ブルガリア人の米国留学熱

  今回は、ブルガリアが、共産圏の親露国という範疇を抜け出て、自由化後に、バルカン諸国のなかでも率先するように親米路線に切り替え、EUにも加盟して、資本主義圏の自由、民主国家として歩んでいる、その決意のほどを知る意味でも、その指標の一つとして注目しても良いと思う話題である。

  すなわち、ブルからの米国への留学生数が、人口730万人程度の国家としては、異例なほど多い、と言う数字に注目したい。日本では最近、米国留学熱が大学生の間で減退していて、そのような現世代の若者の「消極性」にやや批判めいた論調が多いように見受けられるが、他方では、新興アジア諸国からの対米留学熱は高まっている。

  さぞや、共産圏から解放された東欧でも、対米留学熱が高いであろう、と想像されるのだが、実は、ブルを例外として、意外にも、必ずしも対米留学熱は高くない模様だ。その一因としては、英国留学、或いは独、仏への留学という、より身近な選択肢が東欧の場合には多い、ということもあるかも知れない。しかし、ブルの場合は、それでも米国留学熱が依然として高いようだ(もちろん、ブルからも、英、独、蘭、仏、などへの留学生も多いはずだ)。
  この点に関する、米国の研究機関報告書(http://www.iie.org/en/Research-and-Publications/Open-Doors/Data)に基づく、Novinite.com紙報道(11月14日)ぶり(http://www.novinite.com/view_news.php?id=133938)を下記にご紹介する。

★米国における外国人留学生数に占めるブル人比率の高さ
1.全体から見れば、44位

米国の国際教育研究所年次報告によると、米国の大学に留学している外国人の人数、という側面から見て、ブル人留学生は、44位にランクされる。
他方で、米国へのブル人留学生数は、09--10年度の2,495名→10--11年度1,957名へと22%も減少した。
  報告書のデータによると、ブルからの留学生数は、ブルよりも人口の多いイスラエル、エジプト、アルゼンチン、ヨルダン、チリ、エクアドル、クウェイト、タイ、トリニダッド・トバゴ、ポーランド、ルーマニア、カザフスタン、ギリシャ、蘭とほぼ同人数の留学生を送り出している、ということになる。

2.EU諸国との比較では7位
10年度(10--11教育年度の意味)の留学生が減少したとはいえ、今でもEU諸国(27カ国)のなかでは7位で、独、英、仏、伊、スペイン、スウェーデンの次に位置づけている。

3.東欧からの留学生数としては、ブルガリアが第1位
 また、東欧からの米国留学生という視点では、ロシア、トルコを例外として、No.1の地位にある。(注:ロシア、トルコは、普通は「東欧」の範疇から、少し逸れる。)
他の東欧圏との比較では、ブルからの留学生数が、意外にも、ポーランド、ルーマニア、ウクライナ(これら諸国から米国への留学者数は、ブル同様に10年度には10--15%の減少を見ている。・・・小生注:恐らくは、リーマンショック後の不況で、親から得られる留学支援金などにつき、9年度より10年度は更に困難があるから減少していると思われる)よりも多い。

4.全世界からは、留学生数が益々増加
なお、10年度米国に滞在する外国人留学生数は、総数としては4.7%上昇し、72.3万人となり、「彼ら留学生+その家族」による米国経済への貢献は、年間総計約200億ドルに上ると見られている。留学生のほとんどは、その教育費用を、家族からの支援金で賄っているのだ。
 実は、9・11事件の影響で、厳しい移民制限措置が執られたため、02年度以降の留学生数は一時的に減少したのだが、06年度以降は増加に転じ、総じてその10年前に比べ、32%増となった。

5.アジア新興国からの増加が著しい
10年度、米国留学生の人数でトップは中国で15.7万人、2位がインドで10.4万人、3位が韓国で7.3万人だ。10年度中国は、米国に新たに2.3万人の学生を送り込み、前年比44%増を記録した。中国に次ぎ伸び率が高いのは、サウジだ。

中国の場合、一人っ子政策故に、一人の学生に対し、4名の祖父母が留学費用を支援できる、という事情も、留学生数増加に寄与しているらしい。

6.3位~10位まで
3位の韓国に次ぎ、4位はカナダ、5位は台湾である。
これらに続く6位以下は、サウジ、日本、ベトナム、メキシコ、トルコの順番。

★何故、ブルガリアから米国への留学熱が高いのか?
1.際だつブルの米国指向
  10年度に、欧州不況の影響もあり、ブルからの対米留学生数が対前年比22%も減少してしまったと言うが、それでもほぼ2千名が未だに米国にて勉学中だという。同年度の日本人留学生数は21,290名だというから、小国ブルガリアの10倍程度に過ぎないのだ。ブルの人口は730万人程度、日本は1.3億人弱だ。比率として考えても、また、日本経済の富裕度から見ても、対米留学という意味では、日本人の熱意の低さ、消極性は、目に余るほど酷い、とも言える。
 ましてや、ブルの場合、旧共産圏の東欧諸国としては、第1位という。またもや、人口で比較しても、たった730万人程度のブルは、ポーランド、ルーマニア、ウクライナ、という人口では数倍も多い諸国よりも多数の対米留学生を送り込んでいる、というのだから凄い。
 このようなブルにおける対米留学熱は、ある意味、ソ連圏で一番の「対ソ連忠誠度・優等生ぶり」を誇っていた共産圏時代への反動、冷戦期における国策の間違いを、徹底的に破壊して、新時代の波に乗りたい、という国民の熱意、という側面を重視すべきかも知れない。

2.自国での雇用機会、賃金水準がが中欧に比べ低い
 もう一つは、東欧のなかでも、北、及び中部に属するポーランド、チェコ、ハンガリー、スロバキア、などに外資の投資が集中しているのに比し、南東欧というか、バルカン半島に属するルーマニア、ブルガリアには、相対的に外資の進出も遅れていて(これまでのところ、西欧スーパーなどの流通部門への投資が中心で、他には、観光部門も多少はあるが、生産部門への外資の投資は少ない)、国内の雇用機会が増大しないし、国内賃金は低い(公務員の平均月給で250ユーロ程度)から、若者は、将来の外国での就職口も見据えて、大学教育そのものの段階から、留学への意欲が高いのだ。

3.家族も、子弟の留学後の高賃金に期待
 もちろん、米国留学に関わる多額の費用を、必ずしも普通の家庭が賄えるはずはないと思われるが、中流以上の家族は、相当家計的には無理しても、多くの家族が海外に子弟を留学させ、外国での雇用と高い賃金に望みを託すのだ、と言える。なにしろ、GDPが820億ユーロほどのブル経済だが、海外で稼ぐ出稼ぎ労働者からの国内向けの「移民送金」が、年額10億ユーロに上ると推計されているほどで、国家の経常収支黒字化にも貢献しているのである(注:ちなみに、貿易赤字を埋め合わせる経常収支黒字化への貢献度が一番高いのは、観光収入の27億ユーロ(11年度予測)である)。

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この記事へのコメント

mugi
2011年11月15日 21:33
こんばんは。

 ブルの米国留学熱はスゴイですね。日本のマスコミでは散々米国の停滞や格差を取り上げているのにも拘らず、全世界から留学生数が益々増加しているという現象は、何を物語っているのでしょうか?海外滞在体験皆無の私にはよく分かりませんが、日本のマスコミが強調するほど米国は衰えていないのではないか…と感じられました。先進国では唯一出生率の高いのが、米国だそうです。

 私は未読ですが、「ルボ 貧困大国アメリカ」という新書がベストセラーになりました。この本に関して面白いレビューがあり、私はこのブログ記事に同感です。この手のルポライターは左派としか思えません。
http://rootakashi.cocolog-nifty.com/blog/2011/03/post-b5ad.html

 日本でこの類の本が売れるならば、米国留学にも少なからぬ影響が出てくるのではないでしょうか?何やら米国はもう行き詰っている、これからはアジア新興国の時代だ、と煽られれば、二の足を踏む若者が出てくるのも不思議はない。
 それにしても、留学生で中国、インド、韓国がトップというのは分かりますが、台湾やサウジにさえ日本は水をあけられていたとは驚きました。
2011年11月16日 00:00
mugiさん、こんばんは、
 なぜ世界中から米国に留学したがるか?我々が学生だった60年代は、日本人平均家庭の大部分は、1ドル=360円という為替交換レートで子弟を留学させることは難しかった。この故に、未知の世界、世界最先進国米国への憧れは、ほぼ当然の話だった。だから、成績優秀で、米国からフルブライト奨学金が出るようなら、誰もが喜んで留学した。
 その後、1ドルが120円程度になると、多くの日本人が留学できるようになり、クズのような留学生も増え、そういう元来低能力な留学生を見るに付け、米国留学で覚えるのは、麻薬と奔放なセックス、というような偏見も増え、親たちも簡単には留学費を出してやらない、となった。
 ところが、90年代以降、インターネットが知識、情報の源として広く普及すると、一番ホットで重要な情報は、英語で発せられるようになり、ITスキルと英語能力は、現代学生の必需品となった。企業も、海外進出のためには、英語能力のある人材を必要とするようになり、伸び盛りのアジア新興国では、米国留学が益々「勝ち組」への切符の一部となった。
 これが米国留学が、未だに国際競争力に取り重要な要素というわけだと思う。
2011年11月16日 00:20
(続)
 米国が、なぜ世界帝国なのか、そして恐らく当分は今後もその覇権は揺らぐことはなく、結局中国も、いつの間にか、(かつての日本のように)罠にはめられて、米国にしてやられるであろう、と言う予測は、小生も昨年書いたと思う。
 今騒いでいるTPPも、最近一部の論者達は、実はこれは、一種の新たな中国包囲網であって、中国からの対太平洋地域、特に米国、日本という大市場への輸出環境を不利な方向にセットして、徐々に苦しめていく、と言う米国の戦略だと言います。
 英国もそうだったようですが、米国も、何時も国際法を手直しして、少しずつ自分に有利な枠組みを作り上げ、仮想敵国を新たな国際的枠組みの中で阻害し、徐々に焦燥感を掻き立て、バカげた迷走をするようにし向けるのだと思う。真珠湾攻撃に、追い込まれていった日本みたいなものです。
 TPPは今、日本の米とか、日本式医療制度とか、色々な従来の日本の良いものを破壊する「悪魔」のように言われています。しかし、一番の目的は、中国に対する包囲網、中国経済へのハンディキャップ、壁を作ることだと考えれば、日本も、より決然として、国益を擁護しつつ交渉すべきだし、他方で、今回は、弱った日本が本当の標的ではない、ということを知りつつ、うまく交渉して、米とか、医療制度とか、良い面はしっかり守ればよいと思う。
 もっとも、米国は、恐らく中国のみならず、韓国、日本も含めた東アジアの台頭ぶりに神経をとがらせている、と言う見方も可能で、その場合は、日本に対しても、交渉条件は厳しくなる。もっとも、食料品、穀物、大豆などをもっともっと沢山、無関税で輸入せよ、ということ、米国の米を無関税で入れろ、などと言うこと。小生としては、これらの食糧はもっと買うべきと思う。代わりに、日本でもワインとか、新しい農業分野で付加価値を狙うべき。

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