教会も政府同様に腐敗しているとの記事

   2月25日付記事として小生は、Neofit新総主教の誕生につき書いた(http://79909040.at.webry.info/201302/article_4.html)が、また、その際に注書きで、Neofitには旧秘密警察(DS=デーセー)に保管されていた「DSファイル」が存在したことが、ドシエ委員会(ドシエとは、名簿のこと。DSに協力した人々の名簿、ファイルを調査するために、自由化後に設置された)により明らかにされていることにも言及した。そして、案の定というか、3月8日付のnovinite.com紙に転載されたNYT(New York Times)紙記事は、ブル正教会と前共産党政権との、「きちんと清算されていない過去」の問題につき、言及して、政界のみではなく、宗教界でも、ブルの自由化、民主化が中途半端である、というところをつついている。

  もちろん、ロシア、旧ソ連圏の多くでも、共産党政権時代の遺産を引きづり、きちんと過去との決別を果たせない国家が多く存在するし、ブルガリアでも、自由化後に、共産党時代の下士官クラス警察官とか、秘密警察エージェントの生き残りたちが、数多く新たに「資本家」「マフィア」などの衣をまとって、闊歩していることは明白である。

  そして、政界、経済界がそうなら、宗教界でも、過去の時代と訣別しないまま、高僧たちが生き延び、新たな時代にも、闊歩していることは、さほど不思議でもない。
  かくして、今回のブル版「総主教選挙」でも、結局、旧DSファイルを持った人々が、生き残り、新総主教にもなった、という側面があることは、ブル国内メディアでは、実は簡単には追及できない問題であり、今回の報道も、米国のNYT紙の、米国人記者コメントという形式をとっている。しかし、もちろん、米国記者に対して、材料、原稿などを提供した、ブル人研究者、或は記者が、背後にいることは、想像に難くない(記事内に引用されているMetodiev、Gunev氏以外にも、情報提供者はいると思われる)。
   ともかく、このNYT記事(http://www.novinite.com/view_news.php?id=148503、署名者は一応MATTHEW BRUNWASSERとなっている)の要約を下記にご紹介する。

1.国民の誇りを掻き立てることができず、前面に立てない教会
  数百万人の信者をこの国に有するブルガリア正教会の精神的指導者として、Neofit新総主教の誕生は、この貧困で政治的空白にも直面*しているブル国の誇りと、倫理的な団結を掻き立てるはずだった。
    (注*:ボリーソフ内閣は2月20日に内閣総辞職し、その後大統領は、5月12日に早期総選挙を実施するとの期限を声明した。現在は院内主要会派3党との組閣交渉という手続きも行き詰まった(GERB、BSP、DSPの3党とも組閣を正式拒否した)ことから、選挙管理内閣(テクノクラート内閣)を任命すべく、著名人と個別に交渉中である。選管内閣は2か月以内しか存続を認められないので、5月12日から2ヵ月前に当たる、3月13日には任命せねばならない。)

2.逆に、過去の暗黒面を引きずる教会
  この期待に反し、逆に、Neofit総主教の誕生は、この国が決して過去40年間の共産党政権統治時代の遺産、及びそれに伴う「二枚舌」と訣別していないことを示すものだ。それに、最近の大規模な抗議デモ、更には36歳の男性による焼身自殺*、そして内閣総辞職(焼身自殺数時間後の2月20日午前中だった)という内政混乱に際しても、教会は国民を鎮静化するために、何らの積極的立場もとってはいない。
   (注*:2月20日早朝、Plamen Goranovというブル人青年(36歳)が、Varna市庁舎前で焼身自殺を図ったところ、3月3日に、同人は、多臓器不全、全身やけどの故に、死亡した。同人の名前Plamenはplama=flame=炎という単語から来ているので、焼身自殺を象徴しているともいえ、今回の全国的な「反マフィア、反独占」抗議における殉教者として、かつ、プラハで1969年1月ソ連軍の侵攻に抗議して焼身自殺した「ヤン・パラフ」になぞらえて、ブルのJan Palachとの呼び名も国内メディアで喧伝された。
  ボリーソフ首相も「大衆迎合」のため、3月6日を「Goranovに対する国民哀悼の日」とすることを声明した。ちなみに、Varna市では、市長のKiril Yordanovが、4期目と長期政権を誇っているが、同人が同市出身のマフィア系企業グループ=TIM財閥の傀儡政権であることは、市民周知の事実で、このため、Goranovも「Kiro(Kiril Yordanovのこと)の辞任、市会議員らの辞任を本日午後5時までに」という要求をプラカードに書いていた。ところが、自殺後、市職員がこのプラカードを隠匿していて、2日後に検察が捜査してこのプラカードをようやく押収したという。
  3月6日、とうとうYordanov市長は、市民らの圧力の下に辞任を宣言した。このエピソードは、しかし、ブル社会、メディアが、今回の「電気代値上げ反対抗議」という、さえないデモ理由、倒閣理由を美化して、何とか国際的にも華々しい印象を与えたいという「英雄願望」から、普通の、いつまでも定職に就けないニートの青年(同人は、最近Svishtov経済大学に再入学したばかり)の狂気の行動を美化しただけ、という側面もあるように思える
。)

3.実は、新総主教も、旧DS協力者の一人!
  実のところ、教会最高の権力機関Holy Synod(司教会議)を構成する14名の府主教*中11名が、共産党統治期に、秘密警察(DS)と協力していた(DSにファイルがあるということは、密告者だったことの証明)という、暗い過去が証明されているのだ。そして、新総主教のNeofitも、このDSファイルを持つ人物なのだ。
     (注*:Holy Synodは、普段は、15名の府主教で構成されるが、15番目の府主教とは、総主教とSofia府主教を兼任する最高位の人物で、総主教逝去後の最近までの段階では14名であったということ。今後、Neofitの出身母体であるRuse府主教区にて新たな府主教が立てられるので、HSは15名体制に復帰する。)

  2012年1月に、ドシエ委員会が、Holy Synod内のDS協力者名を公表した時、15名中11名という多数がDSに協力していたという事実に、共産政権時の教会史を研究しているMomchil Metodiev氏も本当に驚愕したという。
  ブル正教会「西欧担当府主教」のSimeonが30巻もの分厚いDSファイルを持っていたのに、Neofitのファイルはたったの16ページしかなく、しかもその内容が、「エージェントとしてリクルートすべきとの提案書、エージェントとして不適格との評価書の二つしかなかった」*ことは、むしろ、もっとセンシティブな情報は「取り除かれている(隠されている)」からではないか?との疑惑の念を呼ぶともいえる。自由化後20年を経ても、こういう疑念が残るというところに、ブルガリアが過去ときちんと訣別できていない、灰色的な状況を示す証拠ともいえる。
    (注*:そういえば、年初来Bivol.bgサイトで何度も取り上げられたボリーソフ首相の90年代半ばにおけるTsSBOP(ツェセボップ=対組織犯罪局、対マフィア闘争担当の内務省特殊部局)関連ファイルでも、採用すべきとの提案書、その後エージェント契約解除の提案書の二つしか残っていなかったという。やはり、センシティブな文書は、誰かが抜き取って、隠してしまうのだろう。)

4.下からの革命ではなかった
  1989年11月の、ベルリンの壁崩壊の一日後に、1954年以来35年間も権力を独り占めしてきたTodor Zhivkovが権力の座から引きずり降ろされたのは、決して大衆蜂起の結果ではなく、「宮廷内クーデター」によるものだった。この降板劇の背景も、未だに完全に明白とはなっていない。
  だから、未だにブル人たちは、「民主主義」の言葉を、皮肉と痛みを伴わずには使用できない。なぜなら、確かに自由は獲得したし、ブル国はNATOにも、EUにも加盟できたのだが、国家は未だに貧しいままで、発展程度も低いままだ。資本主義社会として再発足するに際して、皆が期待し、成りたかった富裕層の地位には、「幸運で、しかも犯罪行為と関係している少数者」しか到達できなかったのだ。

5.DS官僚たちは、そのまま新官僚機構に横滑りしたり、起業家となったりした
  そして、DS(デーセー、dqrzhavna sigurnost=国家治安機構=秘密警察)は公式には解体されたのだが、多くの部局が新内務省系特殊部局として再生されたほか、DS官僚たちは、旧来のボス達(共産党員資格で上の連中)を押しのける形で、むしろ出世し、新警察機構の幹部とか、内務省、その他の治安系機関官僚へと横滑りしたから、彼らの過去に関する透明度があいまい化されたのだ。

  自由化後、元DSエージェントたちの一部は、私企業を立ち上げ、レスラーなどの筋肉系をボディガードとして雇った*。彼らの裏のネットワークは、しばしば違法事業も伴いつつ、ブルの合法的な経済分野を徐々に買収(民営化を通じて)していき、その結果、ブル国家機構を悪名高い汚職システムと化していったと、Filip Gunev・民主主義研究センター(CDS)の研究者は述べる。
    (注*:実際には、旧DS官僚、或は内務省官僚、或は警察官で、内務省などが運営するスポーツ施設・道場を頻繁に使えた、筋肉系・スポーツ英雄(空手大会優勝者とか)系の人々自身が、自由化後に、その名声を背景に、暴力団=警備会社=保険会社を立ち上げ、昔から顔なじみ(元同僚)の警察官などを懐柔、買収して、非合法事業を拡大し、今日のいわゆるマフィア系諸企業を傘下に収める、「ビジネスマン」となっている場合が多いのだ。この辺の経緯に関し、NYT記者は若干予習不足と言える。実際には、筋肉系がトップとなっており、ボディガードクラスは昔からの自分の部下たちの場合が多い。ボリーソフ首相自身も、旧DS傘下組織UBO(ウーボ=要人警護局)のボディガードとして、独裁者ジフコフを護衛していた内務官僚系人物で、かつ、空手名人として、自由化後には筋肉系マフィアとして警備会社を設立し、その後政界に転じた、ある意味典型的な筋肉マフィア系の人物なのだ。ロシアでも、旧KGB士官で、柔道マニアだった筋肉系のプーチンが、同種の治安組織系・筋肉系人脈を率いて国家を簒奪している。

6.教会までもが、旧DS協力者により簒奪された
  教会が過去と直面することなく、今回の新総主教を決めたのは、旧DSと協力した府主教たちが、今回教会を乗っ取ったということであり、これは、民衆が言う「ブル国家は、犯罪者、オリガーキたちによって簒奪された」という現象と、全く同じなのだ、とGunevは述べた。

  ちなみに、司教会議(Holy Synod)文化部のDesislava Panayotova女史は、教会としては今後2年以内に、共産党統治期に粛清(殺害)されたり、投獄された「殉教者」たちを「列聖していく」ことで、共産政権時の遺産に対し、象徴的にページを閉じていく、と説明している。

7.教会もますます世俗化し、堕落している
  しかし、現代のますます世俗化が進行する社会で、教会がその倫理的な「光としての立場」を回復するには、このような列聖作業以上の何かが必要と思われる。

  国家に次いで、教会は、この国における第2の不動産所有者として、犯罪者グループにとっては、魅力的な目標なのだ。教会は、管理機構の弱体性、あいまいな組織体制から、きちんとしたメディア担当スポークスマンも持っていないし、国家側で行われているような、汚職を浄化する努力なども、何らせず、孤高を保っている。
  多くの歴史的価値のある教会、修道院が、十分修復もされず崩壊していく一方で、高僧たちの豪華車、豪華時計、土地その他に関する怪しげなビジネスマンとの取引、などの醜聞も絶えない。

  ちなみに、今回の総主教選挙で敗退した、SZ(Stara Zagora)府主教のGalaktionは、例のSlavi Binev*に名誉的な教会称号を与えるなど、同人と不適切とも言える関係があるという。
    (注*:Slavi Binevは元テクンドー・チャンピオンで、自由化後にレストラン、その他の民営化で資本家として売り出した人物。国立図書館地下に、寿司店を開店した人物。旧暴力団VIS組組長を自ら経営するレストランから、殴って追い出し、「悪名」をとどろかせるなどした人物。すなわち、筋肉系マフィアの代表人物の一人。未だに、売春、麻薬売買、盗難車両の取引などの犯罪事業も影で扱っていると言われる。同時に、同人は政界にも進出していて、現在は欧州議員の職務も兼任している。)

  また、Plovdiv府主教のNikolayは、上記同様の教会関連称号を国際武器商人として有名なPetqr Mandzhukovに与えたという。最近同人(Nikolay)は、醜聞として有名となった、誰かから寄贈された高級腕時計Rollexを、傘下の教会の電気代を支払うために、オークションにかけると発表した(最低入札価格は6千ユーロ=約72万円)。

  更に教会は、社会福祉税納付を回避するために、僧侶に対し現金で給与を支払っていると言われる。
    (注:労働契約書を取り交わし、正式な給与を支払うと、NZOK(ネゼオク)という社会福祉基金に対する納付金として、給料の2割ほどの高額の課金(一種の税金)を支払わねばならない。中小企業などでは、この社会福祉税を回避するために、臨時雇用、口頭契約、などの名目で、現金でしか給与を支払わない闇雇用の手を使う。同じことを教会もしているということ。)

  ちなみに、1992年に一部僧侶が、「共産党協力者のマクシム(当時の総主教)支配継続からの脱皮(口実)」を要求して、新Synodを設立し、教会資産の奪い合い、などの紛争が生じた。この時の分裂は、未だに終了してはいないが、上記研究者Metodiev氏によれば、これら「反共新Synod」指導者らが、実は実際には、共産政権時に、もっとも緊密に共産党に協力した僧侶たちだったという!!

  そもそも、共産党時代に、DS指令に最も忠実に行動したVratsa府主教のKalinikは、今もHoly Synodメンバーとして生き残っているのだ。

  Metodiev氏によれば、1970年代、80年代に、DSにレクルートされた当時の青年僧侶たちが、現在のSynodを、共産主義時代以上にコネで結ばれた形で、固く支配しているという。
  同人によれば、実力主義という理想は実現しなかった。現在のブル市民たちは、コネに基づいてキャリアを築くことに慣れてしまった。これこそが、DSという機関の権力が、今日にまで影響を残している最悪の現象なのだという。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 3

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた 驚いた

この記事へのコメント

mugi
2013年03月10日 21:17
こんばんは。

 共産主義時代、教会が秘密警察とずぶずぶの関係だったというのは興味深いですね。ロシア正教会の総主教もKGBのような秘密警察と協力、反体制派を密告していたという話です。共産党に協力して組織の温存を図るのは、ロマノフ王朝時代の正教会と何処が違うのでしょうか?政府よりも教会の方が腐敗というか、世俗的で狡猾ですよ。

 面白いことにイラン革命時、王政側の秘密警察SAVAKのメンバーは根絶されるどころか、大半は革命政権で働くことになったそうです。蛇の道はヘビ、とやらで秘密警察のメンバーは政権が代わっても、体制側に付き、政府も利用するのでしょう。
2013年03月11日 08:50
こんにちは、
 社会を主導するような人材は、共産主義時代にも、共産党員、DS官僚、内務官僚、警察官・・・などの日の当たる場で活躍していた(もっとも若手の下士官クラスとして)し、自由化後には、さっさと鞍替えして、共産党時代に自分が庇護して育てた闇業者たちとの結託を表に出し、自分自身が資本家となったり、新政党の設立に参加したり、民営化で国営企業を買収したりと、活躍します。もちろん、企業買収資金を蓄積するためには、売春、車両窃盗団、警備会社(保険会社、暴力団と一体経営)、麻薬販売、などの非合法分野にも手を出しました。

 同じ旧東欧圏でも、北の諸国には、共産党と距離を置いたインテリが、たくさん存在し、自由化後彼らが表に出てきたのに比し、バルカン半島、旧ソ連などの遅れた諸国では、旧体制時代の下士官クラスが、特にスポーツ英雄だった筋肉系の下士官たちが、上の共産党の大物たちを押しのけて、自らが主役として活躍するようになった・・・・、それが自由化時代の新エリート層となったのですから、過去の清算とか、過去との決別などが重要という意識などあるはずもないのです。昔の、無能なボスどもは消えて、今こそ自分らが主役というだけです。夢に見ていた西欧製の豪華車を持ち、愛人を囲い、企業を経営し、同時に国会議員ともなり・・・、その過程での手段が、少し非合法だったとか、細かいことは言っておれない、と言いう気分でしょう。
2013年03月11日 09:03
(続)
 基本的に、人口が少なくて(700万人強)、裏の噂話が表のマスコミ報道より重要で、人的コネクションが密なバルカン半島の旧オスマン的社会のブルガリアでは、自由化とは、コネの世界が広がること、袖の下(賄賂)がまかり通るようになること、を意味します。
 元警察官と現在の警察官僚を主体とするボリーソフのG党も、人気が低下してきたと言っても、コネを含めた支持層は結構厚く、BSP(旧共産党)との間で、支持率は拮抗しているはずで、5月の総選挙では、どちらの政党も多数派を構成できないと予測されています。お互いに連立を拒否しているし、どのように混乱が収束されるのか??

 上記記事では、宗教界も同様で、共産党統治期にDSがレクルートして使った元エージェントの若手僧侶たちが、現在の幹部府主教14名となっているので、教会も何ら過去との訣別に熱心なはずはない、と言っているのです。Varna府主教のKirilは米国製高級車リンカーンのハイブリッド型新車を、誰かから寄贈されているし、DSエージェント世代だったはずがない、一番若手のNikolay府主教(Plovdiv)は、高級腕時計Rolexを、武器商人マンジューコフから寄贈されていたようです。Nikolayは、若いため、毎晩のように俗界の取り巻きの青年たちを引き連れ、派手に夜遊びしていたらしい。もっとも、正教会では、僧侶の結婚を否定していないから、カトリックほどの禁欲は不要ですが。

この記事へのトラックバック