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zoom RSS 上海でユダヤ人を救った犬塚惟重

<<   作成日時 : 2011/07/09 12:26   >>

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 本日(7月9日)付産経紙教育欄には、興味深い記事が載っている。昨年の記事(昨年9月、「偉大な昭和の軍人:樋口季一郎」と題する記事:http://79909040.at.webry.info/201009/article_1.html)でご紹介した、樋口季一郎が、シベリア鉄道経由で満洲に到着した大勢のユダヤ人難民(約5千人?)を救った話しとの関連で、この産経記事は注目されるのだ(7月9日付産経新聞記事:http://sankei.jp.msn.com/life/news/110709/art11070908240002-n1.htm)。
  なお、Wikiにおける犬塚惟重に関する記事は次の通り:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%8A%AC%E5%A1%9A%E6%83%9F%E9%87%8D
  今回は、日本人の人道主義が、昭和の軍人の一部では、いかなる動機、建前論でなされるのか、という側面に関し、焦点を当てて、考えたい。

1.樋口季一郎のケース  
  上記の小生の記事でも触れたが、樋口自身のユダヤ人に対する同情的な心は、実は欧州に留学していた頃、日本人など東洋人に家を賃貸してくれたのは、ほとんどがユダヤ人で、欧州留学の経験のある軍人らは、現地で個人的につきあってくれる人々もユダヤ人達で、対ユダヤ人感情がすこぶる良かったことがまず第一の動機だろう。

  もう一つは、樋口の場合は、はっきりと人道主義の観点もあったらしい。この思想は、ドイツ国からの抗議が東京の外務省→帝国陸軍→関東軍へと盥回しされ、回付されたとき、樋口が上官の東條英機に対し言い放ったと言われる言葉「参謀長、ヒトラーのお先棒を担いで、弱い者いじめすることを正しいと思われますか?」という反論の言葉からも明らかだ。当時の関東軍内には、東京から自立した気風もあり、東條もこの樋口の言葉に文句をつけず、ドイツの抗議をはねつけ(無視した)、樋口のユダヤ人保護政策を不問に付したという。

2.今回の産経紙の指摘する、ユダヤ人救済の動機:「天応陛下の御心を忖度」
(1)杉原千畝(ちうね)領事
 
   あるユダヤ人が「何故ユダヤ人を救ってくれるのですか?」と質問したのに対して、杉原は、「私のすべきことは、陛下がなさったであろうことをすることだけでした」と応答したという。
  すなわち、天皇陛下なら、ユダヤ人を助けたであろうから、自分も同じことを行った、という。「天皇陛下なら、そうなさったであろう」という判断基準だという。

(2)犬塚惟重(これしげ)海軍大佐 
  大佐は、上海の日本租界の中に、ユダヤ難民を収容する施設や学校、病院をつくって約3万人のユダヤ人保護に取り組み、更には、リトアニアから350人のユダヤ人を救出して、米国へ送り届ける外交交渉に尽力した、という。(注:この犬塚大佐の名前は、小生は初めて聞く。当時英米両国も、ユダヤ人の受け入れを拒んでいたので、入国査証無しでユダヤ人難民を受け容れてくれたのは、唯一犬塚の保護政策があった上海の日本租界のみだった、という。小生も、全くこれまで知らなかった事実だ。)
  大佐は、杉原同様に、ユダヤ人を助けたのは、「天皇陛下の万民へのご仁慈に従っているだけ」と答えた由。
  後に大佐はユダヤ民族のために貢献した人名を記録する『ゴールデンブック』に記載される予定だったのを、「記名されるべきは天皇陛下であられる」と言って、自分の名前の記載を断ったという。

3.日本の道徳と皇室とは密接に関わっていた、という筆者の言葉 
 ちなみに、上記の2例を引いて、この産経記事の筆者渡邊毅氏(皇學館大学准教授)は、かつての役人や軍人には、「自分は天皇陛下の官僚(軍人)である」という自覚とプライドがあった、そしてそれが彼らの道義心を養い、強化していたのだ、と書いておられる。

  もっとも、戦後育ちの小生は、「陛下の御心を勝手に忖度しては、勝手に北支における占領地などを拡大し、日本を窮地に追い込んでいった」のも、帝国陸軍の軍人達ではないか?という疑問もあり、なかなか渡邊氏のように、天皇制のメリットにばかり目を向けるつもりはない。
  他方で、杉原、犬塚両氏が、本当に「天皇陛下の御心に沿うため」に、こういう動きをしたのか?との疑問は残る(本当は純粋に人道主義者だったかも)が、確かに、当時として、役人、軍人が、公式の建前として「天皇陛下の慈悲深い御心」を理由として挙げる、というのは、良い議論であった、とも言える。

4.真相が「陛下の御心に沿う」ことだったかどうかは疑問だが、何れにせよ良き人道主義が貫かれた  
  小生としては、樋口、杉原、犬塚の3氏とも、結局は自らの人道主義、対ユダヤ人同情心から、なんとか生命を救済しようと、自らの職権を少し逸脱しつつも、勇気を持って行動した、ということに付き、おおいに感動を覚える。

  他方で、犬塚大佐が、『ゴールデンブック』に名前を刻まれていないことは、少し残念な気がする。樋口の場合は、早坂隆著(「指揮官の決断」、文春新書、2010年6月)のp158によると、ゴールデンブックの第6巻にGeneral Higuchi(Tokyo)と記載されている由。
  もっとも、このゴールデンブックというのは、早坂著によれば、ユダヤ民族基金(JNF)に対する献金記録のことであり、要するに、樋口の恩を受けた極東ユダヤ人協会の人々が樋口の名義で(恐らく勝手に名前を使い)献金したと言うことらしい。とはいえ、後世に名前が記録されたのは、結構なことだ。








指揮官の決断?満州とアッツの将軍 樋口季一郎 (文春新書)
文藝春秋
早坂 隆

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コメント(5件)

内 容 ニックネーム/日時
 犬塚惟重という人物は初めて知りました。「『ゴールデンブック』に記載される予定だったのを、「記名されるべきは天皇陛下であられる」と言って、自分の名前の記載を断った」とは見事ですね。昭和天皇が果たして「万民へのご仁慈」を持っていたのか、私には疑問に思えますが、戦前に犬養のような日本人がいたとは誇らしい。

 ユダヤ人も様々でしょうけど、一部インテリには原爆は南京の罰だという者もいるそうですよ。ネットで彼らの発言を知り、ユダヤ人への憐憫はなくなりました。私ならユダヤ人は絶対に助けない。
mugi
2011/07/11 21:19
 杉原の日本国通過査証によってウラジオに到着したユダヤ人達は、神戸に来て、その後ユダヤ人を受け容れる犬塚の政策のある上海の日本租界に船で向かったし、樋口が満州で収容したユダヤ人難民達も、上海の犬塚の世話になったのでしょう。
 その後、徐々に、上海のユダヤ人コミュニティーと、英米のユダヤ人機関が英米政府に働きかけて、上海からユダヤ人難民達を、主として米国、カナダなどに受け容れてもらったので、これら数万人のドイツ系、東欧系ユダヤ人達が、生命を救われました。
 ホロコーストからの難民を救ったのが、日独伊三国同盟に荷担した日本の陸海軍人達の一部だったこと、このことも、運命的な感じがする。
 もっとも、昭和軍人達の「天皇陛下への忠誠心」が、「道具としての天皇の利用」という、「昭和維新」時代の本音を裏としている、と見る小生の視点から言うと、杉原、犬塚の「陛下の御心」という建前論は、自らの人道主義を隠す隠れ蓑に思えてならない。とはいえ、あの時代に人道主義精神を貫くためには、良い建前を利用したと思う。
 他方、樋口の場合「ヒトラーなどに荷担して、弱いモノ虐めに参加するのは間違っている」と、三国同盟など歯牙にもかけず、自らの信念を押し通そうとした、そういう意味での信念の強さ、「天皇を道具として利用せず、自らの信念でやった」という意味で、小生は、益々樋口が好きになりました。
室長
2011/07/12 10:07
●ユダヤには古くから『ゴールデン・ブック(金欄簿)』と『シルバー・ブック(銀欄簿)』の2種類のブックがあって、前者のブックには同族(ユダヤ人)の出身で世界的に傑出した人物の名を代々登録し、後者のブックにはユダヤのために貢献した第三国(ユダヤ人以外の人々)の名をそれぞれ登録して、その功績を永遠に顕彰するというのである。
 この登録によって、全ユダヤから永遠に感謝と敬慕を受けることになり、非常な名誉とされている。それは単にノーベル賞などの如く現界的栄誉にとどまらず、神聖な「神の記録」の如く扱われるところに大きな特徴が見られる。

●日本人でこのブックに登録された者が3人いると言われている。その1人は、元陸軍大佐で陸軍の「ユダヤ問題専門家」の安江仙弘氏である。彼は格別の貢献があって、ユダヤ人しか登録されないはずの『ゴールデン・ブック』に登録された唯一の外国人(日本人)である。

と、紹介しているところもありますが、どうなのでしょう?
単なる献金記録ってのはいくらなんでもないんじゃないかな?
 
2011/11/14 08:14
名無しの方、コメント投稿ありがとう。
 Googleで検索してみました。小生も、さほどのユダヤ専門家とは言えないから、おかしいと言われると、回答が出来ないので、検索依存となります。ご勘弁を。

Googleで調べたら、下記記事(
http://ilovenippon.jugem.jp/?eid=6)では、ゴールデンブックに、

樋口、安江の両名が掲載されている、とあります。
同じような記事は他にもあります:

http://blog.goo.ne.jp/mama0114/e/3ddb0d82a5c6b9e5ccd1e7e15abc13

c2。

 つまり、ゴールデンブックには、二人の日本人の名前が刻まれてい

るようです。

 なお、次の記事では、杉原千畝も名前を刻まれていて、3名だと言っています:http://ameblo.jp/seiginokane/entry-10048382684.html。

更に、「ユダヤ ゴールデンブック シルバーブック」で検索してみたら、次の回答にぶつかりました。yahoo知恵袋という記事で、次のように回答がありますのでご参照下さい:http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1019462450
 
室長
2011/11/14 10:29
(続)
回答文:
こちらを参照されるといいでしょう。

ヘブライの館「上海と満州のユダヤ難民 〜 ユダヤ難民を保護した日本 〜」
http://inri.client.jp/hexagon/floorA6F_hb/a6fhb100.html

ちなみにそのサイトからの引用です。

ユダヤには古くから『ゴールデン・ブック(金欄簿)』と『シルバー・ブック(銀欄簿)』の2種類のブックがあって、前者のブックには同族(ユダヤ人)の出身で世界的に傑出した人物の名を代々登録し、後者のブックにはユダヤのために貢献した第三国(ユダヤ人以外の人々)の名をそれぞれ登録して、その功績を永遠に顕彰するというのである。この登録によって、全ユダヤから永遠に感謝と敬慕を受けることになり、非常な名誉とされている。それは単にノーベル賞などの如く現界的栄誉にとどまらず、神聖な「神の記録」の如く扱われるところに大きな特徴が見られる。

●本来、ユダヤ人しか登録されないはずの『ゴールデン・ブック』に、なぜか日本人が登録されている。1997年現在、日本人の被登録者は次の6人と伝えられる。
◎安江仙弘 (元陸軍大佐)◎樋口季一郎 (元陸軍中将)◎小辻節三 (ヘブライ語学者)◎内田康哉 (元外務大臣)
◎手島郁郎 (テント主義の創始者)◎古崎博 (株式会社「近東」社長)

また、樋口季一郎少将の件では彼が尊敬の対象となっていますが、救援列車を出すように指示した満鉄総裁と関東軍参謀長はA級戦犯にされた松岡洋介と東條英機なのです。
室長
2011/11/14 10:30

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