在ブル・アルメニア人の祭日:4--8月期

   さて、今回は、ほぼ4--8月期に祝われる在ブル・アルメニア人たちの祝祭日を取り上げる。順番で言えば9--14番までだ。

9.Avak Shapat(Velika Sedmitsa=偉大な週)
(1)由来
  聖枝祭から復活大祭までの1週間をアルメニア人たちは「偉大な週」と呼ぶ。この週に起きた種々の偉大な出来事に因んでの名称だ。ブルではこの1週間を「Strastna sedmitsa(ブル語直訳:激情の週、英語:Holy Week、或はPassion Week=受難週間)」と呼ぶ・・・これはフリストスが経験した試練・苦難に因む名称だ。

(2)各曜日における教会の典礼儀式
(ア)Avak Yergoushapti(Veliki ponedelnik=聖大月曜日)
には、福音の物語が読まれる・・・キリストが呪詛したイチジク(これは、救世主を認知できなかった「あのユダヤ人達」を象徴している*)の話だ。
  【*原注:マタイ伝21:18—43・・・小生注:長くなるので、引用は省略するので、http://www.jw.org/ja/%E5%87%BA%E7%89%88%E7%89%A9/%E8%81%96%E6%9B%B8/nwt/%E5%90%84%E6%9B%B8/ で、ご自分で参照してください。】

(イ)Avak Yerekshapti(聖大火曜日)には、ファリサイ派(中産階級手工業者を中心とし、戒律を厳しく遵守する宗派)とサドカイ派(裕福な司祭階級中心の、モーセ五書のみを重視した宗派)の人々が、フリストスの言葉から戒律違反の部分のみを発見しようとした努力とか、最後の審判、などに関する話、及び10名の処女に関する寓話などが読まれる。
   【原注:①マタイ伝25:1—46、②マタイ伝22:15—22。】

(ウ)Avak Chorekshapti(聖大水曜日)には、フリストスに高価な香油を注いだ無知な女を想起する*。
     【*原注:マタイ伝26:6-16。】
  更には、福音書のヨハネ伝12:17-50は、救世主に待ち受ける受難と死を準備するのだ*。
    
(エ)Avak Hinkshapti(聖大木曜日)は、種々のお祭り行事が一番豊富な日だ。夕刻の礼拝で一番重要なことは、Vodqnlqv、すなわち使徒たちの足をフリストスが洗う儀式だ・・・12使徒になぞらえた12名の少年の足を洗うという象徴的な儀式。次いで、聖体拝領(Prichastie)の基礎となる機密、ゲッセマネの園におけるユダによるフリストスの(ユダヤ教司祭らへの)引き渡し、雄鶏が鳴く前に、ペトロは3回、フリストスのことを知らないと否定するだろうとの予言。
  【原注:①マタイ伝:26:69-75、②ヨハネ伝:13:3-17、③マルコ伝:14:32-461、④ルカ伝:22:1-39。】

(オ)Avak Urpat(聖大金曜日)は、クリスチャンにとっては聖なる日だ。フリストスの受難・・・磔刑と埋葬を追憶する日なのだ*。
  ちなみに、この金曜日の典礼(Tahum)は、フリストスのお棺の下を通る。なぜなら、こうすれば健康に恵まれると信じられているから。信者たちは、教会での儀式に来れない人々の衣服とか、或は所持品を持参する他、お棺の上に花を置き、他方お清めを受けたものを家に持ち帰る。
  【*原注:①マタイ伝:27:1-61、②マルコ伝:15:1-47、③ルカ伝:22:1-39。】

(カ)Avak Shepat(聖大土曜日)は、イイスス・フリストスの埋葬と、地獄において苦しんでいる魂を救うための地獄への往訪が想起される。

(3)伝統、習慣
  上記の聖大土曜日午後における盛大な奉神礼においては、既に19時の段階で「フリストスの復活」が宣言される。アルメニア教会では、この早い時間帯を維持しているが、そのことは実はオスマン朝時代において何世代(何百年)もの期間(イスラム教の伝統に従属して)、早目に儀式を終了して帰宅せねばならなかった(遅れることは許されなかった)、そういう記憶に忠実に奉神礼を実行しているからだ。

  なお、アルメニアの家庭でも、木曜日の段階で鶏卵を色々な色彩で染めていた。最初に赤く染めた卵では、まず小さい子供たちの顔を撫でて、その後は全ての家族たちの顔を「赤い、赤いイースター!神よ我々に健康を与えよ!」と唱えつつ、撫でまわすのだ。鶏卵を染めるのは日没後である。一つの白い鶏卵を取り上げ、これに赤い染料を散りばめる・・・これはフリストスの血液を象徴しているのだ。

  金曜日の夕刻・・・すなわち磔刑を記念する金曜日(注:ブル語:razpeti petqk、英語:Good Friday)には、(アルメニア教会信者の)主婦たちは、kozunak(Easter cake)を作る。ちなみに、ブル人家庭の場合は、普通土曜日にkozunakを儀式用丸パン(pogacha)と一緒に作る。他方、アルメニア人の風習では、儀式用のパンは無い。アルメニア式では、小麦粉と塩と水のみを使って極めて薄い、ほぼ透明に近いほどの皮を作るのだし、この皮が全ての祭日用でもあるし、(葬式後の)精進落とし(pomen)用でもある。この皮を、細かく砕いて、その砕片を手で拾って食べるのだ。

(4)伝説
  アルメニア人の伝説では、フリストスが十字架を担いでGolgotaの丘に向かって歩いていた時、側面から同人に向けて卵が投げつけられたという。そして、復活の日に人々が鶏の巣から卵を取り上げてみると、鶏卵には血がこびりついていたという・・・神は、人々にイイススの血が流されたことを示されたのだ。
  この故に、昔は、復活祭の時に鶏卵を染める伝統は守りつつも、最初の卵に関しては、「白地に赤い大きな跳ね返し」と言う形式で染められた。しかし今では、卵全体を赤く染めるとか、或は、幾つもの色彩(染料)を使って彩り豊かに、斑に染める、と言うことが普通となっている。


10.Hartyun Zadig(Vqzkresenie Hristovo=フリストスの復活)
(1)由来
  アルメニア教会では、Dahavarと呼ぶ5つの大祭(五大祭)がある。
   (小生注:東方正教会系では12の大祭が存在する。高橋保之著『ギリシャ正教』(講談社学術文庫、初版1980年、1990年第10刷版)によれば、十二大祭として次が挙げられている:生神女誕生祭、十字架挙栄祭、生神女進堂祭、降誕祭、神現祭(洗礼祭)、主の進堂祭(迎接祭)、生神女福音祭、主の変容祭(顕栄祭)、生神女就寝祭、聖枝祭、主の昇天祭、五旬祭(至聖三者の主日)。)

  そして、これら大祭の中でも一番の大祭がキリストの復活である。この故に別称としてMedz Zadig(大きな祭り)とも呼ばれる。ブル人と同じくアルメニア人たちも、復活大祭は3月21日以降の日曜日で、満月直後の日曜日に祝うし、具体的な日付は毎年変動する。

(2)風習
  復活祭においては、アルメニア家庭では特に何らかの特殊な風習は存在しない。普通は、名付け親のところにお客として出かけ、贈り物としてKoznatsi(イースターケーキ)と赤く染めた鶏卵を持参する。
  教会では、豪華な典礼が執り行われ、出席できるものはできるだけ参加するし、子供たちもつれていく。

(3)復活大祭の日に、名前の日を祝う洗礼名
  Harutyun、Arto、Harut、Artin。

11.Hampartsumqn Krisdosi(Vaznesenie Hristovo=フリストスの昇天祭)
(1)由来
  アルメニア人たちは、「主の昇天祭」を4月30日~6月3日の期間・・・復活祭から35日以内に祝う。
  アルメニア教会の教えによれば、昇天の前にフリストスは、弟子の使徒たちに異教徒のところに出向き、自分の教えを布教せよ、そして彼らを洗礼せよとの使命を伝えた。その後、驚いた表情の使徒たちの眼差しの前で、地上から離れ、昇天していった、という。

(2)風習
  昇天祭は、別名Vidzhatとも呼ばれるが、この日には娘たちによる「指輪の歌」の儀式が行われる。この「指輪の歌」の儀式は、ブルでは、各地で、それぞれ異なった日に行われる:新年(1月1日)、Gergyovden(聖ゲオルギーの日、5月6日)の前日、或はEnyovden(ヨハネの日、6月24日)の前日。

  祭りの衣装を着け、花を頭に飾った若い娘たちを集める。白く輝く銅器の皿(menche)の中に、指輪(prq'sten)、耳輪(obitsa')、その他の装身具(ukrashenie、全て複数形)を入れる。小さい少女を選び、花嫁のように美しく着飾り、この少女に皿から装飾品(na'kitite)を選ばせる。
  占いするのは、紙に書かれた短詩である。小娘が指輪を拾う前に、例えば、短詩を読み上げる・・・まるで予言のように・・・その指輪などの持ち主の運命を予告するかのように。

  既に述べたように、昇天祭は普通は春の真ん中頃で、この故に、上記のような「指輪の歌の儀式」は、アルメニア人の娘たちが、近くに川が流れる、広い原っぱで行われていた。ブル人娘たちの習慣では、この風習は普通十字路とか、村の中の広場(megdan)で行われた。

12.Hokekalusd(Sveti Duh=聖霊降臨祭、五旬祭)
(1)由来
  この祭りは、復活祭から50日目のお祭りだ。伝説とルカ伝によれば、この日には、全ての使徒たち、聖母、聖母の親戚の女性たちが、一つの家に集まった。御祈りを捧げようとしていたその時に、火の舌(ogneni ezitsi)の形をした聖霊が降臨した。

(2)習慣
  11世紀までは、このお祭りは一日の間祝われただけ。しかし、カトリコスNerses Shnorhaliの時に、このお祭りを拡張して、1週間祝うこととした。また、この祭りのために、特別の「聖歌交唱(tropar=英語:antiphon)」を創作したという・・・聖霊を称えるための聖歌と祈祷文だ。

13.7月14日:Aylagerbutyu Krisdosi-Vartavar(Preobrazhenie Gospodne=主の変容祭)
(1)由来
  新たに洗礼を受けてキリスト教徒となったアルメニア人をキリスト教世界に近づけるための工夫として、当時は他の地域でも同じようなことが行われたのだが、幾つもの偶像崇拝時代のお祭りをキリスト教のお祭りと結び付ける試みが行われた。かくして、自然崇拝期のVartavar祭は、キリスト教の変容祭と合体された。
  東方正教会とカトリック教会がこの変容祭を8月6日に祝うのに対し、アルメニア教会では、7月14日、及び7月末頃の他の日に祝う。
  その昔、アルメニアでは、Bartavarの祭りは、新年の月であるNavasaratに祝われていたという。また、基本的にはバラと花(複数形)のお祭りであったらしい。そして、Anahidという女性神(boginya)に捧げられるお祭りでもあった・・・彼女は、豊饒と感情の庇護神だった。更には、もう一人の女性神Asdhigにも捧げられていた・・・彼女は美と愛の庇護神だった。この日には、人々は花輪を編み、二人の崇拝された女神の彫刻を飾りたてた。また、6--7日間もお祭りは続いたという。

(2)風習
  今日、このVartavar祭りは、在ブル・アルメニア人たちによって、若さと愛とバラの日として祝われている。すなわち、スポーツ競技が行われ、バラの花で身を飾るほか、水をかける・・・かくして、昔は農業の収穫祭として、騒々しいお祭り行事があった頃を記憶しているのだ。

(3)この日に、名前の日を祝う洗礼名
  Vart、Varteres、Vartkes、Vartavar、Badrit。
  女性名としては:Alvart、Anahid、Baydzar、Varvara、Varvarig、Vartuhi、Vartig、Varto、Zarvart、Lusvart、Navart。


14.8月15日:Surp Asdavadzadznin Nqvirvadz Doner(Uspenie Bogorodichno=生神女就寝祭、聖母昇天祭)
(1)由来
  8月15日、在ブル・アルメニア社会及びアルメニア教会は、盛大に、聖母が息を引き取った日を祝う。この日は、大祭=Dahavarの一つだ。

(2)風習
  アルメニア教会では、庇護聖人として聖母の名前を冠する例が多い。従って、この日には、Madah(ブル語のkurban、すなわち羊肉の塩ゆで料理)を作る。更には、この日に盛大なお祭りを祝わねばならない教会の立場に配慮して、多くの国内外のアルメニア人は教会に寄進する。金銭を寄進するのだ・・・この資金でkurban用のoven(去勢されていない雄の羊)を買い付けることができるように。
  お祭りは金曜日、或は土曜日早朝から開始される。まず最初に、kurbanに使用する塩をお清めする。塩で、犠牲に供された動物を温存させるのだ。まず雄羊に祈祷を捧げ、その後屠殺する。雄羊の血液で、病人、妊娠中の女性、及び子供たちの額に十字の印を描き、健康を祈る。
  Kurbanは、水と塩のみを使って茹でられる。
    羊肉がしっかり茹であがったら、肉汁(羊肉スープ)を特別の濾過機でしっかりと漉して絞り出し、肉が乾くのを待つ。そこで羊肉は細かく裁断し、肉片をパン、或は丸パンの切れ端に乗せ、しっかりと紙で包装される。この包まれた羊肉は、大きな皿に載せて、翌日の典礼を待つ。
    羊肉スープ(Bouillon、ブイヨン)を欲しいという者には、スープを分け与える。人々は、このスープは、清められた水で茹でられたから、治療的効能があると信じているのだ。

  典礼(奉神礼)は、盛大なもので、コーラスを伴う。儀式の最後には、寄進した人々の名前が読み上げられ、その後包装されたkurban肉が配布される。
  教会での儀礼を終えたら、お祭りは家に移り、家には客人が来訪する。

(3)この日に名前の日を祝う洗礼名
 Mariam、Maritsa、Markarid、Denchali、Dirug、Iskuhi、Verzhin、Lesaper、Lusine、Pergreg、Sqrpug、Surpig、Takuhi、Takug、など。

(4)その他の聖母関連祭日
  アルメニア教会は、上記の「聖母昇天祭」の他に、①「Razhdaneto na Deva Mariya=処女マリヤの生誕祭(英語:Nativity of the Blessed Virgin Mary)」を9月8日に、特別の典礼で祝う。ちなみに、東方正教会(注:東方正教会では「生神女誕生祭=Malka Bogoroditsa」)、カトリックも、同じく9月8日に聖母の誕生日を祝う。
  ②Blagoveshtenie(聖母受胎告知)は、4月7日に祝う(東方正教会では、「生神女福音祭=Blagoveshtenie」と呼ばれ、3月25日)。
  また、③「Vqvedenie Bogorodichno=聖母(生神女)進堂祭」は、東方正教会と同じく11月21日に祝われるが、この祭典は教会内の行事に留まる。 

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この記事へのコメント

2015年04月01日 16:59
はじめまして、ロシア人青年のセルギエンコ ニキータです。

昨日メッセージを送りました。届いたか心配ですが...

私は昨日このブログを見つけました。
ベラルーシの事を知りたく室長様のブログをお読みになり、大変ご参考になり、今後ベラルーしの経済について知りたく、室長様にコメントさせて頂きましたしました。



よろしければ詳しくお聞きしたくお返事を頂けたら幸いです。


セルギエンコ ニキータ
2015年04月03日 00:37
セルギエンコさん、
 ようこそのこのブログに。残念ながら、小生がベラルーシにいたのは、今から15年ほども前の話で、その後は行っていないので、同国に関し、新しい話はできません。
 まあ、ロシア人なら、ベラルーシのことに関しては、小生よりずっとお分かりのはずでしょう。ロシア語でベラルーシの新聞のネット版も読めるはず。あいにく小生はロシア語は苦手です(ブル語からの類推で少しは分るけど)。

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