日本海軍の無責任

 9日(日)NHKスペシャルとして放送された「海軍400時間の証言(:発見将校達の告白・開戦知られざる真実・なぜエリート達は失敗したか)」番組は、陸軍参謀達にこそ大東亜戦争の責任があると考えていた国民にとっては、海軍参謀達の責任も改めて明らかにしてくれたという意味で、注目に値する内容を含んでいると思う。この番組で小生が注目した点に関して、少し述べてみたい。

1.統帥権独立に便乗して、海軍軍令部への権限拡大(海軍省から、装備関連権限を軍令部が奪った法令改正)が行われていた:また皇族の責任にも言及
  戦後の水交会(旧海軍関係者の社交用会館)会議室を使って、昭和55年から平成3年まで、毎月のように旧海軍幹部将校達による「反省会」が開催され、非公開原則で録音テープが作成され、合計400時間分の録音カセットテープが存在し、最近このテープが収集されて、呉市にある海軍記念館で研究されているという。このテープ内容に基づき、NHKが特集番組を作成したもの。

  一番衝撃的な部分は、皇族の責任への言及で、旧海軍軍令部総長を9年間の長きにわたり歴任した伏見の宮総長時代に、表記のように、海軍省から、海軍の軍備、装備に関連する権限を軍令部が奪うという法令改正が行われたという。右改正には、当初昭和天皇は反対していたが、同じ皇族たる伏見の宮からの献策ということもあり、結局裁可せざるを得なかったという。要するに、伏見の宮が自らが所属する海軍軍令部の権限拡張を部下の薦めもあって強行し、陛下ご自身もこのような皇族の横車を押さえきれなかったという意味で、皇室制度そのものが持つ欠点が、開戦責任へと繋がった部分があるという、衝撃的な内容だ。そもそも従来から小生は、太平洋戦争=大東亜戦争に関しては、昭和天皇ご自身にも責任があると信じていたが、その点もこの番組によって明らかにされたと考える。悲しいことだが、未来への教訓としていきたい。小生は、だからかねてから、国民主権徹底論者・皇室制度懐疑論者だ。

  海軍の装備に関する権限が、海軍省から軍令部に移ると言うことは、当時の法制面で言えば、統帥権は天皇直属の大権ということで、海軍省(政府部局である)に比べて政府内部の規制がかからないと言うことを意味する、すなわち大蔵省による抑止・予算制限がかけにくいと言うことなのだ。
  結局、上記の法改正により、ワシントン条約のような国際条約に基づく軍備制限という歯止めなどがかからなくなり、海軍は大蔵省からどしどし予算を大規模に出させて、軍拡路線を強めていったという。

2.「知能犯」を気取った海軍は、結局陸軍に迎合して開戦やむ無しと、安易に決定:山本五十六は、作戦を急ぎすぎて多くの精鋭パイロット・主要空母を失った戦犯だ
  海軍将校らによれば、陸軍は「暴力犯」で、自分たちは「知能犯」と気取ってはいたが、上記のような法令改正による姑息な手段で、膨大な国費を海軍が独占した以上、陸軍側が中国大陸における既に大きな傷跡から、「今更対米戦争を避けるために、大陸での戦線拡大路線を放棄できるか」と強行主張するのに対して、海軍は米海軍に比べて装備、軍備が不十分だから、「戦争は出来ない、必ず負ける」、などと主張することは、恥ずかしくて言えなくなったので、開戦を決意した、という。
  つまり、陸軍と対抗して、予算の拡大獲得にばかり専念してきた海軍としては、近代兵器を余り重視せず人的資源(徴兵)に大きく依存して、従って予算面では少し遠慮しつつも、戦線拡大、大陸への支配領域拡大という野心的路線を突っ走っている陸軍から、「大飯ぐらいのくせに、対米開戦の度胸もない」と攻められて、「俺たちは臆病者ではない」として、開戦を決意したが、勝つための戦略的な検討は、軍令部内においてほとんど何もしていなかったという。

  更に情けないのは、あと最低1ヶ月は準備、訓練をしてからでないとミッドウェーへの侵攻は無理だったのに、連合艦隊の山本五十六司令長官から、早期の作戦が必要とせっつかれて、永野修身軍令部総長は、山本との個人的信頼関係から、艦隊側立案作戦の実行を許可したという。せっかく海軍の全ての権限を軍令部が掌握したはずなのに、実戦部隊である艦隊側(ただし艦隊司令部であって、潜水艦などの現場指揮官ではない)からの発案に振り回されて、自分ら(軍令部作戦課)も危惧しつつも、暴走を許した、というのだから無責任きわまりない。

3.海軍あって国家無し
  ともかく、この証言テープからは、当時の海軍幹部達の意識として、日本国家の生存そのものよりも、海軍の繁栄・利害こそが優先されたこと、海軍内部で最高権限を獲得した軍令部が、少数の参謀・将校達により多くの決定をするため、日常業務の処理に追われて、誰も長期の戦略を研究していなかったというお粗末さであること、などが判明する。

  上記でも触れたように、現場にいた将校達からは、なぜあの作戦(ミッドウェー作戦)の発動をあと1ヶ月遅らせると言うことが出来なかったのだ、という軍令部参謀への怒りの告発もこの400時間証言にはある。
  この中央指揮所への現場からの恨みの声は、今の大企業でもよくあることだろう。今の中央省庁でも、本省と現場責任者の間では、政策路線、或いは決定の是非に関する軋轢は多いだろう。とはいえ、中央と現場の間の意見の相違、中央の現場事情を無視した指令への現場における命令違反は、現場側が生身の兵士達の生存を重視する限り、切迫した判断を強いられたことであろうし、兵士達の生命を守るための現場将校らの英断の数々も、戦史にはよく見られることだ。他方で、官僚的に、敗戦が濃厚となった後も、組織としての面子ばかりで、愚劣な作戦を連発した陸軍参謀本部と海軍軍令部、或いは両者を束ねる大本営(ただし、大本営は、どちらかというと軍令部が主体だったらしい)などは、日本人の情けない無責任性を見る思いがして、小生は大嫌いだ。
  ともかく、今の政治家達は、安易に「文民統制(シビリアン・コントロール)」などと言うが、文民で最高司令官である首相に、それに相応しいような人徳が備わらない限り、また上記のような旧軍組織の欠陥への反省からも、自衛隊の現場将校達が今度は簡単に部下を犠牲にするわけはないだろうと思う(人命に対する意識は、当時と比べて飛躍的に高まったのが戦後の良いところだ)。それに、文官ばかりが主体の中央指揮所などができても、制服組は言うことを聞かない可能性も強い。それ故に、防衛省では、文官+制服組の本部体制を敷こうとしているように聞くが、ともかくよほど中央指揮所の組織、人選には気を配らないと、うまくいかない可能性が強い。小生自身の経験でも、現場の責任者として何度も「バカな中央の指令は、これを無視、自己責任で独断」して危機を回避したことを未だに誇りとしている。

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