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zoom RSS 週末のエスニック紛争事件

<<   作成日時 : 2011/09/26 14:13   >>

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9月23−−25日の先週末、ブル国内は、エスニック対立事件で大騒ぎとなった。民族間紛争は、各種あるが、基本的にはバルカン半島では、ロマ達は日頃から差別されていて、対立回避に慣れてもいるので、大規模な騒ぎにはなりにくいのだが、今回は、スマホなどの技術革新も、悪い方向へと導いたようだ。

  この事件の根底には、一部の富裕化し、一定の地域で「権力者」のようにもなっているロマ貴族に対する、貧しいままの一般ブル人達の妬み、反感がある。

  ブルを含め、バルカン半島では、昔から、ジプシー達は下層階級と決まっていたし、今も大部分のロマ達は貧困の中から抜け出せないのだが、とはいえ、一部のジプシー達は、社会主義末期の「闇商人マフィア」の頃から頭角を現し、89年の「変革」以降も、どんどん商売を拡大して、富を蓄積している。Kiro王は、そのようなビジネス系ジプシーのリーダー格であり、ロマ社会では尊敬されている。つまり、ジプシー内部は、貧富の格差が、ブル人社会以上に大きい。

  「貴族ロマ」は、今回問題となったKiro王のように、国会議員の部下まで持つ(04年当時、2名の議員はロマ票で当選していた。彼らはKiro王を国会議事堂内に迎えて、密談していた)し、種々のビジネスを、ロマ人達の安価な労働力を使用できるので、成功裏に遂行し、益々富裕化しているのだ。
  そして、資本主義社会の仕組みを理解できない、貧しいブル人達とか、人種差別指向の若者達は、ロマをのさばらせる政治、警察にも反感を持っており、他方で、スマートホン、SNSなどの現代ネット技術で武装しているので、短時間に大勢の仲間を動員できる、という、最近の中東のような現象もあるらしい。

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    ジプシー王Kiroの貴族的な風貌。

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    今回のフーリガン暴動で少し破壊されたKiro王の豪邸。


1.事件の発端
  発端は、ジプシー王Kiroと名乗る人物が日頃から、村内でブル人らから煙たがられていたのだが、23日夜、このKiroの孫が亡き父親(Kiroの子息)の命日祭事を催そうとして、忙しく働いていたが、この裕福なジプシー家族の祭事に、日頃から同家(Rashkov家)をよく思わないブル人村民らが白い目を向け、対立的論争が起きた。ちょうどその時、Plovdiv市内からロマ達10数名を連れてきたミニバスの運転手が興奮して、犬を連れて歩いていた19歳のブル人少年を轢き殺したのだ(もっとも、単なる交通事故だった可能性もあり、警察では捜査中)。
  P市、及び全国のフーリガン達が、翌24日には、この村に駆けつけ、R家の豪邸に放火したりして、更に騒ぎは拡大した。

2.事件詳細(上記を更に詳しく説明する)
  23日(金)夜8時頃、ブル第2の都市Plovdiv市の近郊(東側)に位置するKatunitsa村で、同村に豪邸を建て、ブルのロマ王(Tsar Kiro、本名Kiril Rashkov)と呼ばれてきた、大富豪の使用人、またはR家家族に当たるジプシー達と、同村のブル系市民達との間で論争・紛争が起きた。紛争の間に、地元の19歳の少年Angel PetrovがR家側の運転手により轢殺され、ブル人達の怒りに火がついた。同時に、この紛争のさなか、K村の16歳の少年も死亡したが、これは事件に興奮しての心臓発作が原因(同少年は、心臓バイパス手術を受けるなど、元来心臓が弱かった)。

 この紛争には同23日夜、Plovdiv市のサッカーファン200名ほども駆けつけて、警察も、直ちに隣県からの警察部隊・憲兵隊(注:憲兵隊は日本の機動隊に近い部隊)も動員して、300名ほどの警備体制を敷いた。すなわち、23日夜には、Angel少年が死亡し、これに激怒したブル人群衆と警察部隊がにらみ合う形となった。

この事件は、直ちに地元のCable TV社の報道とか、インターネットのonline forum、或いはSNSなどによる、私的なサークルの間の連絡網を通じて、知れ渡り、また、膨れあがり、翌24日(土)夜8時には、Plovdiv市以外ののサッカーファン達(フーリガンら)も大勢駆けつけ(他に、全国のバイク野郎達も1千名ほど駆けつけたという)、より大規模な群衆がK村に集まり、直ちにR家の村内の3軒の豪邸に対し、攻撃がかけられ、二つの家、及びKiro所有の車3台が放火された(母屋は、警備が厳重だったせいか、無事らしい)。警察側は、群衆の暴行に、基本的には、厳しく取り締まらない、「手を引く」手法をとった。大勢のけが人らを出さないため、やむをえない措置であった由(警察側の主張)。
  他方、この間、R家側の1台の車が、ブル人暴動参加者らの真ん中に突っ込み、数名の負傷者(警官を含む)を出したが、この運転手は逮捕された。

なお、Angel少年轢殺犯(55歳のR家運転手、前科多数)は、23日夜の間にいったんトルコ領へと国外逃亡したが、24日、自主的に帰国し、警察に逮捕、拘留されている。

  25日(日)には、Angel少年の葬儀が、地元のK村の他、Plovdiv市中心部の広場、或いはソフィア市、北部のRuse市などでも、地元のNPO、その他の団体が主催して、賑々しく行われた。
  この間、P市内のロマ系住民地域(Stolipinovo団地、 Adzhasan Mahala 、 Sheker Mahala)では、ブル人暴徒による襲撃を警戒して、R家と近しい二つの氏族を中心に武装警備隊が結成されていたが、ソフィア市から動員派遣された数百名規模の警察「暴動鎮圧部隊」が、上記のロマ地区に配備され、警戒に当たったので、日曜の夕刻には、P市の治安は回復され、暴動(本格的なブル人とロマ達の衝突)は不発に終わった。

  なお、25日、P市ロマ達に、武装行動を制止するよう説得するためには、ロマ人一人が殺害されたとの噂などを、早期に警察が嘘だと否定したこと、 地元警察、市当局、DPS党などが、噂は正しくないとロマ人地区に赴いて説得したことが有効だった。ちなみに、DPS党は、Stolipinovo団地に多くの支持者を有しており、彼らの説得が、かなり効力を発揮したらしい。同じ少数民族トルコ系の政党が、こういうときに、説得力を持つ。

3.小生コメント
  これまでも、小生は何度がジプシー問題に関し触れてきたが、このような大規模なエスニック間衝突は、ブルでも珍しい部類に入る。(注:2010年7月の本ブログで、2回に渡りジプシーの社会的問題を扱った。)

  基本的には、K村の場合、Kiro王が、89年の「変革」以前から、「闇商売」などで、金儲けの才能を発揮し、特に自由化後は、密造酒製造、売春、その他の違法な商売(噂で証拠はない)も含めて、富豪化し、04年当時既に、K村の邸宅は、監視カメラ、隅櫓(監視台)付きという、まるで「砦」と呼ばれるほど厳重な警備体制を敷いていた。その上、この邸宅内では、密造酒を製造(噂)しているが、その電気代も、水道代も、一切支払わない、という噂が新聞にも掲載され、長年滞納を繰り返したので、ついには警察まで同行して、水道局、電気会社が、代金を徴収したほど。

  K村は、第2の都会Plovdiv市に近いこともあり、人口が多い村らしく、R家の周囲には、多くのブル人一般市民が住み、巨大豪邸とその豪勢な生活ぶり、出入りする多くのR家使用人のロマ達(P市内Stolipinovo団地から、R家のバスで送迎通勤)らによる、傍若無人な振る舞いに、日頃から激怒していたらしい。

何れにせよ、通常ジプシー達は、集団で、一定の地区に住み、ジプシー貴族といえども、これら貧民部落の端っこに、豪邸を建てる。要するに、集団で、ブル人達とは距離を置いた地区に住み、対立・摩擦を避ける傾向が強い。ところが、このKiro王は、ブル人が多数すむ村に、従来から住んでいたし、今でも住み続け、貧民の多いジプシー部落からは距離を置いてすんできたらしい。結局、このように、近隣の貧しいブル人家族達から、直接羨望の目を毎日浴びるところに居住していた、ということに、今回の紛争の一因があると思う。豪邸にするためには、村内の土地をブル人達から買い取ったことだろうし、今回の対立も、隣人達との資産を巡る論争が発端とも言われる。轢殺された少年(実際には、ブルでは18歳で成人だから、19歳は少年ではないはず。しかし、web紙では少年と報道している。→その後、「若者」と表現するように変更された)は、この因縁の論争の当事者たる隣人の子供であるとの報道もある。

ブル人大衆が激怒するのは、人種的に格下のジプシー達が、自分たちより上手に資本主義、民主主義体制下で繁栄し、その金の威力を背景に、警察まで買収(寄付金を支払い)して、自分の車には、警察が「公認ステッカー」を張って、交通警察まで、あらゆる違法運転行為、違法停車・駐車、なども黙認する(これらは、今回ブル人暴徒代表達が、県警本部での対話の場で述べた言葉)・・・などの、色々な好ましからぬことが、公然と行われていること。
   (注:その後内務省は、@キーロ王から警察への寄付金は一度もない、Aキーロはマケドニア生まれで、Plovdiv市Stolipinovo区の伝説のジプシー王Gogoとは、何らの血縁関係もない、Bキーロからは、きっちり税金を徴収する、と発表し、市民の不満を逸らそうとしている。)

  Tsvetanov内相は、数週間前に、長年の慣習だった、警察への企業、個人からの寄付行為を今後禁止し、受領しないと発表したが、これまでの長年の慣習を認めたと言うことでもある。
  自由化後のソフィア市中心部などでは、車両が増えて、中心部での停車などは、益々困難(規制されている)となっているが、マフィア・ボス達の黒塗りのRV車両(大型)などは、交通規則を無視して、レストランなどの真ん前に横付けである。店内の出入りに際して、すぐに車の中に隠れないと、射殺される危険もあるし、ボディーガード達が、店外で待機するためにも、店の真ん前に駐車することは、ヤクザの論理としては当然だが、一般市民には、あまりにも傲慢な態度で、これを寄付金受領と引き替えに黙認する警察は、マフィアを庇護しているようにも見えるのだ。

なお、騒動規模が大きくなった背景には、Facebookを初めとするネット技術の普及が、暴走族、フーリガン達などの若者の間の情報伝達を迅速化していること、特に、根拠のない噂が、勝手に一人歩きする傾向、などもある。
  また、10月23日に迫った大統領選・地方首長選のダブル選挙への思惑から、極右政党が26日(月)〜28日(水)にかけて、全国の諸都市で大衆を動員し、抗議集会を開いたことも、事件を大きくした。



ジプシーの歴史 東欧・ロシアのロマ民族
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ジプシー問題とエスニック紛争
  小生は、これまでもバルカン半島における民族間対立、或いは少数被差別民族としてのジプシー問題に関連して、色々書いてきたが、10月にmugiさんのブログで、改めてジプシーに対する偏見、差別という問題に関し、議論した。 この際の、やりとりは、やはり小生のブログでも、再度リサイクルして掲載する価値があるように思えてきたので、今回またもや、往復書簡形式にてご紹介しようと思う。原文は、次でご参照下さい:http://blog.goo.ne.jp/mugi411/e/8b9ee378e2... ...続きを見る
ブルガリア研究室
2011/11/17 16:20

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
こんばんは。

 ジプシー王Kiroのお話は興味深いですね。画像から中東風の顔立ちにも見えるし、このような風貌の人物は中東でも珍しくないように思えます。ジプシーといえば底辺層のマイノリティで、貧困状態にあるというイメージとはかけ離れた人物だし、傑物なのは確かでしょう。
 しかし、富豪化したにせよ、そのやり方があまりにもえげつなさすぎる。案外ブル人の軍人上がりの体育会系マフィアも変わりないのかもしれませんが、ロマという民族の出だったことが、やはり一般ブル人の反感を買ったようですね。

 ブルに限らず、マイノリティの富豪が多数派民族の一般人から反感を買うのはどの国でも見られますね。ユダヤ人、華僑、在日などがそうだし、パールシーさえヒンドゥーから敵意をかったことがある。あるブロガーが戦争が起きる原因に「富と文化」の違いを挙げていましたが、エスニック紛争も根本は同じだと思います。
mugi
2011/09/26 21:24
mugiさん、
 仰有るとおりで、少数民族の人間が大富豪として、その富をひけらかすことは、危険極まりないことです。
 ましてや、このKiro王は、全国のジプシー達の間でも、トップの指導者として尊敬されている。ところが、同人のビジネス実態とか、収入源などに関しては、何ら詳しく報道されていない。密造酒を製造・販売しているとか、西欧で売春宿を経営しているとか、全て噂で、本当に同人がどういう商売で儲けているのか、記者達にも不明です。当局が、きちんと公表するとかすれば別ですが、それもない。そもそもブルのように小さな国では、税務当局が収入源を把握していれば、すぐに記者らにも漏れるはずです。口のたがが緩い国民ですから。
 だから、税金も余り払っていないし、ビジネス実体も不明、しかし、当局としては、ロマの最高指導者として、優遇しておいた方が、色々取引も出来るし、有用なのでしょう。いずれにせよ、多くのロマ達に、雇用の場を提供しているのです。恐らく会社なども、親族名義で、自分の名前は出さないのでしょう。でも、裏で全てを牛耳り、指令しているのです。
室長
2011/09/27 07:53

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