜きをしたりして、品質を落とせば落とすほど、利潤率は高まるのであり、品質向上さえも、あり得ないのだ。

3.体制維持が最優先
  生産性向上とか、品質改善とか、現代工業における最優先課題と言うべき課題が達成不可能ならば、社会主義圏における工業品の対外競争力はゼロであり、そういう国家が生き延びることは、そもそも非常に難しいと思われるのだが、それではなぜ政治家は、或いはベラルーシの年金生活者らは、共産主義を選択するのだろうか。
  その理由は、小生のベラルーシにおける観察から言うと、恐らくは、共産主義思想しか教育されなかった世代の「資本主義は悪」、「資本家は悪」、「悪人ばかりが富を独占する資本主義体制は、庶民にとっては良くない世界」という思いこみだ。また、年金収入が目減りして、年金では食っていけなくなった隣国ロシアの例に敏感に反応して、何が何でも年金支給を確保するといったルカシェンコを信頼するしかなかったのだ。
  なお、ルカシェンコ自身にとっては上記の理由の他に、やはり、自らの独裁政治体制を確立、維持したいという欲望から共産主義を選択したとも言えるであろう。

4.ベラルーシでは、IT化はより進展していた
  小生のベラルーシ在住経験(99--02年)からいうと、ルカシェンコ大統領は、①社会主義的国営企業体制の維持、②集団農場制度の維持、そして③KGBという治安機関の維持(=大統領独裁体制の護衛)、という「社会主義体制の根幹」を維持、継続したので、結局ある程度理論的には容認した市場経済も、闇市場的な市場の容認と御用商人的な人物による一部「民営企業」の容認(これら私営部門からは、高い税金を取る。或いは、独裁者個人、家族向けに「献金」をさせる。)、という、極めて限定的な「開放」に過ぎなかった。
  非効率な国営企業体制と、低品質原材料と無責任な品質管理で味の悪い製造業者である旧来の国営企業:ビール工場、乳業工場、パン工場などの温存で、品質の低劣なビール(注:とはいえ、社会主義ブルガリアのビールよりはよほどましな味)、牛乳、乳製品、パン、タバコ(注:ブルガリアのタバコに比べてもものすごく不味い)、その他の製品が相変わらず売られており、この故に、品質の良いロシア製のビール、乳製品、タバコ、洗剤などの輸入品(一部には、独、蘭からの輸入品=菓子類)が共存してスーパーで売られるという、不思議な光景となった(しかし、ロシアなどからの輸入品は、品質はよいが価格は国産品の3倍ほどと高価で、低賃金の庶民は購入できなかった)。
それでも、ベラルーシは、元来キューバなどに比べれば先進国であり、国民の教育水準も高く、ルカシェンコの異例の「共産主義体制維持」路線にもかかわらず、パソコン販売の自由化、インターネット回線民営企業の容認、などで、IT革命は進展したし、インテリ市民はIT技術を駆使していた。CATVも容認され、外国からの情報もふんだんに入ってきていた。

5.ベラルーシでは、出国の自由が確保されている
いくら旧ソ連諸国の中でも例外的に「社会主義制度を温存している」とはいっても、今日のベラルーシでは旧ソ連時代とは異なり、外国への出稼ぎ労働は自由化されており、この点が未だに国民を絶望感のまま放置しているキューバとの大きな差であろう。
  ベラルーシのIT系技術者とか、インテリ市民達は、何とか西欧企業などと接触し、雇用先を確保して出国したり、美人の女性達はパリでマヌカンになったり、西欧でダンサーをしたりと、ソ連時代と違って「出国、出稼ぎの自由」が容認されたことを利用して、外貨を稼ぎ、親元に送金して兄弟や両親を金銭面で援助することも出来る。
  キューバの場合は、相変わらず、小さなボートなどに乗り込んで冒険的に「ボート難民」として米国、メキシコなどに亡命するしか外国への移住、出稼ぎの可能性はほぼないのだ。

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