ブルガリア研究室

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zoom RSS 新聞記事切り抜きから見る国際情勢(2015年1月)

<<   作成日時 : 2015/03/11 12:10   >>

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 さて、現在小生はブルガリアの祝祭日に関わる伝統などに関する著書を徐々に翻訳するという、地味な作業をしている。ブルガリアに関する研究を生涯のテーマとしている小生にとっては、こういうブルの基本的な文化、伝統を知ることも、決してマイナーで、マニアックなテーマではないし、結構これまで長らく暮らしてきた国(ブル)に関しても未知の領域があることを知り、難しい翻訳を手掛けることで知識が拡大することは楽しい。
  とはいえ、一般の読者にとっては、知っても何らの利益にもならない、マイナーで、トリビアで、マニアックな話と言うこととなろう。
  もっとも、元来そういう「一般読者」が多いブログではないし、小生が意図している目的も、ブルに住んでいながらも、決してブル理解が深いとは言えない人々、今ブルに関して勉強している人々に、有益な知識を提供したいということで、元来がマイナーな読者が対象なのだ。
  前置きが長くなったが、今日は、小生が自分のために行っている新聞記事切り抜きで、最近注目した記事をご紹介して、「一般読者」にも少しお役に立ちたいということ。1月前半における記事で、小生が注目した記事を下記に示す。

1.田久保忠衛:『「棍棒」外交の意味を問い直せ』:1月6日付産経正論欄
  記事の2/3ほどは、オバマ大統領の「世界の警察官」役放棄宣言に見られる米国の内向き傾向の解説だ。特に、ホワイトハウスで権限を握ったデニス・マクドノー大統領首席補佐官、スーザン・ライス同補佐官(国家安全保障担当)の両名が「壁を作って」国防総省、国務省との風通しが悪くなり、ホワイトハウスが機能不全に陥っているという分析。

  最後の1/3の部分が特に興味深いので下記に要約する:
   戦後の冷戦は、ベルリンの壁崩壊を機にソ連帝国が74年間で歴史の幕を閉じた。代わって登場したのが1+6の国際秩序だ。「ハイパー・パワー」の米国と、その下で日本、中国、ロシア、英、仏、独の6プレーヤーがそれぞれの役を演じてきた。
   しかし、この1+6の時代も長くは続かなかった、中国、インド、ブラジルなどが国力を増大し、特に中国はあっという間に米国に次ぐ世界第2の経済力、軍事力を付けてしまった。
   米国は国力を維持し続けているし、移民などによる人口増で主要国が抱える少子化問題に悩む必要性は無い。更にシェール革命でエネルギーは自立から輸出国に転じる勢いがある。しかし、他の諸国の国力増大があるから、総体的な国力低下と言う状況。
   だが、オバマ大統領は、イラクから撤退し、16年にはアフガニスタンからも撤兵する。海外で棍棒を使いたくないという大統領の気持ちは強く、国防長官に政権4人目となるアシュトン・カーター国防長官が指名されたにもかかわらず、内向き傾向は少なくともあと2年は続くであろう。
   米国にべったり寄りかかって棍棒を軽視してきた日本が何をすべきかは、おのずと明らかだ。
    (小生注:「棍棒」論とは、20世紀初頭にセオドア・ルーズベルトが展開した「でっかい棍棒を片手に、猫なで声の外交」と言う政策のこと。日本国が、対中国自主防衛能力を強化して、自らはっきりと中国の太平洋への進出を食い止める覚悟をせねば、内向きの米国は助けに来ない、と言うことを言っているのだ。)

2.『伝統重視と親米強化のジレンマ、首相の経済政策は保守とは言えない:佐伯啓思(けいし)・京大教授に聞く』:1月6日付朝日新聞
  佐伯:師走の総選挙で大勝した安倍政権だが、本来安倍さんを支持する保守層に躊躇がある、なぜなら、安倍政権は保守層にとっても分りづらい部分があるからだ。保守とは、社会秩序をできるだけ安定させていく、変革するにしても徐々に、緩やかにやるというのがあるべき姿。
  ところが、アベノミクスを見ると、小泉純一郎元首相の破壊型の構造改革路線を継承している部分がある。やり方が急激過ぎて地域格差が開くし、所得格差も拡大する・・・社会秩序の安定性が崩れていく。
  他方で、安倍さんには日本の伝統に基づく道徳教育重視と言う側面とか、アメリカに押し付けられた憲法への疑念もある・・・心情においては保守だ。
  しかし、第一次安倍内閣で主張した「戦後レジームからの脱却」と言う路線、アメリカの占領政策から始まった「戦後」を見直そうという方向、そういう旗は降ろした。グローバル経済の中で競争力を付け、市場競争に勝たねばならないと考えているからだ。だから、規制改革、構造改革路線を進め、成長戦略で技術革新を生み出そうとする。こうした政策は、むしろ進歩主義で、保守とは言えません。

  日本はポツダム宣言を受け入れ、アメリカ的な歴史観を受け入れた。そしてアメリカと同盟を結んで国際社会に復帰した。自国の防衛もアメリカに委ね、アメリカ的な価値を受け入れることで戦後日本が成り立った。しかし、自由や民主や人権の不変性を世界化するというアメリカの価値観は、もともと進歩主義です。それを誤解して、アメリカとの緊密な関係を築くことが保守だと思ってしまった。
  ところが、米国との関係を強化すると、日本の文化的なものや社会の基層にあった共同体が壊れていく。他方、アメリカ的なものを受け入れたからこそ、国際社会に復帰でき、経済大国なったとも言える。現実的には、日米関係を断つわけにもいかない。難しい問題です。

  私は、国民の意見を政治に反映させることを無条件でよしとする、戦後民主主義の考えは間違っていると思う。
  高度経済成長期なら、国民がある程度同じ方向を向いていたが、経済成熟期になると国民の意志も利害もバラバラで「国民の意思」など定義できません。選挙はただ政権の正統性を保証するための手続きです。
    (小生注:朝日記者の質問部分(短い)は削除し、佐伯氏の意見のみ要約した。佐伯啓思教授は、実は産経新聞第1面でシリーズ的にコラムを担当している社会経済学、経済思想史の学者であり、この人物(保守派と言ってよかろう)を朝日新聞が第4面で大きく取り上げたことは不思議だ。とはいえ、このインタビューによれば、佐伯氏は日本の保守層が進歩主義の米国と歩調を合わせていくことの困難性を強調しているとも言えるので、朝日の視点からも興味があったのかも。
   小生としても、日本の戦後史の困難な側面の基盤はここにあったのか、と改めて哲学的な思考の重要性に気づかされる思いでもある。
   日本の古い歴史を感じられる観光地(京都)とか、伝統的な料理などは、欧米の人々にも人気があるし、小生の知る限りは、欧米人は「日本が侍と芸者の国」で、現代的でないことを望むという人々にも多く出会ったが、日本人自身は、サムライとゲイシャ、フジヤマなどの水準にとどまっては貧しいままで、現実的にはありえない話で、欧米側の勝手な期待と思うが、他方で、欧米の価値観とある程度はすり合わせていかないと、経済面での成長路線もあり得ないということになる。
   グローバル競争で勝ち抜いて、経済を強くしつつ、他方では、対中国国防体制の整備(特に南西諸島で)という方向でも油断せずに着々と手を打つ必要性がある。米国との矛盾に悩み、苛ついている暇などは無いのだ
。)

3.山口昌之:『イスラム国とクルド独立』:1月12日付産経紙1面コラム記事
  ISの台頭に隠れて目立たないが、中東における大きな変動が着実に進んでいる・・・それは、国を持たないクルド人が、北イラクを中心に独立国家への道を歩んでいることだ。

  ISは2014年8月にイラクの「クルド地域政府(KRG)」への本格的な攻撃を始めたが、それはトルコ、イラン、シリア、イラクに分散しているクルド人に国民形成と国家建設を促す大きなきっかけとなった。しかも、KRGを北イラク地方の自治政権から、米欧にとって国際政治に死活的な存在にせしめる触媒にもなった。
  KRGとISは、イラクとシリアにまたがる地域を迅速に占領することで、国際的に承認された既存の国境線をぼやけさせ、イラクとシリアの分裂が残した政治的真空を満たそうとしている。

  そもそもISがKRGと衝突したのは、昨年6月にISがイラクのティクリットとモスルを占領した同じ月、KRGがISの狙う石油地帯キルクークを占領したから。イラクのクルド人支配地域が40%ほど拡大するに及び、ISにとってクルドとの対決こそが主要軸となり、バグダッド政府やアサド政権はゲームの脇役に追いやられた。
  ISは6月に指導者バグダディをカリフ(預言者ムハンマドの代理人)とするイスラム国家の建設を宣言した。こうしてシリアとイラクとの国境が無視されると、領土的に新たな「無人地帯」が現れた。それはクルド人とISが影響力を競いあう地域と言い換えてもよい。

  国境線の希薄化はクルドにも利点がある。12年夏にシリアのクルド人地域(ロジャヴァ)は事実上の自治を獲得し、KRGとの協力と新たな共通国境を模索した。ISによるKRGとロジャヴァへの攻撃は、対立していたシリアとイラクのクルド人に共通の敵と対決する必要性を痛感させた。
  この機運は、4国にまたがるクルディスタンの全体に広がった。イラン・クルディスタン民主党の部隊は、KRG国防相の指揮下にあるアルビルの南西地域に派遣され、トルコのクルディスタン労働者党とそのロジャヴァにおける直系組織たる人民保護軍は、女性も含めてシリアとイラクでISと戦っている。

  一番大きな変化は、長くイラクの一体性を主張してきた米国で起きた。オバマ大統領は、ISに対抗するクルド支援の必要性に寄せて、イラクと別にクルドの名前を明示的に挙げるようになった。有志連合による空爆は、不活発なイラク国防軍のためではなく、戦場のクルド部隊のためなのである。有志連合はKRGに依拠する以外に、対IS地上戦略の足がかりが無いのが現状なのだ。
  クルド民族は、彼らの歴史と伝統において異次元の世界に入ったと言えよう。その独立国家宣言は、時間の問題のように思える。
    (小生注:近代史、現代史の中で、未だに「民族自決」の機会を掴めていなかったクルド人たちに、いよいよ国民国家形成、独立へのチャンスが生まれている・・・と言う分析だ。小生もこの山内教授の指摘を読むまでは、この重大な中東情勢変化を見落としていた。ISというテロ組織は、何れ消滅の可能性が強いが、他方でいったん列強の有志連合に協力した形となったクルド人には、独立の好機が巡ってきていると言えるのかも。)

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
こんばんは。

 佐伯啓思という人物は初耳ですが、産経に寄稿している学者を朝日が取り上げたのは意外ですね。朝日も右派に媚びるようになったのか、または右派にも理解を示すフリをしているのやら。

 山内昌之氏によるクルド情勢分析も興味深いですね。暫く前にmottonさんも、クルド独立の可能性について触れていました。尤もサイクス・ピコ条約で確定した国境線の変更は、中東に激しい民族・宗教対立や大量虐殺を引き起こす危険性もあると、池内恵氏が指摘していました。オスマン帝国末期の各地での民族・宗教紛争の再燃ということです。

 前回、書くのを忘れていましたが、巨大虎猫氏への忠告を有難うございました。あの人物は研究者と強調していますが、私はネットによくいる詐称研究者だろうと見ています。昨年末からは外国語を読めるとも言っていますが、そんな者がブログを開設せず、さほど人気のあるとは思えないサイトに入り浸っているのはおかしい。

 何度も某集団からの迫害という同じ話の長文コメントを繰り返していたし、認知症でもない限り、このような傾向は精神を病んでいる疑いもあります。彼が入り浸っているブログでのコメントに、「私は、過去におびただしい数の精神疾患者とお付き合いしてきましたので」という意味深な一文がありました。
mugi
2015/03/13 21:15
こんにちは、
 また、新聞切り抜きの整理をしているのですが、気に入った生地は上記の3つでした。佐伯啓思氏は、結構頻繁に産経1面でコメントしている人なので、小生もびっくりしました。安倍総理の経済政策に関しては、日本円の強引な増刷で円安を引き出し、株価を操作して株高を作り出す作戦で、大企業を再生させることには成功しているけど、日本国民の、特に高齢層の貯蓄資産を円安とインフレ傾向で破壊しつつあるという意味では、怖い戦略だと感じています。ユーロ安もそうですけど、先進国の経済を復活させるためには、ユーロの増刷で、ドル高を裏支援しているという側面があり、円増刷も同じで、やはり米国のドル札を支援しているという裏の側面も気になる。結局米国の衰退を挽回してやって、大国としての米国を復活させ、世界情勢を多極化から一時先進国主導へと、逆転させている・・・日欧が米国を救済している、という構図に見えます。
 歴史の展開を遅らせ、米国主導の時代を長引かせ、ロシア、中国の台頭を食い止めるという、そういう大戦略なのではないか??と言うのが、小生の勘繰りです。
室長
2015/03/14 14:50

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