ブルガリア現代史(3):オレシャールスキ政権(13年5月--14年8月)

1.第42次普通国会形成のための総選挙
  さて、今回のブルガリアの総選挙結果に関しては、中央選管の最終集計結果さえもが、novinite.com紙の報道ぶりでは数字が一つに絞り込まれないなど、小生もいい加減ばからしくなってきたので、1千とか2千とかの数字は大して意味もないことだし、ともかく、一応の結果をお知らせしておこうと思う。一部の数字にきちんとした整合性がないことは、諦めていただくしかない。

(1)有効票数と無効票数:中央選管の公式集計結果に関する報道(5月16日付)
  有効票=354万1745票、無効票=9万47票。

(2)四党の国会議席獲得数
  中央選管のRalitsa Negentsova委員が、5月15日(水)付の中央選管決定として、第42次普通国会への投票集計結果を下記のように発表した。なお、国会議席数獲得への敷居値4%は、票数としては、今回は、14万1687.8票に相当した、と説明し、この4党以外はこの票数以上を確保できなかったとした。

  5月12日(日)の有効投票数=354万2195票*。(*注:上記の354万1745票と矛盾する。)
第1位得票のGERB:得票数は108万1605票で、有効投票数の30.53%に相当する、国会議席数は97議席。
第2位のBSP(実際にはKB=「ブルのための連合」との名称だが、BSP中心の連合で、他党の連合相手はもはやほぼ意味がないほど少数派、故に英語版報道では、KBの名称は全く使われていない):94万2451票で、26.61%、84議席。
第3位のDPS:40万466票で、11.31%、36議席。
第4位のAtaka:25万8481票で、7.30%、23議席。

(3)投票率
  有権者総数は686万8455人、今回投票に参加したブル市民は、合計354万1745人*で、投票率は約50%となる。
   (*注:この発表数字もいい加減だ。無効投票した9万人は完全無視だ。また、この数字できちんと計算すると51.56%となり、50%ではない。前回指摘したように、80万人ほどの有権者名簿の市民は、「幽霊」(死亡届が出ていないだけ)なので、思い切って354万人÷600万人で計算すると、59%にもなる。要するに、ブル市民は決して他国に比べて政治に無関心なわけでもないのだ。59%の投票率は、民主国家として、普通の数字ではないか!

(4)85万人が死に票に投票している
  総選挙に参加したのは、38政党と8つの連合(合計8千名以上が、候補者名簿に載っている)。一番獲得票数が少なかったのはSDP(社会民主党)で、1300票のみだった。

  4つの政党のみが、国会議席に到達でき、それ以外の多数の政党、連合は、4%という敷居値上記の通り、4%に達するには、今回は14万票強が必要だった)を超えることができず、国会議席を得られなかったが、これらの政党に投票した合計約85万人のブル市民は、結局彼らの票で1名の国会議員も生み出せなかったという意味で、死に票を投じたことになる。

(5)政党別の選挙区獲得数
  全国31の選挙区で、各政党が幾つの選挙区で、獲得票数第1位の座を占めたかは、各党がどういう選挙区を主たる地盤として持っているかを知るために、有効な視点である。

  下記の通り、大都市圏、経済活動が活発な地域は、基本的にG党が勝利しており、田舎の、いわば過去の共産党体制の方がよかったと、現状を嘆いている、さびれた諸県では、BSPが勝利した。DPSは、トルコ系住民が多数派を占める県で勝利し、Atakaは、どの県も抑えることはできなかった。

GERB=14選挙区:Blagoevgrad、Burgas、Dobrich、Gabrovo、Pazardzhik、Plovdiv市、Plovdiv県、Ruse、Sliven県、3つのSofia 市内の選挙区、Sofia県、及び Varna県。
  (注:G党は、ソフィア市の3つの選挙区の全て、更には、Plovdiv市、Plovdiv県、Varna県、Burgas県という、大都市圏をほぼすべて押さえて、第1位の政党となったということは、同党がやはり大衆政党として、或は大企業など利権を狙うビジネス業界が推す政党として、その基盤がしっかりしていること、を示していると言える。

BSP=12選挙区:Haskovo、Kyustendil、Lovech、Montana、Pernik、Pleven、Smolyan、Stara Zagora、Veliko Tqrnovo、Vidin、Vratsa県、及び Yambol県。
  (注:BSPは、大都市以外の、基本的には田舎の県で勝利した、という結果。

DPS=5選挙区:ブル南部のKqrdzhali県と、ブル北東部の Razgrad、 Shumen、 Silistra及び Tqrgovishte県の4県。
  (注:DPSが第1位の座を獲得した5県は、いずれもトルコ系人口が多い地域で、同党がいかに「ブル人を含めた、世俗的な、リベラルで民主的な政党として、国民政党を目指す」と自称、宣伝していても、結局はトルコ系住民に基盤を置く政党であるという実態には、変化がないことが判明した、ということ。同党は、在外票11万票の内49%強を確保しており、トルコ共和国内に移民・移住したトルコ系二重国籍者の票にも、かなり多くを依存していることがわかる。

Ataka=いずれの選挙区でも、1位の地位は取れなかった。これは、この政党が、ある意味極端なナショナリスト政党として、低層の非インテリ大衆層の一部を基盤とする、怪しげな政党であることを証明している、と言える。

  とはいえ、今回の総選挙結果がBSP+DPS=120議席GERB+Ataka=120議席と、全くにっちもさっちもいかない二つの連立の枠組み、という皮肉な結果となったので、多くの専門家らは、Ataka党は、G党との連立を拒み、同時にDPSとの連立は絶対に避けるとの「表向きの体裁を保ちつつも」、実際には一部議員をわざと脱党、離反させて、BSP+DPS陣営に味方させ、120議席以上の議席をBSP陣営に与えて「恩を売り」、裏で利権を確保する、と見ている。ボリーソフG党党首自身も、AtakaのVolen Siderov党首が、このような裏取引をすると見て、牽制的発言をしている。
  つまり、衆目の一致するところは、この怪しげな極右政党が、BSP中心の次期政権形成における鍵を握るKingmakerの地位を確保したらしいということ。つまりSiderov党首が、最大の裏取引の要の地位を確保した、と見られているようだ。

2.オレシャールスキBSP主導政権の形成
 さて、5月12日の総選挙後、政権発足が危ぶまれる複雑な国会議席構成となって、政局混迷、組閣不可能性が予測されたが、結局は5月29日(水)の国会で、最小政党のAtakaが、BSP+DPS連立側を影から支援する(国会定足である、121名の議員の出席に1名不足する連立側に、Volen Siderov・Ataka党首自身が出席して、定足を満たさせ、新政権発足審議を可能とした)形で、BSP主導の新政権が発足できた。

 もちろん、議席数で過半数に1議席不足する連立側は、今後の国会運営で苦労することが予想されうる。
 他方で、前回第41次国会時には、GERB党が116議席で、121議席の過半数には5議席不足する状態のままで「少数派内閣」を組閣して、国会での票決に際しては、その都度ごとに、小政党、無所属議員らを金で買収しつつ、何とか過半数議席を確保して政権運営に成功した。今回は、金で簡単に動く小政党とか無所属議員が見当たらないものの(注:とはいえ、Atakaは、前回のボリーソフ政権に対して、当初は積極的に、恐らくは金で、議席の支援をした。しかし、やがてはRZS党などもG党に協力し始めて、AtakaはG党から不要扱いされ、悔しがった経緯があり、今回も必ずしも金での買収に応じないかどうかは見ものだ)、やがてはAtakaまたはG党から一部議員が引き抜かれて、無所属議員となるとか、Ataka議員らが今後も、わざと欠席・出席して裏支援するとか、いろいろの手法を使っての政局運営があり得る。

(1)5月29日(水)の国会が定足数を満たした
  29日朝9時、国会が開会する前に、議場には緊張感が漂っていた。G党議員たちは、議場に姿を現してはいたが、出席(投票参加意思)登録の議員用カードを、議席にあるカード用の穴に差し込まず、それまでに出席登録した人数は、119名にとどまっていたのだ。登録期限終了時間が迫り、過ぎようとする数秒前になってようやく、BSP議員の残り1名と、AtakaのVolen Siderov党首が議員カードを差し込み、出席登録者総数が121名となり、国会審議開始の定足(quorum)が満たされた

  この定足が満たされた瞬間、BSPとDPSの議員たちは拍手喝采し、G党議員らは、激怒して、直ちに本会議場から一斉に一時退場した。
  ちなみに、その後の投票時もAtaka党は、党首のSiderov以外の22名の国会議員は、結局出席登録しなかった(議場にいなかった模様)。

(2)首相の選出など
  その後、本会議での審議が4時間にわたり行われた中で、次の3つの投票が行われた。
  
(ア)首相選出選挙
  BSPとDPSの120票が賛成、GERBの97票が反対、Siderov党首は投票不参加。

(イ)内閣組織構成についての投票
  119票が賛成、98票が反対。(注:この投票では、電子投票装置の誤作動とかで、2回も技術的理由で投票やり直し措置が取られ、3回目にようやく票決が完了した。首相職に選ばれたOresharski自身は、もはや議員として投票できない規定なので、連立側の票は119票が最大。反対票には、G党の97名とAtakaのSiderov党首が加わり98票。

(ウ)閣僚名簿についての投票
  賛成119票、反対98票(注:上記(イ)と同じ投票内容)。

(3)選管内閣の権能停止決議
  上記の3つの投票が完了したことで、国会は同時に、Marin Raykovを首班とする選挙管理内閣の権能を停止する、と決議したこととなる。
   (注:すでにRaykov選管内閣首相は、外交官としてのキャリアを継続するために、自分自身で駐イタリア大使職就任の根回し(Plevneliev大統領の了承を得た)を終えたという。首相就任前の職務であった駐仏大使職を現在の駐伊大使と交換して、同人が駐仏大使に移転するという。あまりの素早い自己保身故に、一部では批判されたらしい。

(4)新内閣の宣誓儀式
  また、オ首相と、閣僚たちは、「国家的利害(国益)と、成長と、公正さを重視する政権」と自称しつつ、宣誓式を挙行した。

(5)今次政権の脆弱性
  かくして、5月12日の総選挙後、国会議席を得た4党の何れもが、国会における多数派支配の力がないという、混迷状態の中で、何とか政府の形成が完了した。ボ前首相は、この内閣を「政府が無いよりはましだ」と形容した。

  他方で、組閣を主導したBSP党は、今回の内閣を「企画性を有する、専門家・政治家的内閣」と主張している。

  とはいえ、今後も、BSP+DPS連立政権は、国会審議で法案を通過させ、国家運営するには、いつも自分らの議席総数の120議席に、もう1議席をその都度、Ataka、或はGERBのどちらかから借りる必要性が生じるのだ。政権運営は、極めて不安定となりうる。


(6)国会審議における、相互非難の合戦
(ア)ボリーソフ前首相の発言
  ボリーソフは、組閣完了後次のように議場で発言した:「今後貴殿(オ首相)が必要とするときは、陰謀とか、トリックに依存する必要はもはやない。自分に電話さえすれば、いつでも必要な数の議員を自分が用意して差し上げる。
  また、前政権時に培った経験とかもあるので、いつでも国事について電話で相談してほしい。もし貴殿が電話して、自分が約束したように協力しなかったとしたら、どうか国会壇上から『約束を破った!』と叫んでほしい。
  貴殿の成功と、勇気と、善良な性格に期待するし、個人的な成功をお祈りする」。

   (注:もちろん、この言葉をそのまま受け取ってはいけない。ボの皮肉と恨み節に過ぎないし、連立政権側が、今後Ataka党のみに依存しないように、G党とも協議しつつ政権運営を慎重にせよ、との警告と受け取るべき。

(イ)Siderov・Ataka党首の発言
  Siderov党首は、「本日この国会審議が成立するための、最後の1議席を提供したのは自分だ。G党と異なり、自分は責任を取るし、一貫性を大事にする。もし、この国会審議が成立しなかったら、ボ党首はいったい何をするつもりだったのだろうか。Ataka党こそは、貴殿(ボ党首)の権力への道筋を止めたのだ。貴殿の顔からは、憤怒の表情が明らかだ」とG党を揶揄した。

  更に、今国会で最小の政党(23議席)で、しかも政府形成のカギを握る政党を率いることとなったSiderov党首は、次のように声明した:「ブル国民が自分に課した巨大な責任を自覚している。要するに、常に検察庁の捜査対象となるような一味(G党を指す)が、政権に戻ることを阻止せよ、ということなのだ。」

  更にSiderov党首は、オ内閣に対しても次のように牽制球を投げた:「G党の政権への道を阻止したのと同様に、貴殿の政権が、ブル国民の利益に奉仕しないとわかれば、自分は直ちにこの政権を転覆するであろう。自分たちは、この内閣を支持しているわけではないのだ。この内閣には、行動を期待している。貴殿には、毅然として行動してほしい。何日(4--5日)も身を隠したり、悪事にばかり奔走した前政権の真似をしないでほしい。」

(7)新閣僚名簿
   合計17名、*印6名は女性大臣、3名がDPS党員。
 Plamen Oresharski=首相、
 Zinaida Zlatanova*=法相兼副首相、
 Tsvetlin Yovchev=内相、
 Kristian Vigenin=外相、
 Petqr Chobanov=蔵相、
 Angel Naydenov=国防相、
 Dragomir Stoynev=経済・エネ相、
 Hasan Ademov=社会政策相 ---Razgrad県選挙区のDPS当選者、
 Ivan Danov=投資計画相、
 Dimitqr Grekov=農相、
 Desislava Terzieva*=地域政策相、
 Danail Papazov=運輸・通信・情報技術相、
 Iskra Mihaylova*=環境保護相---Pazardzhik県選挙区のDPS当選者、
 Tanya Andreeva*=保健相、
 Aneliya Klisarova*=教育省、
 Petqr Stoyanovich=文化相、
 Mariyana Georgieva*=青年・スポーツ相---DPS系専門家=ブル語教授。



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