特別な国・トルコの立ち位置

  小生のようなブルガリア・バルカン半島専門家にとっては、トルコと言う国は、特に現在のエルドアン大統領になってからの政権は、従来の世俗主義を捨てて、イスラム教への信仰も政権基盤に加えたし、益々分かりにくい存在となっている。
 とはいえ、軍事技術で最近世界をあっと言わせている、ゲームチェンジャー的な「バイラクタルTB2」と言う相対的に安価な「ドローン兵器」でウクライナ軍を救った、と言うほどの活躍(即ちIT技術面での活躍)も見せているので、更に分かりにくい、不思議な国となっている。

 特に、ロシア軍のウクライナ侵攻に怯えて、NATO加盟を急ぎ決断したフィンランド、スウェーデンの両国にとっては、NATO加盟国として両国の新規加盟に「反対を唱えるトルコ」と言う国は、困った存在でもある。

 だから、小生も、何時までも「反対の旗を降ろさないのなら、いっそ米国主導でトルコをNATO同盟から追放したらよい」と思っていた。しかし、最近下記のネット記事を見て、なるほど、トルコの地政学的重要性に鑑みれば、米国としても簡単には切れない国がトルコなのだ、と合点が行った次第。そういう意味で、極めて貴重な指摘をしてくれている情報だと思うので、下記に勝手ながら転載させていただくこととした。

★記事題名:「ロシアが狙う分断…NATOもアメリカも思い通りにならない“凄い国”トルコ」   (2022/06/16 14:20、TBS NEWS DIG)


  ウクライナ侵攻を続けるロシアに対し、制裁を強化する西側諸国。中心はEUとNATOだが、その足並みは必ずしも揃ってはいない。
 EUが打ち出したエネルギー制裁は、ハンガリーの反対によって思うようには進まない。
  NATOにおいては、スウェーデンとフィンランドの加盟申請がトルコの反対によって進展せずにいる。

  EUの異端児・ハンガリー。NATOの異端児・トルコ。
  中でもトルコは、ロシアも西側も手を焼きながらも、決別はできない特別な存在だという。
  今回はそのトルコの存在と狙いを読み解いた。

1.「どこともうまくいかないが、どことでも話ができる国」
 中世、隆盛を誇ったオスマン帝国の中心…など歴史を紐解けば、世界的にも重要な国ではあろうが、現代においてトルコがどうして西側諸国からもロシアからも重要視されるのだろうか?
 森本敏 元防衛大臣:
 「なぜトルコにみんな注目するのか、それは国の置かれている戦略的位置だと思う。とにかくこの国をどちらが味方につけるかが重要な位置にある。中東、湾岸、中央アジアと黒海があって、すべての中心に位置する。さらにそこにはインジルリクという空軍基地がある。アメリカはこれをフルに使っている。この地域で作戦をするときに、一番便利な基地なんです。(中略)地球儀の中で極めて重要な戦略的位置であることが、トルコの今日を決めている」

 さらに黒海を囲む国は、トルコ領に挟まれた狭いボスボラス海峡とダーダネルス海峡を通らねば海路で外に出ることができない。その管轄は1936年のモントール条約でトルコに付与されているのだ。現にロシアがウクライナに侵攻してすぐに、トルコは軍艦の通行を認めない、と宣言をしたのだ。こうした地政学的位置によって、トルコはロシアにも西側にも強い姿勢で存在感を維持できる。

 森本敏 元防衛大臣:
 「しかもトルコは西側もロシアも思った通りにはできない。どちらの陣営からも巧くいかない。(西側とロシア)どちらとも仲良くはない。(首脳会談するからって)ロシアとトルコが、関係がいいなんてとんでもない。オスマン帝国時代、不凍港を求めて南進するロシア帝国は(オスマン帝国にとって)仇敵だった。ウクライナとも、関係が好いとは、とても言えない。そう見えるだけであって、どこともうまく行かない。が、どことも話ができる国、それがトルコなんです」
 ちなみに言えば日本は、トルコといい関係を保っている。もちろん日本の外交的努力もあろうが、それ以上にトルコが日本を好きだという…。

 森本敏 元防衛大臣:
 「トルコはロシアに歴史的恨みがある。その大国ロシアに日露戦争で勝ったってことで、ロシアに勝った唯一の国・日本っていうのは憧れの国なんです。だからものすごく大事にしてくれる」

2.「トルコにはドクトリンがなく自分のステータスを高めるためにふるまう」
 1949年に12か国で設立されたNATO(北大西洋条約機構)。これにトルコが加盟したのは1952年。その時加盟したのは、ギリシャとトルコの2か国だけだった。現在加盟する30か国の中では圧倒的に早い。
 だがヨーロッパの東のはずれ、北大西洋に近くもないトルコが、なぜNATOに加盟したのだろうか。

 1952年当時の東ヨーロッパの地図を見ると、ウクライナもジョージアもソ連。さらに東欧諸国が次々と共産圏に取り込まれていく時代で、トルコの国境は、ソ連と共産圏だったブルガリアに挟まれていた。冷戦の西側と東側の最前線と言えば、東西ドイツを思い浮かべるが、トルコも然り。ここが共産圏になったら、海の支配も東側に獲られてしまう。

 二松学舎大学 合六強 准教授:
 「ソ連は戦前から戦後直後にかけて、ボスボラス海峡とダーダネルス海峡の管轄権について、黒海と外海を自由に行き来できるように、自分たちにも一枚噛ませろと迫った」
 さらに両国の間には領土問題もあった。ソ連に脅威を感じたトルコは同盟を模索する…。

 二松学舎大学 合六強 准教授:
 「当時NATOは西ヨーロッパ、とくに東西に分断されていたドイツを中心に、(対ソ連)防衛線を築きたかった。ところが(NATOに加盟したがっていた)トルコが1950年の朝鮮戦争に大きく貢献する。するとアメリカはトルコを非常に価値があるパートナーとなると考えるようになった」

 これ以前から共産化が広がることを懸念していたアメリカにとって、ソ連、黒海、東欧に近い同盟国はぜひとも欲しかったため、ドイツよりトルコを優先するNATOの方針転換に、朝鮮戦争は絶好の機会となった。
 かくして、大西洋から大きく離れた場所に、北大西洋条約機構加盟国が誕生する。つまり、この当時アメリカとトルコの利害関係はかみ合っていた。しかし…

 ロシアNIS経済研究所 服部倫卓 所長:
 「トルコのNATO加盟は、冷戦初期の国際情勢が色濃く反映したものだった。(中略)トルコにとって同盟は永続的なものでも、絶対的なものでもなかったと思う」
 絶対的ではないとはいえ、NATO加盟国であるため、トルコには米軍基地もあり、核も配備されている。にもかかわらずNATOは、トルコを必ずしもコントロールできていない。アメリカもそのことを憂慮していた。

 森本敏 元防衛大臣:
 「(ドイツやベルギーとの)核シェアリングというのは、核保有国と配備された国が完全に合意をした時のみ、ホスト国(配備された国)が核を使えるという取り決め。ただトルコは、自分の意志で勝手に核を使うことができないように、厳しくコントロールされている。アメリカも警戒している。
 トルコはロシアからS400(対空ミサイル)を買っておいて、アメリカから戦闘機を買おうって国ですよ。しかもウクライナには、「バイラクタルTB2」っていうドローンを売り込んで、そのドローンでロシア軍がいじめられて、ロシアは怒ってる。
 トルコっていうのはきちっとしたドクトリン(政治外交の教義・原則)があるわけではなく、自分のステータスが一番高くなるような振る舞いをずっとしてきている。だから同盟国として同じ価値観で戦えるかはみんな疑念をもっている…」
   (小生注:つまり、小生が以前から見ていたように、トルコは自国の国益にのみ忠実で、米国、西側に対する忠誠度に関しては、信用ができない、二枚舌、三枚舌の国だ、と言う側面がある、と言うこと。

--だからといってNATOから出て行け、とは言えない?
 森本敏 元防衛大臣:
 「(トルコは)普通の国じゃない。恐ろしく強い国です。(中略)向こうに行ってと言ったら、ロシアと同盟国になる可能性がある。そうなったらこの地域の戦力図が全く変わります。絶対にあってはならない」
 
3.“異端”はどっちか…我々西側ではないのか・・・
 ロシアのウクライナ侵攻に大賛成する人は、少なくとも西側の価値観から言えば少ないだろうと我々は思う。しかし、ロシアのこの行動を非難して、制裁を実施している国は、196か国中39か国だけ。
 NATOのトルコやEUのハンガリーすら、制裁はしていない。

 果たして異端はどっちなのだろうか…そして今、問題なのは制裁をしていない国をいかに説得してこちら側に付かせるかではなく、制裁しているこの39か国の結束だという。
 二松学舎大学 合六強 准教授:
 「39か国は少ないですが、経済規模からいうと大きいのは認めねばならない。しかし今後重要なのは、この制裁を加えている39か国の中から、制裁疲れが出て来るのではないか、ということ。
 2014年(ロシアによるクリミア半島の併合)以降に見られたような、制裁に消極的になる国、制裁を外したいという国が出て来るのではないかは、注意して見ておかなければならない…」
(BS-TBS 『報道1930』 6月13日放送より)
          (了)
      

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この記事へのコメント

2022年07月05日 21:29
お久しぶりです。

「トルコにはドクトリンがなく自分のステータスを高めるためにふるまう」、という見解はさすがですね。確かにオスマン帝国時代から英国と対抗するためには何度も戦をしていたロシアとも平気で組み、かなり強かな外交を展開していた。地政学的に重要な位置にあるため、駄々っ子同然でも冷戦時代から米国は立てていたほど。

 親日国と言われるトルコですが、かなり眉唾な面があるようです。特に最近は親日よりも親中と飯山陽氏は指摘しています。トルコにとってウイグル人の人権よりも中共からの援助の方が大事ですから。
 イスラム主義を掲げるエルドアンが台頭したのも、世俗主義エリートへの反感がトルコ国内に蔓延っており、エルドアンだけが特殊という訳ではなかったようです。

 ドクトリンがなく、自分のステータスを高めるためにふるまうのはインドも同じでしょう。ロシアとは冷戦中から友好国だったし、軍事対立はなく、領土を占領されたことがないので、インドの対ロシア観は悪くありません。米国がパキスタンに肩入れしすぎたツケもあると思います。
2022年07月08日 06:51
mugiさん、こんにちは、
 トルコに関するこの記事は、小生もきちんと自覚できていなかったことを、よくぞ書いてくれたと言う感じで、久しぶりに感激しました。

 とはいえ、既にマドリードのNATO首脳会議では、妥協して、自らのNATO同盟加盟国としての地位を捨てる気はないこと、ロシアと時折手を組むふりはするけど、本心ではロシアとウクライナを天秤にかけるなど、自国の国益最優先で行動できることを誇示したいし、中東では従来天然ガスを安く売ってくれるイランと仲良くしていたのに、今度はサウジとよりを戻すという綱渡りです。

 アフリカでは、リビア内戦に介入していて、東部勢力(エジプトが支援)と対立する、トリポリの軍閥を支援するなど、やはり独自の立場で行動しています。リビア介入も、エネルギー資源狙いのはず。
 と言う訳で、小生のエルドアンに対する印象は良くないけど、オスマン時代以来、利害得失を常に計算する、アラビア商人的な行動様式は変わらないのだと思います。

 なお、このウエブリブログのブログサービスは、来年1月で終了で、別のサービス(会社?)へと移行しなければならないそうです。IT苦手の小生には、難題だから、また娘のヘルプが必要となりそうです。とはいえまだ半年あります。