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zoom RSS インフレを阻止し、経済を安定化させたCBS制度とは?

<<   作成日時 : 2012/11/06 10:05   >>

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  これまで2回にわたり、ブルガリア経済の数値と題して、経済指標を概説してきた。これに関連し、11月2日付のNovinite.com紙に掲載されたSteve Hanke教授が、自分が提唱してブルに採択されたCBSという制度が、その後15年にわたり、ブル経済の安定化に資してきたことを自画自賛した記事は、最近のユーロ圏の混乱に比べれば、まさに仰有るとおり、という要素があるので、下記にご紹介する( http://www.novinite.com/view_news.php?id=144714)。
  ちなみに、いつものことながら、各段落に付けた小見出しは、小生が勝手につけたもので、Hanke氏が付けたものではない。
     【注:Dr.Steve Hanke氏は、ジョンス・ホプキンス大学の「応用経済学研究所」(Maryland、米国)の共同所長で、ペータル・ストヤーノフ・ブル大統領の顧問として、1997--01年の期間活躍した。】

1.Steve Hanke教授(博士)が提唱したCBS構想
今から15年前の1997年7月1日、ブル政府は、CBS=通貨審査委員会制度*を採用し、ハイパーインフレを阻止することに成功した。97年2月の月間インフレ率は242%にも達していたのだが。
  
   (小生注:通貨審査委員会制度(Currency boad system)というのは、決して複雑な制度などではなく、単純明快な原則に立った制度である。
  (1)委員達の構成は、IMFなど国際機関から派遣される「数名の外国人委員」(ブル人自身への信用が低い(マフィアとのコネへの懸念)ので、外国人による監視体制とも言える要素)と、ブル人数名の委員のみ。これら委員達は、ブル中銀から、「外貨準備基高」の中銀口座数値、及びこれとほぼ連動する、ブルが稼いだ外貨収入(観光受け取り、ブル人移民からの国内向け送金、外資によるブル国内への直接投資(FDI)など)が、中銀の外貨口座としてどれだけ増額されたか、などの数値証拠の提供を受けつつ、これらを睨みながら、
  (2)ブル通貨(レフ貨幣)の新規・追加発行高を厳しく許認可し、管理する、というもの。要するに、ブル通貨の過剰発行は一切認めない制度。
  また、(3)ブル貨幣の交換価値に関しては、発足当初はドイツ・マルクと固定し、1DM=1Lvとした。ユーロ発足後も、旧DM価値へのpegを一切変更しておらず、この故に、1ユーロ=2Lv弱という、旧DM価値のママで据え置かれてきている。つまり、通貨に関しては、ブル貨幣の価値を、徹底的に守るとの姿勢で、
  (4)通貨発行を意図的に増やしてインフレ誘導する、などの措置は一切執らないし、
  また、(5)財政規律を厳守して、インフレの可能性を徹底的に排除している。
  要するに、超保守的な財政、通貨政策を実行していると言える
。)

2.民営化よりも、通貨価値堅持こそが、共産圏自由化後の主要課題
  自分は、ソ連邦、及び旧東欧諸国の共産党政権が崩壊し、自由化された新政権が樹立されるとき、これら諸国が当面する問題は、インフレと、これに伴う混乱だと予測した。よって、自分は、研究の中心課題を、民営化から、通貨改革へと変更した。

  自分は1980年代初頭頃、ロナルド・レーガン大統領の民営化に関するホワイトハウス主任顧問だったので、上記のような研究課題の変更は、自分にとっても大きな変更だったし、この新たな課題につき、かなり大きな研究投資も行った。1990年までには、自分は、ユーゴ社会主義連邦共和国のZivko Pregel副大統領の個人経済顧問として活動していた。
注:本来、このCBSと言うアイデアは、ユーゴという、社会主義時代においてすら、既に超インフレを経験していた国家の治療薬として、編み出された政策だったと言うことは興味深い。しかし、どうやら、ユーゴではこの施策はすぐに採用されることはなかったようだ。
   何れにせよ、Hanke氏が、1990年という自由化後の初期から、バルカン半島に送り込まれた、米国の手先、恐らくは米国務省、またはCIAが送り込んだ経済専門家だったと言うことらしい。米国の外交政策は、こういう学問界とも連携して、行われると言うことであろう
。)

  ユーゴは、この頃までに、既に長らく、高率のインフレという病に冒されていた。そして、このインフレの嵐を食い止め、経済的安定を取り戻すためには、通貨審査委員会方式が最良の方法だと結論した。安定は、全てではないが、しかし安定がなければ、全てが無に帰すると考えたのだ。

3.Hanke夫妻は、ブルガリアへのCBS構想売り込みを1990年に開始した
  そして、ブルがこのハイパーインフレという呪いに直面することが明らかとなったので、自分は妻と共にこのCBSと言うアイデアを試してみるべきだと考え、1990年にソフィアを往訪した。我々の目的は、ブル高官、インテリ、一般大衆に対して、このCBSと言うアイデアを売り込むことだった。この旅で自分は、ブルの経済学者達も、通貨審査委員会という用語そのものも、一度も聞いたことが無く、通貨管理がどういう風に効力を発揮するかに関しても、全く理解力がないことを発見した。

4.理解を深めるために、著書を発行した(1991年)
  この欠点を治療するために、自分は、Dr.Kurt Schulerと共著で『ブルガリアのレフ(Lev)貨のために歯を:通貨審査委員会による解決法(1991年)』を発行して、ブル用の通貨審査委員会制度の青写真を提示して見せた。
    (注:歯(複数形)という用語は、何を意味するのか?英和辞書を参照してみると、teeth(toothの「複数形」)には、(法的)実効性(力)という意味もあることが分かった。つまり、強い力を持たせろ、という意味らしい。)

  この著書を武器として携えて、自分と妻は、ブルにその後何度も旅して、広報して歩いた。かくして、一部サークル達からはCBSアイデアに対し一定の関心が得られたものの、公式政府レベルからの反応は否定的だった。当時のブル中銀総裁トードル・ヴァルチェフ(Prof.Todor Vqlchev)氏が、しばしば繰り返した常套文句が、ブル政府高官達の反応を典型的に代弁している:「貴殿の提案とブルへの関心には感謝する。しかし、我々は、この現地の情勢の現実をより良く知っているし、全ては我々の管理下にある」。

5.著書のブル語海賊版がベストセラーとなった、ストヤーノフ大統領が、この政策採用に尽力してくれた
  しかし、1996年になると、ハイパーインフレの嵐が吹き荒れ、CBS構想への抵抗は消滅した。1996年12月に、駐米ブル大使は、自分にCBS構想に関してワシントンDCで、説明会を開催するように要請した。そして同月、上記の自分とシューラー博士の共著(英文)が、海賊版としてブル語に訳され、ソフィア市でベストセラー1位に輝いたのだ。
  2ヶ月後には、自分と妻は再びソフィアに旅し、当時のPetqr Stoyanov大統領が自分の所に来訪してきて、同人の個人顧問となるよう要請したのだ。ストヤーノフ大統領は自分に、通貨審査委員会法案を起案して欲しいと依頼し、更には、ブル国民、政治家らに、いかにしてこの制度がハイパーインフレを止める効用があるのかを説明して欲しい、と要請した。

6.通貨審査委員会制度(CBS)は、発足後あっという間にインフレを退治した
  上記の通り、97年7月1日に、通貨審査委員会が設置されると、インフレも、金利も、あっという間に低落した。CBS導入後数ヶ月間の成果を見たス大統領の安堵の表情を自分は忘れられない。そして自分に次のように述べたのだった:「自分は、CBSがインフレを止めることを期待したが、本当のところは、初めは懐疑的だったのだ。そして、貴殿が予想したよりも早く、このCBS制度が効果を発揮したのを見て、本当に驚いた」。

  その後かなりの時間が経ってから、ス大統領は自分に次のように述べた:「CBS制度がブルにもたらした安定がなかったならば、ブルはNATO加盟(04年)、EU加盟(07年)に関してもより多くの困難を経験したことであろう」と。

  CBS制度が、いかにブルの経済を劇的に改善したかを図るために、自分は1995--98年の期間に関する「悲惨さの指標」を構築した。この指標は、インフレ率、金利、失業率と年間のGDPのマイナス成長率を比較したものだ。

7.CBSと、その副次的産物である緊縮財政政策は、その後の世界的経済危機からもブルを守っている
  CBS設置と同時に、ブルにおけるハイパーインフレは突如終息した。その後、ブル国民は強くこの制度を支持するようになった。この故に、過去15年間、ブルの全ての政党は、通貨政策と、予算執行において、抑制的運営に賛同してきた。結果は、安定である。1998年のロシア通貨ルーブルの危機においても、現下の隣国ギリシャの経済危機にも、ブル経済の安定性は揺るがされてはいない。

  ブルの年次予算・財政に関して言えば、多くのEU諸国が赤字に陥る中で、ブルの場合は、ほぼ均衡を維持している。ブル国政府負債に関して言えば、EU諸国中で最低の水準にある。マネーサプライの側面では、安定的に伸びている。対照的に、EU諸国では、マネーサプライが劇的に減少して、デフレ傾向が顕著に見られる。

8.ブル経済に残る、最後の難問は、汚職の撲滅
  要するにCBS制度は、ブルでは1996--97年の危機を克服した。しかし、その後も犯罪と汚職がブルにおける恒久的な病気として居座っている。

  自分が大統領顧問であったことから、多くの外資企業が、自分に対し、彼らが直面している問題に関して警告を発し、相談してきた。汚職問題一つとっても、いかに大きな問題であるかは、次のエピソードで明らかだ:自分と妻がス大統領とのある会談において、自分はブリーフケースから、あるブル人大臣が、ある米国企業に対して要求している賄賂に関する証拠文書を引き出して見せたことがある。
  そこで自分は、ス大統領に対して、次のステップは、ブル国における汚職蔓延に対する反対キャンペーンを起こすことだと勧奨した。より健康的な経済成長の道を歩むために。

9.汚職撲滅運動は、蔵相が陣頭指揮を執り、更にこの蔵相の業績には、高給で報いるべきだ
  悲しいことに、それ以来も、(汚職に関しては)何ら改善はない。自分は、ボリーソフ首相が、シメオン・ジャンコフ(Simeon Dzhankov)蔵相に対し、汚職対策に関して全権を付与すべきだと思う。そして、同蔵相に対しては、「顕著な業績に対しては、最高級の給与」を保証すべきだ。まさしく、同蔵相は、新しい責任(汚職対策)において、それに見合うような高給を与えられるべきなのだ。

  懐疑的な人々に対しては、シンガポールの例を挙げるべきであろう:同国では、蔵相の年俸は120万ユーロに相当している。そしてこの年俸による成果と言えば、過去2年間シンガポールは、「ビジネス環境指標」で第1位の地位を占めているし、汚職はほぼゼロなのだ。
  今こそブルは、同国最大の問題である汚職対策に、真剣に取り組むべき時なのだ。

   【小生注:先進国米国の学者としてのHanke氏には、旧共産圏諸国、或いは、バルカン半島国家としてのブルガリアで、汚職、その他の犯罪行為を取り締まることがいかに困難か、と言うことに関して、理解力が足らないように思う。シンガポールは、そもそも、リー・クワンユー氏という中国系政治家が、1959年6月以来超長期にわたり独裁的に指導してきた(今も生きて、影で院政を敷いている)国家で、リー氏の方針を貫徹できる基盤が十分に育っているから、汚職撲滅、などの政府方針を徹底させることが可能なのだ。必ずしも、蔵相の年俸が高いせいではない。

  しかし、急激な社会変化を遂げた旧共産圏では、社会の中の主導的な勢力は、例えばロシアの場合、旧秘密警察組織KGBだ。ブルでも、ある意味似ていて、旧共産体制の基盤を最後まで支えた秘密警察DSと、DSと同じ内務省組織であった「旧警察組織」が、自由化後の経済の民営化、マフィア化を主導してきたのである。

  そして、警察官僚の一人として、自由化後も「台頭」したのが、現在のボイコ・ボリーソフ首相なのだ。ボ自身、自由化後の混乱期には、警備会社という、典型的なマフィア企業のオーナーだったし、この警備業を通じて、シメオン元国王の政権で、内務官房長(制服組トップ)となり、メディア報道操作で人気者となり、その後は、ソフィア市長、首相にまで昇進している。
  つまり、ボ首相そのもの(ジャ蔵相の上司)が、マフィア界の頂点にある存在とも言われているのであり、簡単に「犯罪、汚職」対策が、現政権下で実行されうる可能性は低いのである。既に経済面で先進国となったシンガポールと、未だに共産圏時代の負の遺産を引き継ぐブルなどの国家を、簡単に同一視はできない。

  また、再び来年夏にBSP(社会党、旧共産党)政権が誕生したとしても、そもそも旧共産党時代末期の国家を主導していたのは、旧警察・DS若手将校として、裏から国家を牛耳りつつあり、マフィア組織すら支援して育てていた、そういう旧内務省系人脈(共産政権時代は、若手・下級将校として現場を仕切った人々)であり、彼らの一部が、自由化後にBSPから離れて、SDS(右派政党)、或いはGERB党(中道右派)などを結成したとはいえ、実のところ、今のBSP幹部達と、さほど距離の離れた人々ではない(一昔前は、同じ穴の狢たち)のだ。

  つまり、ロシアで、旧KGB要員が政権を執っているのと、今のブルで、警察官僚出身者達が、経済も、政治も牛耳っているのは、同根なのだ。汚職、各種犯罪共に、彼ら「元来が、力の省庁出身者」達が、社会主義時代に裏から社会を支配していたときの手法が、そのまま生き残っていると言うべきで、これを排除して、完全な民主主義となるのは、経済基盤を含めての、実質的な社会変革が完了するまで、後数十年はかかる道のりなのかも知れない。所詮は、顔とコネが優先する、社会主義時代、或いはそれ以前からの、バルカン半島社会の「伝統」(法治社会でなく、人治社会)が変化しない限り、汚職という「悪習慣」は終わらないだろう
。】

  

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