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皮肉なことに、今回のコーカサス地方の紛争は、8月8日という北京オリンピック開幕式の当日に起きてしまった。小生は、最近、米国住宅金融部門の投機崩壊を中心に、経済に視野を広げて、世界情勢を勉強してみようとしていたのだが、また、北京オリンピックというお祭り騒ぎは、丁度ほどよい「休刊期」と思い、しばらく夏休み的に書くことをさぼろうとも思っていたのだが、南オセチア、アブハジアというコーカサス地方における紛争の種に火がついてしまったので、少し書かざるを得ないかなと思う。今年3月に、チベット騒乱問題について書いたとき、旧ソ連の「未承認国家群」を扱った廣瀬陽子著『強権と不安の超大国・ロシア』(光文社新書、2008年2月)に言及したが、今回の南オセチア、アブハジア紛争に関しては、同じ著者の『コーカサス国際関係の十字路』(集英社新書、2008年8月)を参照するのがよいと思う。残念ながら、本書は、小生も昨日買い求めたばかりで、未だに読む時間がないので、とりあえずは、下記に自分なりに思いついたことを書いてみる。 1.未承認国家の独立問題 コソボの独立宣言に関しては、今年2月にこのブログでも取りあげた。コソボの場合は、ユーゴスラビア解体後の独立国家形成において、どの単位の旧行政区が、旧ユーゴ連邦から、新たな独立国家を形成しうるか、という問題でもあったし、またどの民族が独立を要求し、かつ実現しうるかの競争でもあった。旧ユーゴの中から最後に、アルバニア人の新国家であるコソボが、独立宣言して、米、独、仏、英などの承認を得たし、日本も承認した。 今回のコーカサス地方は、旧ソ連解体後、やはりどの単位の旧行政区、或いは民族が、独立できるのか、或いは、旧ソ連の一番大きな部分を受け継いだロシア連邦に帰属すべきかどうか、というような問題が、焦点であるように思う。もちろん、より広い視野で言えば、石油、天然ガスのパイプラインを巡る米露間のエネルギー支配戦略の抗争、というような問題も絡んでくる。 何れにせよ、ソ連解体後、本来なら旧ソ連の構成共和国の一つであったグルジア共和国が、そのままの領域を保持して独立し、グルジア国内の他民族も、これを了解すれば、何ら問題はなかったのだが、すんなりそうはいかなかった。グルジア共和国内には、アブハジア自治共和国、アジャリア自治共和国という二つの自治共和国と、更には南オセチア自治州という3つの気がかりな異民族地域が存在した。 このうち、アジャール人の自治共和国(グルジア南西部)では、ソ連時代からのアバシゼ最高会議議長が強権政治を展開し、グルジア政府に離反していたが、その独裁政治が住民から嫌われ、2004年5月にグルジア政府(サーカシビリ大統領)に服属することとなった(ア議長はロシアに亡命)。アジャール人(人口比率8割)は、イスラム教徒ではあるが、言語はグルジア語だし、コーカサス諸語系統に属するグルジア人との民族的一体感情がソ連時代に形成されていたらしい。 グルジア北西部・アブハジア自治共和国のアブハズ人の場合、アジャール人と同じくイスラム教徒ではあるが、また、グルジア人と同じコーカサス諸言語系統の民族ではあるが、同自治共和国内におけるアブハズ人人口比率は、ソ連時代に既に17%しかなく、グルジア人(48%)人口が多かったので、ソ連解体前からグルジア人による「グルジア化」圧力があり、これに反発して独立運動を開始していた。1992--94年にはロシアの支援を得て本格闘争を開始し、実質的にはグルジアから分離した。 南オセチア自治州(グルジア中北部)は、人口の7割を占めるオセット人が、ペルシャ語系(イラン系)民族であり、宗教はロシア正教であるし、北側に隣接する北オセチア・アラニア共和国(ロシア連邦の一部、同民族のオセット人が居住)との統合、合体を主張して、1990--92年には既に紛争を開始していた。 2.完全独立か、大きく豊かな国家の一部か? 最近見付けたブログで、英国在住の日本人が詳しく南オセチア紛争を解説している( http://tna6310147.iza.ne.jp/blog/)ので、皆様にもこのブログを参照願いたいが、このtna6310147さんによると、南オセチアのオセット人達、或いは住民達は、旧ソ連解体後の自らの運命を探る中で、貧乏小国となるはずのグルジアに帰属するよりは、天然資源豊かで、大国となるはずのロシア(大きな熊さん)への帰属を選択したという。 そもそも、イラン系人種とはいえ、オセット人達はロシア正教徒として宗教的にロシアと近しい関係を結んでいるし、かつて北コーカサスのテュルク系、イスラム系諸民族がロシア帝国の支配受け入れを拒む中、いち早くロシア軍に協力した人々の子孫である。グルジア人達は、同じオーソドックス系とは言っても、グルジア正教という別教会を樹立しているし、そもそもオスマントルコ帝国と、ロシア帝国とのどちらに帰属するか、長らく躊躇った人々であり、オセット人達にとっては、その意味でグルジア人達は、これまでも若干違和感のある存在であったのだろう。今更、そういう小民族の下に付くよりは、大きな熊さんに依存する方が得だ、と考えてもおかしくはない。 91年のソ連解体後、旧ソ連のどの地域も、経済困難に直面したが、2004年頃からは、石油価格の高騰もあり、ロシアは豊かになっていったし、南オセチア人達は、ロシア市民権を承認されて、ロシア国内への出稼ぎで生活を支えることもできた。益々オセット人としては、北オセチアと合併した方が、またロシア正教の国家に所属した方が、利益が大なのである。 3.ロシアの意図 ロシアとしては、今の時点で紛争拡大を望んだのかどうか、少し疑問ではあるが、早速プーチン首相が北京から飛んで返り、紛争に頭をつっこんでいるようであり、結局は、むしろ北京五輪を都合の良い隠れ蓑(世界の報道が、コーカサス地方に集中しないから)として、一気にアブハジア自治共和国についても、軍事的な優位、ロシア支配体制を確立すべく、軍事作戦を急いでいるように見える。 ロシアとしては、コーカサス地方は、カスピ海沿岸の石油と天然ガスをロシアが牛耳るパイプラインで欧州向けに輸送するための戦略的な地域であり、何れにせよ親米派となったアゼルバイジャン、グルジア(及びトルコ)にエネルギーの迂回輸送路を確立させないためにも、早急なてこ入れが必要な地域だった。 要するに、グルジアが焦って、南オセチアの領土保全を急いだことを奇貨として、電撃作戦で、逆にロシアのコーカサス支配圏域を拡大してしまう所存であろう。それに、有り余る石油収入で、今のロシアには、軍事作戦に必要な金などは、けちる必要がない。逆に米国は、イラク、アフガニスタンの両地域に大軍を派遣する莫大な軍費負担にあえいでいて、新たな戦線を拡大できないのだ。しかも、大統領選のさなかに新たな戦争を開始できない。プーチン首相にしてみれば、米国が動けない事情はお見通しだ。 そもそも、ロシアとしてはコーカサス地方全体(グルジア、アゼルバイジャン、アルメニアの南コーカサス3国を含む)を、ロシア帝国時代に確保した自国権益地域、裏庭、と見なしており、グルジア国内の「未承認国家」などへの梃子入れ、支援、などを通じてグルジア政府の親米路線を妨害することは、既定の国家戦略一つである。アゼルバイジャンに関しても、同国内の「未承認国家」であるナゴルノ・カラバフの「独立」、アルメニアとの一体化を支援して、アゼルバイジャン政府の親米政策を牽制し、対露配慮するように圧力をかけているのだ。(アゼルバイジャン政府も、最近は一部対露配慮をしつつ、同じ親米派のグルジア、ウクライナ、モルドバなどとも少し距離を置くなど、政策を微調整しているらしい)。 |
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